元反戦活動家による戦争 1999/7/5 ※本稿はドイツからの直言です。


ン大学前の古本屋に寄る。路上の箱(日本の100円コーナーのようなもの)のなかに、『シャーピング伝』(1993年) を数冊見つけた。表紙には、ヒゲをはやし、頬杖をつきながら虚空を見つめる写真を使う。なかなか「知的」な風貌だ。私と同じ46歳で伝記を出す感覚は何だろう。
  出版は社民党(SPD) 党首にのぼりつめた直後だった。それから6年。彼は国防大臣として戦争遂行の先頭に立った。それとともに風貌は一変。トレードマークのヒゲはすでになく、目尻の皺は一層深くなり、飛び出しぎみの眼がすわっている。停戦を主張する人に向かっては、目をむき、挑戦的な物言いで、戦争継続を叫んだ。フィッシャー外相のように、変貌ぶりがユーモラスな漫画本(Joschka Fischer : Das Karikaturenbuch,1999)になることもなかった。6月上旬、NATO次期事務総長就任への色気を見せたときは、「政府も党もシャーピングを必要としている」という首相の言葉さえ、ジョークとして取り上げられたほどだ(taz vom 5.6) 。

  ベトナム戦争当時に徴兵拒否をしたクリントン大統領。ヨーロッパ各国の首相も、反戦・平和の伝統をもつ社民系が多い。極めつけが、ソラナNATO事務総長。このスペイン人の経歴はドラマチックだ。1942年生まれだから、シャーピングより5歳年上。フランコ独裁時代、禁止されていた社会主義労働党(PSOE)で活動。80年代初頭には、マドリードの街頭で、スペインのNATO加盟に反対し、米軍基地閉鎖を求める反戦デモの先頭に立った。82年から13年間、ゴンザレス政権のもとで文化相や外相を務め、95年にNATO事務総長になった。わずかの間に、反軍国主義者から軍事同盟のトップ官僚へ。彼自身はこの劇的な方向転換を、「内面的成熟の結果」という。
  メキシコの詩人O. Patzの言葉で言い換えると、「人生のなかでは、人は常に同じ問題に直面する。変わることが答えだ」になる(FR vom 5.6)。反戦派の時代から権力志向旺盛だった人物は、転換も早い。たまたま活動の場が正反対になっただけなのか。それは「内面の成熟」などではなく、もともとの平和主義理解が貧困だったということだろう。
  そのソラナは来年から「EU外相」に就任する。正式名称は「共通の対外・安全保障政策」(GemeinsameAussen-und Sicherheitspolitik) EU代表」で、略語はGasp。ちなみに、イギリス空軍(Royal Air Force) の略語はRAFだが、ドイツ人ならテロ組織ドイツ赤軍派(Rote Armee Fraktion)を想起する。ソラナの新ポストについても、ドイツ人にはGaspで伝わるが、英語圏でGaspといったら「喘ぎ、息切れ」の意味。地元紙は略語の難しさを述べつつ、「ミスター喘ぎとNATO」という秀逸の見出しを付けた(General Anzeiger vom 19.6) 。

  「喘ぎ・息切れ」と言えば、3月以来、シャーピングらは「他に方法がなかった」を連発した。いま、あの時、本当に空爆が必要だったのか、それは適切な方法だったのかが問われ始めた。どんな困難な状況でも、わずかな可能性を求め、ぎりぎりの努力をするのが政治家である。「他に方法がある」のにそれを尽くさなかったのか、あるいは、「他に方法がない」と偽って戦争に向かったのか。いずれ明らかにされるだろう。シャーピングはボン大学政治学科の出身。かつての反戦平和運動の闘士の自伝が、母校近くの路上の箱のなかで半値以下で売られ、物好きな私に買われた1冊を除いて、今日も車の排気ガスを浴びている。