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友情の論文集に博士号*植物状態の札学院大元教授・鳥居さん*立命館大が業績評価   
 

 2度の脳出血で植物状態となり、入院中の札幌学院大(江別市)元教授鳥居喜代和(とりいきよかず)さん(58)に24日、母校の立命館大(京都)から特別博士号が授与された。異例の授与に力を尽くしたのは「鳥居さんの業績を形として残したい」と考えた同僚たち。鳥居さんが倒れる前に発表した憲法学の論文を1冊の本にまとめ、その内容が評価された。

 札幌市清田区の札幌南青洲病院の一室には、鳥居さんの札幌学院大時代の同僚3人が集まっていた。中心には、車いすの鳥居さんと妻の美門(みかど)さん(59)。「博士の学位に相当する成果を収めた」。立命館大から派遣された倉田玲准教授(38)が、鳥居さんに博士号の称号記を手渡した。

 鳥居さんの手元には、同僚たちがまとめてくれた著書「憲法的価値の創造」。美門さんは「夢のようだね」と声を掛け、称号記を鳥居さんの目の前で広げて見せた。

 鳥居さんは愛知県出身。立命館大大学院を経て、1984年に札幌学院大助教授となった。日本国憲法が「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(25条)と定める生存権が専門だ。

 最初の脳出血は98年秋だった。研究や教育に加え、優秀な生徒を集めるため、全道を回る激務が続いていた。右半身に障害が残り、労災認定を受けてリハビリを続けていたが、2007年に再び脳出血を起こし、意思の疎通もできない植物状態になった。

 1年後の08年末、札幌学院大名誉教授の鈴木敬夫(けいふ)さん(72)が早稲田大教授の水島朝穂(あさほ)さん(57)に手紙を出した。「鳥居君の仕事を1冊の本にしないか」。鈴木さんは札幌学院大法学部が84年に創設された時の教授で、鳥居さんや水島さんを助教授として招いた。

 「格差や貧困が社会問題化する中、人間の尊厳を精緻(せいち)に語る鳥居さんの論は今、さらに輝いている」

 水島さんらは昨年1月、資料整理を始めた。同大の元職員で、現在は東京の出版社勤務の串崎浩さん(53)も編集に加わった。鳥居さんが論文集を出したいと言っていたことが心に残っていた」

 博士号には博士課程に在籍して得る課程博士と、在学せずに論文審査に合格して受け取る論文博士がある。鳥居さんが申請した論文博士は特別講演を行うのが条件だが、立命館大は今回の審査に合わせて講演を免除し、論文だけで評価する「特別博士号」を新設。5月の大学協議会で、鳥居さんの論文を博士号に値すると決めた。同大の倉田准教授は「価値ある仕事を評価することは大学にとってもメリットがある」と説明する。

 美門さんは鳥居さんの目を見つめ、「いつか起き上がって『ありがとう』と声を掛けてくる日が来る」と言った。病室に集まった鈴木さん、水島さん、串崎さんも「きっとその日が来る」と信じている。

 

【写真説明】車いすの鳥居さんに博士号の称号記を見せる妻の美門さん(左)や同僚たち