戦時下の基本法50周年(2) 1999/5/10 ※本稿はドイツからの直言です。


4月24日、中部ドイツのカッセルに行った。ここの大学で、「脱軍事化への転轍(Weichenstellung) 」というシンポジウムが開催されたからだ。
  緑の党の安全保障問題担当W. Nachtwei連邦議会議員や平和研究者などが参加。非軍事的紛争解決の道や軍縮問題について長時間討論した。私も、周辺事態法や「海上警備行動」の問題についてペーパーを用意した。NATO空爆と海上自衛隊の武力威嚇行為が3月24日に始まったことを指摘し、「日独が『普通の国』への道に大きく踏み出した共通の『記念日』」と特徴づけると、Nachtwei議員(彼は党指導部の戦争政策に公然と反対している)は共感を示してくれた。カッセル大学のP. Strutynski博士がまとめた「平和のメモランダム99」には、連邦軍の「構造的侵略能力」を除去するなどの具体的提言が含まれており興味深かった。私が提言の具体的内容について質問すると、「それは政治が最終的に決めることで、平和研究は基本方向を示すことが大切だ」との答えだった。ただ、基本方向を示すにしては、かなり踏み込んだ提言(陸軍の旅団数を26個から13個に、空軍の戦闘航空団を10個から6個に削減するなど)もあり、この種の議論の難しさを感じた。また、バーデン・ヴュルテンベルクから参加した「平和のための5」という団体の代表は、軍事費を5%削減して、それを途上国の医療援助や復興にまわす様々なシミュレーションを展開した。
  もっとも、これらの提言に対しては、連邦軍の即時廃止を求めるグループから強い異論が出た。非暴力・非軍事の紛争解決に関わるNGOの活動実践や提言も紹介され、コソボ紛争への「もう一つの道」について議論が広がりかけたところで終わった。どこの国の平和団体についても言えることだが、自分たちの活動をアピールすることに急なあまり、それぞれから学びあい、生産的な議論に発展させるという姿勢に欠けていた。
  それと、基本法50周年との関連での議論を期待したが、これは「ないものねだり」に終わった。ボンに住んでいても、「ボン基本法50周年」に注目する人はあまりいない。テレビも、8日前後にドキュメンタリー番組が少し放送された程度。政府は、3日間連続の講演・シンポを開催したが、一般参加は許されなかった。

  自治体や市民グループによる企画が17日にかけていくつかあるので参加するつもりだが、いずこでも「憲法」は人々の関心になりにくいようだ。このところ、コソボ戦争への国民の支持は少しずつ低下しつつある。8日発表の世論調査では、NATO空爆支持が当初の61%から51%に低下し、反対が30%から43%に増加。旧東独地域では、空爆反対が68%。地上軍介入に反対する人は9割に達する。政府は国民の多数が空爆を支持しているというが、世論は確実に変化している。
  基本法26条の規範的要請である「平和国家性」(Friedensstaatlichkeit) が根本的に問われているいま、根本的な議論が期待される。この点で、4月29日付Die Zeit紙に掲載された哲学者J・ハーバーマスの論文「獣性と人道性――法とモラルの間の限界線上の戦争」が注目される。tageszeitung紙に載った批判論文とあわせて、次回に紹介しよう。