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第一回第二回第三回第四回補遺(参考:立花隆『論駁』より))。



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2022年11月28日

戦車に乗る首相
相が戦車に乗ってポーズをとる。これはいつ、誰から始まったのか。安倍晋三以前の首相たちがそういうパフォーマンスをやったかどうか。私の知る限りはない。「自衛隊の最高の指揮監督権を有する」(自衛隊法7条)ところの首相には、「文民」でなければならない(憲法662項)という立場から、制服(ユニフォーム)は着ないという矜持があったかどうか。自衛隊の観閲式への参加すら好まなかった田中角栄元首相は、そうしたパフォーマンスをやるはずはなかった(直言「田中角栄の演説の「間」」参照)。

   いずれにしても、歴代首相が、迷彩服を着て戦車に乗るというような行為とは距離をとってきたことは確かだろう。「無知の無知の突破力」の安倍晋三は、そうした首相たちとは明らかに違っていた(直言「馬鹿が戦車でやって来る参照)。菅義偉前首相は、航空自衛隊のF4Eファントム戦闘機のコックピットでポーズをとったが、戦車には乗らなかった。しかし、冒頭左の写真のように、岸田文雄首相は制服を着て、笑顔で10式戦車に乗っている。宏池会の歴代首相たちと岸田との違いを象徴する一枚である

  なお、防衛大臣の時に迷彩服を着て戦車に乗って悦にいっている人物もいたが、彼だけは首相にしてはならない。ちなみに、菅直人首相(当時)は大震災直後、福島原発にヘリで向かう際に迷彩服を着たことがある(拙稿「緊急事態における権限分配と意思決定」536頁写真3参照)。ドイツでは経済大臣が軍服を着たことで問題になった(直言「大臣の「一挙手一投足」――軍服を着た独副首相」参照)。ドイツのショルツ現首相は自走対空機関砲に乗ったが、背広のままだった。

  岸田首相は、安倍晋三と同様、制服姿で戦車搭乗というところが際立っていた。冒頭右の写真は、定期購読している『南ドイツ新聞』1122日付の政治面で、タイトルは「ドミノ倒しのように辞任する閣僚」である(この点では1次安倍政権末期に似たり)。プロンプターに顔をすっぽり入れて撮影した写真を使い、「型にはまった首相」というイメージを出したかったのだろうか(デジタル版はこの写真を使用せず)。記事には、「実際、岸田文雄は今、いつまで総理大臣を続けられるかわからないほど、ひどい状態になっている。…岸田の問題は、暗殺された安倍晋三の遺志を継いでいるようにみえる。…穏健派の岸田と違い、安倍は自民党の保守派の中でも最も過激なアイドル的存在であった」とある。岸田首相が安倍の「遺志」を継承しているように見えるのは、党内の派閥力学によるものと思っていた、このところ、岸田自身が「敵基地攻撃能力」などに本気で取組み始めたようである。「検討を加速」だとか「丁寧に説明」などといった言葉が浮遊する先に、かなり危うい状況が見えてきた。


日米の軍需産業を代弁する報告書

1122日、政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の報告書が首相に提出された。メンバーの10人は、座長が元駐米大使で、メディア(朝読日経の幹部)や企業のトップがほとんど。研究者は、17年前に大阪弁護士会のシンポジウムでご一緒した中西寛・京大教授だけである。「国力としての防衛力」という表題は、この種のものとしては初めてだろう。憲法によって抑制されてきた「防衛力」を「国力」にまで高め、国のさまざまな機能や財政力を集中していく。他方、安全保障や憲法、経済や財政などの専門家は排除して、軍需産業の企業論理だけで、一国の安全保障を論じている、非常に偏った報告書といえる。ここまでバランスの悪いものを、内閣の下で出すというのは、この内閣の歪んだ性格を端的に示しているとはいえまいか。

  報告書はまず、「防衛力の抜本的強化」の方向と内容について、「5年以内」と明確に期限を切り、7つの柱を打ち出している。そのうちの3つ、すなわち、「スタンドオフ防衛能力」、「総合ミサイル防衛能力」、「無人アセット防衛能力」(無人機や無人潜水艇など)は、その調達に新たに莫大な予算措置が必要となる(各種のミサイルについては後述する)。

