「小盗聴」と「大盗聴」 1997/10/27


信傍受(盗聴)の導入を含む「組織的犯罪対策法」要綱が法制審議会から答申され、法案化が進んでいる。早ければ臨時国会に提出される見通しだ。この国もついに、盗聴にお墨付きを与えるのか。いま、ドイツでも盗聴をめぐる動きが急である。
  ドイツの場合、刑訴法100条で、特定の犯罪捜査(通貨偽造、略取誘拐等)について、裁判官の令状(期間3カ月)に基づく電話盗聴が認められている。また、1968年の基本法(憲法)改正で10条 2項が新設され、安全保障上の理由から公安機関に電話盗聴の権限が与えられた。この盗聴行為に対して、裁判所に救済を求めることは許されない。盗聴後6カ月以内に、連邦議会の独立委員会に報告することになっている。だが、連邦憲法裁判所は1970年の盗聴判決でこれを合憲とした。判決は5対3にわれた。反対意見は、裁判を受ける権利の侵害を主張した。その後、1977年に赤軍派などによるテロが続発すると、公安機関は原子力学者トラウベ博士の自宅に盗聴器を仕掛けた。これは「トラウベ事件」として大問題となり、基本法13条の住居の不可侵の侵害で、関係者が処分された。
  今回、組織犯罪対策を理由に、連邦政府は個人住宅に盗聴器を設置することを合法化する方針を打ち出した。それには、基本法13条の改正が必要であり、そのための議会3分の2の多数が必要だが、10月9日、連邦議会で野党の社民党と与党連合との合意が成立し、盗聴のための基本法改正が決まった。いずこも社民党は腰砕けだ。
  ところで、住宅への盗聴器の設置を「大盗聴」といい、1968年以降の電話盗聴実務を「小盗聴」といって区別している。「大盗聴」のための基本法改正が行われれば、「特別に重大な犯罪」(殺人、ギャング犯罪等)の場合、4週間にわたり、個人住居に盗聴器を設置することができる。政府は、議会に対して、住宅盗聴について年間報告を行う。だが、この「大盗聴」に対しては、与党内にも反対がある。「自由な法政策にとって暗黒日だ」。「大盗聴」が決まった日、前・法相のロイトホイザー・シュナレンベルガー議員(自民党)はこう述べて、法案に激しく反対した。10月10日の『ベルリン新聞』には、悔しさのあまり涙を拭う前・法相の姿をスリー・ショットで掲載している。反対派は、審議過程でこんな例を挙げて追及した。R・ショルツ議員(キリスト教民主同盟、憲法学者)の子どもがパーティを自宅で開いたが、そこにたまたま麻薬取引の疑いをもたれた友人が参加した。その場合、ショルツ議員の住宅は盗聴対象の「ギャングの家」となるのか、と。
  日本はドイツに一周遅れで、いま、「小盗聴」を法制化しようとしている。盗聴を制度化した国はどこでも、犯人逮捕という効果を上回る規模で、「普通の市民」のプライバシーが犠牲にされている。日本では「小盗聴」も許されない。

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