「国益」と「人の道」 1998/8/24


9月 1日から、ゼミ学生30数名を連れて沖縄へ行く。学生たちは5 班に分かれて、県庁幹部や市町村長、米軍関係者、各種訴訟の関係者などをたずね、沖縄各地で取材・インタビューを行う。北部班は名護市住民投票の関係者にも取材する予定だ。ところで、海上へり基地受入れノーが過半数を占めた直後の昨年12月24日。比嘉名護市長(当時)は首相官邸で橋本首相と会い、基地受け入れを表明した。その後の記者会見で、比嘉氏はこう述べた。「国益は県益につながり、県益はまた地域の市町村の益にもつながる」(『沖縄タイムス』1997年12月25日付)。こういう単純な置き換えはいかがなものか。「国益」が地方の利益と対立することもある。そのとき、「国益」を大上段に振りかぶることは許されない。地方自治は憲法原則である。中央政府と地方自治体との関係は、同一官庁内の命令・服従の関係にはない。首相は地方自治体の首長の「上司」ではないのだ。ところが、それを勘違いした人物がいる。野中官房長官である。5 日、新内閣に挨拶に訪れた沖縄県宮平副知事への面会を拒否し、「大田知事は真っ先に(辞任表明した)橋本首相のところに挨拶にくるべきなのに、小淵内閣ができた後、副知事を派遣して面会させるなど、人の道に反することだ」とやった。防衛庁長官までが歩調を合わせて、副知事との面会をドタキャンした。これに沖縄のメディアは強く反発。参勤交代ではあるまいし、首相のところに知事がすっ飛んでいく必要がどこにあるのか、と怒りを露にした。驚いた野中氏はすぐに訂正したが、一度発した言葉は消えない。そもそも、駐留軍用地特措法を「改正」して、使用期限切れで不法占拠状態となった米軍用地の使用を可能にするという荒技をやってのけ、「法恥国家」ぶりを天下に晒したときの衆院特別委員長は野中氏だ。海上ヘリ基地に対する名護市民の反対が強いと見るや、現地入りして、市民投票で「条件付賛成」が多数を占めるよう「国家的利害誘導」の指揮をとったのも野中氏だった。「人の道に反する」のは一体どちらか。この問題は、11月知事選を意識した、政府の大田県政への圧力の一環と見ることができる。ところで、沖縄県では、最近、山内徳信出納長が「基地の県外移設」を言いだした。沖縄問題への本土の対応の鈍さを突くという山内戦略があるのだろう。ただ、県道104 号線越え演習の移設先の一つである宮城県王城寺原演習場周辺で、砲撃騒音などのため、住民34戸が集団移転した。新たな基地被害が本土でも生まれているのだ。沖縄県が本土移設を主張することが、本土の基地反対運動に与えるマイナス効果は無視できない。米国内の海兵隊縮小の声とも連携をしつつ、市民レヴェルで沖縄−本土間の対立を生まないような方針の出し方が求められている。