 報告書を読んで驚いたのは、防衛装備品移転三原則等による制約をさらに取り除き、日本の武器を他国に売り、「防衛産業が行う投資を回収できるように」と、軍需産業のプレゼンのような書きぶりになっていることである。コロナ禍でさまざまな産業が苦しんでいるなかで、「防衛産業を持続可能なものにしなければならない」というのも、あまりに露骨ではないだろうか。

そして、防衛産業の「投資回収」にもなる「防衛力の抜本的強化の財源」として、「今を生きる世代全体で分かち合っていくべき」と書き、「国民各層の負担能力や現下の経済情勢へ配慮しつつ」として所得税増税を示唆するとともに、「負担が偏りすぎないよう幅広い税目による負担が必要」として、明らかに消費税の増税を前提とした叙述になっている。歳出については、防衛関係費を「非社会保障関係費」と位置づけ、防衛を「国民全体で負担」していくとしている。社会保障関係費を削減して、これにあてることが想定されていることは明らかだろう。報告書は、後述するように、高額の米国製ミサイルを大量に購入するという点で、日本だけでなく、米国の軍需産業の振興策の側面も有しているといえよう。
  さらに報告書は、公共インフラを、安全保障目的で「利活用」すると明言している。社会を含めて総合的な軍事化をはかり、日本を軍事大国化していく方向性がおおらかに打ち出されている。

 

7カ月前の経団連の提言――本音の突出

「有識者会議」報告書の7カ月ほど前の412日、経団連(日本経済団体連合会)が、「防衛計画の大綱に向けた提言を出していた。

「わが国としての外交・安全保障政策のもとで、防衛産業は国防を担う重要なパートナーであると位置付け、防衛産業基盤の整備・強靭化に資する政策を体系的に実施すると表明する必要がある。特に、防衛計画の大綱はわが国の防衛の基本方針を示すものであり、防衛産業政策が安全保障政策の構成要素の一つであることを明記すべきである。中期防衛力整備計画においては、適正な予算の確保について明記することが求められる。」

 国家の安全保障政策のなかに、軍需産業をきちんと位置づけ、予算も確保せよという強烈な自己主張である。「防衛産業政策」の具体的な中身を5つ挙げるが、そのなかで、「防衛装備品の国産化」を強調している。安倍晋三とトランプの蜜月のなかで、米国軍需産業への日本の納税者の「献金」のような爆買いが行われた。この超高額兵器の過剰な購入には、「対外有償軍事援助」(FMS: Foreign Military Sales)という仕組みが使われている。「援助」は不適切な訳で、実体は「売り込み」(セール)である。しかも、米国から「言い値」で、しかも納期もすべて米国政府まかせ、日本にこれ以上ないほど不利な条件で、高額兵器を買わされている(直言「「日米同盟」という勘違い――超高額兵器「爆買い」の「売国」参照)。

  経団連の「提言」は、「近年、海外調達が増加しているなか、FMSを含め海外から輸入した装備品のなかには、中核技術がブラックボックスとなっており、国内での修理・整備の対象とならないものがある。」と苦言を呈し、日本の軍需産業に有利になる施策を細々と提案している。安倍がトランプとあまりに密着していたため言い出せなかった、日本軍需産業側の本音が「提言」のなかに書き込まれている。このある種の率直さは、7.8事件」の一つの効果といえるかもしれない。1122日の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議報告書」が、この経団連提言を丸飲みしつつ、「防衛産業」の「投資の回収」まで先回りして配慮していることは先に指摘した通りである。

  そこで想起されるのが12年前、武器輸出三原則見直しの議論が始まった頃のことである。私は『朝日新聞』に、「武器輸出見直し論――本音に屈せず禁輸継続を」を書いた(2004814日付オピニオン面「私の視点」)。「「だって、ほしいんだもん」。玩具売り場に座り込み、おもちゃをねだる子どもの言葉ではない。以前、ある会合で私よりはるかに年配の人が口にした言葉である。大勢で相談していた時だから、その一言で周囲はかたまった。いま、この国の様々なところで、こんな「本音の突出」ともいえる光景が目につく。…」という書き出しで、当時経団連が出した武器輸出3原則見直しの「提言」を、「本音の突出」として批判した。その10年後、第2次安倍政権が武器輸出3原則を撤廃したとき、直言「「禁じ手」破り――武器輸出三原則も撤廃を出して、「準憲法的な政治的了解」(P.J.カッツェンスタイン)ともいうべき武器輸出三原則を捨てたことを批判した。岸田首相は、安倍政権下の「禁じ手」破りの蓄積の上に、軍需産業の本音実現を加速している。

