裁判官訴追制度の政治利用 1997/6/30


高裁裁判官全員がいま、国会の裁判官訴追委員会に訴追請求されている。裁判官の罷免を求める手続だが、この事実をマスコミは黙殺している。『赤旗』6月22日付が「改憲勢力、最高裁裁判官の解任を請求」という大見出しで報じ、『週刊金曜日』6月27日号がフォローしただけだ。直接、朝日新聞政治部デスクに電話して聞くと、訴追委員会への参考人出席を拒否した事実はあるという。ただ、『赤旗』が訴追委員会が朝日新聞を「証人喚問」したという事実はないという。愛媛玉串訴訟で最高裁が違憲判決を出したことに対して、右翼勢力が訴追請求という手法で反撃に出てきた。違憲判決を直接の理由にすることは不可能なので、 2月 9日付朝日新聞や一部地方紙(共同通信配信)に判決予測が出たことを取り上げ、最高裁判事が判決内容を事前に外部に漏らしたという疑惑があるが、誰が漏らしたか特定できないので、とりあえず全員の訴追を求めたというわけだ。いくら判決に不満でも、まさか最高裁裁判官全員を訴追せよというその強引で傲慢な姿勢には驚いた。不訴追になることは明らかだが、これを報道すれば、かえって右翼勢力の宣伝になるということで、全マスコミが黙殺を決め込んだのだろう。ただ、訴追委員会が最高裁事務総長や共同通信代表などを参考人として呼んでいる以上、委員会の動きとして記事にすることは可能だと思う。裁判官は、国会の弾劾裁判によらなければ罷免されることはない(憲法78条)。弾劾裁判所に罷免の訴追を行う機関が、裁判官訴追委員会である(国会法126条)。衆参両院議員10名がその職にある(裁判官弾劾法5条)。何人も、裁判官の罷免の訴追をすべきことを訴追委員会に請求することができる (同15条)。こうしたシステムまで駆使して、右翼勢力は裁判所に揺さぶりをかけている。訴追請求は毎年400 件ほどあるが(96年は458 件) 、ほとんどが不訴追で、訴追のケースはごく稀である(最近では81年の1件)。国会に改憲のための調査委員会が設置されたことと合わせて考えると、なにやら不気味な動きではある。