書評『災害と自衛隊』(芦書房) 1998/2/9


妙な本である。著者は早大付属高の教員。はしがきに「本書は、早稲田大学社会科学研究所(現・アジア太平洋研究センター)危機管理部会における過去一年間(平成八年度)の研究成果の一端である」とあるから研究書と思いきや、帯には塩川元自治大臣や大阪ガス会長らの推薦文がズラリ。薄い本なのに背には、著者名と並べて「協力 防衛庁」。最初の頁は塩川氏の推薦の辞。裏は大企業幹部の自筆推薦署名。全147 頁中3 割近くが海自幹部(なぜか陸自はない!)のプロフィールと「自衛隊支援協会」専務理事なる人物の印象記(16頁も!)で占められている。写真や表をとれば、著者の「研究成果の一端」は70頁足らずで、全体の半分にも満たない。「謝辞」と称して4 頁も割いて、自衛隊関係者の名前と階級が並ぶ。ここまで正直に出さなくてもと思われるほどだ。内容はというと、阪神淡路大震災で自衛隊がいかに「活躍」したかを強調するとともに、返す刀で、震災時に自衛隊の活動を妨げたのが、労働組合や護憲団体などの「自衛隊アレルギー」にあったと非難する。その根拠の大半は、『読売新聞』と『産経新聞』からの引用である。「現場」に飛んだ著者の「記念写真」1 枚に頁の半分を割いて、それが何頁もある。なお、輸送艦「おおすみ」や準備中の「多目的病院船」への「期待」も語っているが、その認識の甘さは相当なものである。自衛隊の「活躍ぶり」に感激し、「自衛隊アレルギー」を非難するのに急なあまり、論述や資料上の客観性を欠き、学問的分析というには相当な距離がある。これでは『災害には自衛隊』という宣伝パンフに近い。もっとも、防衛庁広報なら、もっとさりげなく上手に宣伝するだろうが。ところで、人命救助などの初動措置の問題では、大震災の反省に立ち、自治体消防の連携のなかで、95年6 月「緊急消防援助隊」が発足した。東京消防庁は96年12月、「消防救助機動部隊」(ハイパーレスキュー)も発足。自己完結的な組織形態をもつ、広域的・機動的な態勢が作られつつある。災害対策の基本は自治体である。こうした自治体消防の努力についての分析が、本書には欠落している。私は、震災直後の神戸に入って書いた「どのような災害救助組織を考えるか――自衛隊活用論への疑問」(『世界』1995年3 月号、拙著『武力なき平和』第3 章所収)のなかで、「災害には自衛隊」がいかに間違っているかを、現地の消防関係者などへの取材や情報に基づいて明らかにした。そして、違憲の軍隊としての自衛隊を、災害救助組織に転換(コンバージョン)することを主張している。