まもなく公表される「安保三文書」のうちの中期防衛力整備計画では、2023年から5年間の防衛費総額を40兆円超とすることで、5年目の2027年度には、防衛関係経費の総額が、NATO加盟国の目標である国内総生産(GDP2%以上となることが見込まれている(『読売新聞』デジタル20221127日午前5時が最初に流し、それとほぼ同じ内容のことを、岸田首相が28日夜になって、財務大臣と防衛大臣に指示した[29日付各紙])。

ソ連邦崩壊後も重戦車を導入――思考の惰性

 日本やドイツの軍事・安全保障問題について調べ、執筆するようになって44年になるが、冷戦時代における防衛予算の目玉(正面装備)は戦車で、「北方重視」だった。北海道の大学に勤務した6年間、「ソ連脅威論」が主流で、メディアでも「ソ連軍、北海道上陸」がシミュレーションされていた。花形装備の戦車は、61式、74式、90式と、三菱重工特注で半世紀以上も国民の多額の税金が投入されてきた。90式はソ連の新型戦車に対応するもので、120ミリ砲をもち、50トンは重すぎて北海道以外では使えなかった。この写真は、その120ミリ戦車砲弾の薬莢底部を切り取って作った「灰皿」である。これだけでかなりの重量だ。

冷戦構造が崩れたのに90式をなぜ導入したのか。安全保障上の理由というよりも、第一義的には、三菱重工の利益と雇用の確保だった。思考の惰性により、さらに「新型戦車」の予算が簡単についてしまった。それが、2010年に制式化された「10(ヒトマル)式戦車」である。ソ連の自動車化狙撃師団の北海道上陸の想定が消えた後も、なぜ大量の戦車が必要なのか。「ゲリラコマンド対処や市街地戦闘」などの理由が当初は語られたが、かなり苦しい(直言「ヒトマル戦車と「防衛事業仕分け」参照)。自衛隊の部隊そのもののリストラも語られていた頃だった(直言「「片山事件」と北海道 ―― 自衛隊「事業仕分け」へ 」参照)

兵器の爆買いのツケは国民に

そして今、花形は各種のミサイルである。この写真は、ドイツ連邦軍のパトリオット対空ミサイルシステム(PAC-3)である。2016年のドイツ在外研究中に訪れた連邦軍軍事史博物館(ドレスデン)の野外展示にあった(レオパルトⅡ戦車が隣に置かれている)

北朝鮮の弾道ミサイルに対応するものとして、日本でもPAC-3が配備されてきたが、2022年になって強力に進められているのが、「敵基地攻撃能力の一環としてのミサイルの導入・配備である。今は、「台湾有事」をにらんだミサイル導入・配備となっている

「スタンドオフ・ミサイル」という言葉が、国会での議論もなしに一人歩きを始めて久しい(直言「年のはじめに武器の話(その2――変わる自民党国防部会の風景参照)。「相手の対空兵器の射程外から攻撃可能なミサイル」という意味なのだが、日本列島は縦深性に乏しく、日本の領域内はすべて相手国のミサイルの射程圏内におさまっている。「射程外」から敵基地を攻撃するというリアリティが問われるのに、メディアは無批判にこの言葉を流す。

直言「映画『戦争のはじめかた』(2001)のリアル――軍備強化の既視感でも書いたように、兵器というものは、戦争や武力紛争が不可欠である。「使用期限」が過ぎて使えなくなれば巨大な鉄くずになるからである。いわば「軍用廃棄物」である。高額な兵器を取得するのに、新たな存在証明が必要となる。ミサイルもすぐに改良型が必要となる。高額な兵器が、米国軍需産業の「言い値」で決まり、一方的に「いいね」が押される。

