緊急直言 命令による発砲のためのPKO法改正 1998/3/13


衛隊の昇任試験問題集を見ていたら、陸自平成6年度三尉候補者選考試験問題にこんなのがあった。第8問「わが国の平和維持隊への参加にあたっての基本方針について、誤りはどれか」。5択。停戦合意などの「PKO5原則」がそのまま並べてあり、出題の仕方としては芸がない。もう少し工夫がほしいところだ。
  ところで正解は、選択肢の5つ目、「武器の使用は、部隊等の防護のために必要な最小限のものに限られること」。PKO法24条は、武器の使用の要件として、「自己又は自己と共に現場に所在する他の隊員の生命又は身体を防衛するため」と定めているから、「部隊等の防護のため」は誤りとなる。

  この法律の制定過程では、上官の命令で武器を使用すれば、憲法 9条1項が禁止する「武力の行使」になってしまう。だから、「武器の使用」が「武力の行使」にならないギリギリの線として、個々の隊員の判断による武器の使用という抜け道を作ったわけだ。これは「ミリタリー」の本質を理解しない、警察官の武器使用の発想に基づくものだという制服組の批判は、「軍事的合理性」から見ればその通りである。だが、こんな「非常識」なごまかしをしてでも、とにかく当時は自衛隊を海外に派遣するルートを確保しようとしたわけだ。

  最近になって、軍隊が個々に勝手に判断して発砲することは「常識」に反するから、上官命令で武器使用ができるようにせよ、という声が強まっている。『読売社説』などは、「PKO協力法改正は待ったなしだ」として、盛んにこの主張を展開している(2月27日付) 。だが、いま、世界的に見て、PKO活動の最大の課題は武器使用なのだろうか。この国のPKOの議論というのは、何かがずれている。3月13日、政府は、PKO法の改正法案の国会提出を閣議決定した。法改正の目玉は、「現場に在る上官の命令」による武器使用の規定の新設(法24条4項、5項)である。「現場に上官が在るときは」という形で、命令による発砲は例外的で、現行24条にいう個々の隊員の判断による発砲が原則であるかのように読める腰の引けた定め方をしてはいる。だが、上官に率いられない部隊というのはそもそもあり得ないことで、この規定は実際上、「上官の命令」による発砲を原則化するものだ。国家機関としての自衛隊が組織的に発砲することは、外形的にはそれは武力の行使となる。国連の活動の一環だから、「国権の発動」ではないという言い方もされるが、憲法9条の武力行使の禁止はより徹底したものである。

  今回の法改正案は、6年前は軍事的色彩が強いとして「凍結」されたPKF(国連平和維持軍)活動を「解凍」する一ステップといえる。軍事の「常識」からすれば、確かに自衛隊にだけ無理な規制を行うのはおかしいということになる。だが、そもそも、自衛隊の存在それ自体が憲法9条に適合しない違憲の存在なのである。PKO法24条の「非常識」をいまになって「常識」に合わせようとするのは、結局、「自衛隊を軍隊にせよ」ということに通ずることを知るべきである。この国で、「軍事的合理性」が当然には通用しないことの意味を、もっとじっくり考えてみる必要があろう。

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