高知県非核港湾条例のこと 1999/3/1


ギュラーをやっている「新聞を読んで」(NHKラジオ第一放送「ラジオ深夜便」)の2 月 7日放送分で、「神戸方式」と高知県非核港湾条例について話した。1975年以来、神戸市は、市議会決議に基づき、神戸港に入港する艦船に、核兵器を積んでいないという証明書(非核証明)の提出を求めてきた。この方式を応用すべく、橋本高知県知事は県議会に非核港湾条例案と、外国艦船寄港時に外務省に非核証明書を求める事務処理要綱案を提出した。これに対して政府は、外交・安全保障は国の専権事項だとして、県を厳しく批判した。地元『高知新聞』1 月8 日付社説は「国の非核政策の方が問われている」と題して、自治体が米軍協力を迫られる状況だからこそ、「非核三原則の実効性が一層、厳格に問われる。地方とともに非核三原則に新たな生命力を吹き込む姿勢と度量を国に求めたい」と指摘した。同紙2 月16日付社説も、自民党の条例化阻止は、「政府が国是としてきた『非核三原則』を否定しかねぬ行為で、自己矛盾に満ちたもの」と批判。「非核を国是としながら、核持ち込みに目をつぶる政治を国民は支持できない」と書いた。一方『読売新聞』2 月22日付社説は「『非核条例』に潜む反安保の策動」と、政党機関紙のような露骨なタイトルで高知県を批判。『産経新聞』2 月18日付社説は、「高知県の方針は不可解だ」とタイトルこそまだ品がいいが、「国家が危機に直面しているとき、国の資源を総動員して安全をまっとうするのは当たり前であろう」と、まるで戦前の社説のような物言いだ。北朝鮮が惨憺たる状況にあるのは事実だが、だからといって今にも戦争が起きるかのような「危機フィーバー」にあるのは日本だけである。韓国の冷静さに学ぶ必要があるし、当のアメリカにしても、北朝鮮への特使派遣など外交ルートの開拓を怠らない。アメリカがこの機会にTMD(戦域ミサイル防衛)という法外な買物を日本にさせた後に、北朝鮮と国交を結ぶということも十分あり得る。「思いやり予算」への批判は影をひそめ、社説に「国の資源を総動員」という言葉まで飛び出し、対米軍協力は何でもありの状況になってきた。非核三原則のうちの「持ち込ませず」の空洞化が言われて久しい。そうした状況のもとで、地方自治体が、「住民及び滞在者の安全」(地方自治法2 条3 項1 号)を守るという観点から、核兵器の持ち込みの有無を問うのは当然ではないか。そのことで日米関係が崩壊するというのは奇妙である。真の友好関係というのは、相手がいやがること(核持ち込み)の無理強いからは生まれない。政府が新ガイドライン関連法案で狙う対米軍協力の突出こそ、住民の安全を危うくするものである。憲法92条と9 条との統一的な解釈により、「地方自治の本旨」には、地方自治体が平和的な状態で運営されるという要請が含まれると解される。自治体は、「住民及び滞在者の安全」を守るため、今後とも創造的な努力と工夫をしていく必要があろう。