一般にミサイルといっても使用目的や機能からさまざまなものがある。防衛省は現在、主なもので5種類のミサイルを整備しようとしている。①統合空対地スタンドオフ・ミサイル(JASSM)、②12式対艦ミサイル改良型、③島嶼防衛用高速滑空弾、④JSMF35用の対地・対艦巡航ミサイル)、⑤極超音速ミサイル(開発予定)である。これらのミサイルの長射程化は著しく、12式対艦ミサイルの前身、88式は、相手の上陸用舟艇を撃破して、北海道への上陸を水際で撃退するためのものだった。しかし、いつの間にか、対艦から対地攻撃にも可能なものになっていった。そもそもSSMという場合、surface-to-ship-missilesurface-to-surface missileは同じ略語である。12式対艦ミサイルが対舟艇誘導弾から始まり、改良型は射程を1500キロまで延長するとなると、これは地対地ミサイルということになる。日本に上陸する艦艇を攻撃するミサイルという名目で導入して、相手の内陸を攻撃できる能力を保持することになる。南西諸島を防衛するための「新地対艦ミサイル(新SSM)」は、想定する射程は2500キロもあり、西日本から発射すれば、中国の内陸部にある基地にも届く長射程である。当初は島嶼防衛といっておきながら、その実は相手国の地上にある基地を狙う「敵基地攻撃能力」そのものではないか。

ここで先週の『毎日新聞』一面トップのスクープ記事が注目される。政府が島嶼防衛のために開発中の地上発射型ミサイルについて、3段階配備(南西諸島→富士山麓→北海道)が検討されているというのだ(毎日新聞』1125日付 )。第1段階として、射程1000キロ程度のミサイルを南西諸島に配備する。2026年度運用開始の12式改良型が候補となる。第2段階は、島嶼防衛用高速滑空弾を含む射程2000キロ超のミサイルを富士山周辺の陸自駐屯地に配備する。第3段階は、2030年代半ばまでの運用を目指す、射程3000キロの極超音速誘導弾を北海道に配備する。「射程と配備先によっては中国、北朝鮮、ロシアなども攻撃可能となる。政府内には「周辺国の主要都市が射程に入れば、その国は日本への攻撃を一層ためらうようになる」(政府関係者)との見方もある」という。

明らかに他国の主要都市を狙った武力による威嚇を「抑止」とする発想であり、これは従来の拒否的抑止を軸とする「専守防衛」に反する。


ウクライナと台湾――軍事的なものにとっての「奇貨」

南ドイツ新聞』1122日付に興味深い記事が載った。タイトルは「軍需産業が突然、上流社会的になった」(Die Rüstungsindustrie ist plötzlich salonfähig.)である。「人々は武器なしで平和を創ることを求めた時代もあった。ロシアがウクライナに侵攻して以来、[武器は]いくらあっても足りなくなった。著しい空気の変化について」。国民の税金が兵器の爆買いに向かうのはドイツも同じである。政府は1000億ユーロの特別基金を確保して、兵器を買う方針をウクライナ侵攻直後に決定している。

 「「ウクライナ戦争」という、ウクライナの人々にとってはとんでもない奇禍であるが、「軍事部門」(軍隊(将校団・OB)+軍需産業)にとっては、テロとの戦いにネタ切れし、アフガン撤退で地域紛争への介入を控える動きのなかで、大規模支出を可能とする「奇貨」にほかならない。」(直言2022516)

  この観点からいえば、「台湾有事」はまさに日本と米国のミサイル関係の軍需産業(主にロッキード・マーチン)の株価をあげる「奇貨」ということになろう。

【文中一部敬称略】

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「アシアナから」:カブールの職業訓練施設の一少年

Dieses Spielzeug wurde aus der Aschiana-Schule,
Kabul geschickt.

――「アシアナから」――

2002年のカブールの職業訓練施設で一少年が作った木製玩具。
肉挽器の上から兵器を入れると鉛筆やシャベルなどに変わる。
「武具を文具へ」。
平和的転換への思いは、いつの時代も同じです。

「直言」2002年6月10日