基本法50年と直接民主制 1999/5/30


9時頃まで明るいから、催し物の開始時間は8時が多い。5月17日、連邦参議院に隣接する州代表部で開かれたシンポジウム「よき憲法のなかの民主主義?」(Theodor-Heuss財団後援) に参加した。終了は10時ずき。その後ワインを飲みながら歓談に入る。タフな人々だ。会場で配られた小冊子『基本法50年−市民社会は生きる』には、8日から22日までの「市民社会週間」における講演・シンポの開催予定が列記されている。数えてみると、全16州で計397企画。約4分の1がバイエルン州。とくにミュンヘンが多い。ブレーメンやブランデンブルクなど、社民党(SPD) の強い州では一桁の企画しかない。講師や主催者を見ると政治的立場は多様で、必ずしも自民党(FDP)系というわけではない。日本の憲法記念日と違い、リベラル派の方が憲法について熱心のようだ。
  内容を見ると、基本法に直接民主制的要素を導入すべしとする企画が目立つ。女性の権利や平等論が次に多い。ほかに、ヨーロッパ統合、外国人の権利、子どもの権利、憲法裁判所の地位など。平和や対外政策に関連した企画は2本だけ。「憲法といえば9条」という日本とは趣が異なる。
  ベルリンでの初日は、ヴァイツゼッカー前大統領の講演。私が参加した企画の講師は、FDP元大統領候補のHamm-Brücher女史と、ミュンヘンの市民グループ「もっと民主主義」(Mehr Demokratie) 代表。合間に、2人の俳優が50年前の基本法制定会議の議事録を、その政治家になりきって朗読した。なかなか面白かった。この日の論点は、直接民主制導入の是非。市民グループは連邦大統領の直接選挙などを提案したが、会場からは批判的意見もけっこう出た。Hamm-Brücher女史は議会制民主主義改革の必要性を強調して、直接民主制論から少し距離を置いていた。この財団の憲法企画のメイントーンは、「観客民主主義」(Zuschauer-Demokratie)を、市民の生きた民主主義にいかに転換するか」。直接民主制導入が重要な柱に位置づけられているのが特徴だ。

  翌週の23/24日は聖霊降誕祭の連休。23日は基本法公布・施行50周年記念日。ベルリンの帝国議会で、大統領選挙が行われた。連邦大統領は、連邦議会議員669人と、州議会から選ばれた同数の代表の計1338人(男899人、女439人)からなる「連邦会議」(Bundesversammlung) によって、間接選挙で選出される(基本法54条)。12時からテレビ中継を見たが、夕方近くになって、SPDのJ・ラウ氏が第8代大統領に選ばれた。ラウ氏は過半数に9票足りなかったので、第2回目の投票で野党FDPから票をもらったのだ(この選挙には党議拘束がない)。歴代大統領の得票率は50%代前半。ヴァイツゼッカー氏だけが80%代を例外的に確保した。なお、連邦会議の州代表にはサッカー選手や女優も含まれていたこともあり、この機関のあり方に対しては、疑問や批判が結構出ていた。「大統領を直接選挙で」という主張は、保守派からも出ている。もっとも、すべての連邦会議に「皆勤」した保守党CSUの老議員(82歳) は、ヴァイマール憲法下の大統領直接選挙でデマゴギーが横行したことを挙げ、直接民主制導入に対して「私のもつ力のすべてを使って戦う」と勇ましい(General Anzeiger vom 22/23.5)。

  24日12時から、「基本法50周年式典」が帝国議会で開かれた。ヘルツォーク大統領最後の演説は30分に渡った。基本法50年を総括するなかで大統領は、直接民主制を導入して基本法を補完する必要性も強調した(FR vom 25.5) 。政権にどっぷりつかった緑の党が最近この種の主張を抑制しがちななかで、直接民主制の主張は、バイエルンを中心に保守層から盛んに出ている。「ヴァイマールの教訓」の一面化は正しくないが、日本でも住民投票ブームのなかで出てきた直接民主制礼賛論に対しては、慎重な対応が必要だろう。

トップページへ