名護市民投票への政府の「介入」 1997/12/1


「ご鳳声(ほうせい)」。広辞苑を見ると、「他人の伝言または音信の尊敬語。鶴声」とある。
   海上ヘリ基地の是非をめぐる沖縄県名護市の市民投票(12月21日)を前に、防衛庁は、沖縄出身の自衛隊員・防衛庁職員3000人に、賛成票獲得に協力を求める文書を送付した(『朝日新聞』11月28日付)。地元紙は、沖縄駐留の自衛隊員ら5500人に送付したと書いた(『沖縄タイムス』同日付)。長官名のその文書には、「隊員諸君もお知り合いの方が名護市にいらっしゃれば、ぜひ、ご鳳声いただきたい」とある。この文書とは別に、沖縄県出身隊員のいる全国の部隊長あてに、統幕議長名の協力要請文も出したという。
   名護市では、海上基地建設をめぐり意見が対立し、市を二分した運動が続いている。一つの地方自治体の住民投票に、国家機関が全国組織をフルに使って、「選挙運動」を始めたわけだ。確かに、住民(市民)投票には公職選挙法は適用されない。名護市の市民投票条例にも、公務員が運動に関与することを禁止する規定はない。しかし、だからといって、地方の住民の投票に、国家機関が組織的に介入することは、地方自治の原則を損なうものである。
   しかも、自衛隊という組織の場合、命令・服従関係がきわだって強い。「鳳声」は「鶴声」ともいう。長官の「鶴の一声」で、隊員は賛成票獲得のために動かざるを得ない。「広報活動の一環で、特定の党派に偏るものではなく、政治活動には当たらない」と長官はいう。だが、名護市は賛成・反対の両派に分かれて活動しているわけで、自衛隊員がその一方の側に肩入れすることは、事柄の実質に着目すれば、それは「政治活動」である。
   このところ、政府の沖縄関係のパフォーマンスが目立つ。人名用漢字に、琉球の「琉」の字を一字だけ、法務省令の改正で急遽追加したり、科学技術庁が突然、戦時中に撃沈された対馬丸の調査を始めたり、さらに、12月6日には、官房長官が訪沖して、沖縄北部振興策を提示するといわれている。11月21日の「復帰25周年式典」で、橋本総理がほとんど目玉になる振興策を出せなかったので、市民投票前に「アメ玉」をさみだれ式に出していくわけだ。市民はそうした政府の手法をしっかり見抜いている。防衛庁長官の「ご鳳声」文書は、危機感をもった政府が、直接介入に乗り出してきたことのあらわれといえる。名護市の平均所得は、全国670市中668番目である。だが、自然を愛する市民の豊かな心は、政府のさもしいやり方に明確な回答を出すに違いない。

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