軍人が政府批判の「デモ」 1999/10/4 ※本稿はドイツからの直言です。


月11日午後3時。ベルリンの国際会議センター(ICC)で、一風変わった集会が開かれた。連邦軍協会(Bundeswehrverband) の主催。制服軍人が公称5200人集まった。政府が進める緊縮財政政策のなかで、連邦軍予算を2000年度から4年間で186億マルク削減することへの抗議行動だ。「ドイツ史初の軍人デモ」と注目された。マスコミ関係者のはからいで記者証をもらい、貴賓室で行われた記者会見に出席した。日本人記者はいない。

  まず会長のゲルツ大佐が趣旨説明を行う。予算削減で、駐屯地閉鎖や定員削減などが行われ、「軍隊としての根幹が侵害される」と大蔵大臣を非難。単身赴任が増え、軍人としての信頼が損なわれるとも。東西格差が今なお存在し、同じ階級なのに、東出身の軍人の給料は西の86.5%であることも明らかにされた。「我々軍人は、政府や議会に対して明確にしたい。このような新たな負担を黙って受け入れる用意がないことを。だが我々は、多元的社会で一般的に受け入れられる方法を適用する」。武装組織の代表が語ると、ドスが効いている。

  ところで、軍人の政治活動は、とくに制服を着用してのそれは、軍人法15条3項で禁止されている。大佐は、この集会は「青空のもとでのデモ」ではなく、「基本法9条3項の労働者の団結権に基づいて行うもので、政治目的を持たない」と述べ、1982年12月8日の連邦行政裁判所(兵役部)決定を引用。同決定は、制服着用の軍人が集会・デモに参加したことは違法ではないとしていた。「構成員の労働条件および経済条件の維持・促進のための集会」は、原則として軍人法15条3項にいう「政治的」にはあたらないと。大佐は、「構成員の職業および職業生活の経済的、社会的、文化的、理念的利益の維持・促進をテーマとする集会は通常、政治集会ではない」との解釈基準(連邦軍総監指示第1/73号/1973年3月30日)も紹介した。

  広い会場には、陸海空軍の将校や下士官が多数参加。制服もさまざまだ。私服のOBや家族もいたので、現役軍人は4000人弱と見た。ゲルツ大佐がスライドを使い、政府批判を展開。正面の大画面に、空軍輸送機の前半分が映され、次いで、尾翼部分に「6週間リースします」という戯画化された写真が出ると、会場は爆笑と拍手。国防相が「お恵みを」と両手を出してひざまずく合成写真が大写しになると、笑いの渦だ。
   やがてシャーピンク国防相が会場に到着すると、会場の緊張は一気に高まる。彼が演説を始めると、野次とブーイング、指笛が会場を揺るがす。あちこちから一斉にプラカードが林立する。金をかけた立派なもので、手製のものは一つもない。どう見ても、組織的演出である。だが、シャーピングも政治家。与えられた時間を二倍も引き延ばし、自分と蔵相の違いを強調。「皆さんの味方」という姿勢を打ち出すと、野次も消え、次第に会場に疲れが見えてきた。終わり際、コソボにいる兵士と家族との電話を無料にするという「隠し玉」を出すと、会場は大拍手。

ベルリンの地元紙も、「国防相に最初は指笛、終わりには拍手」という見出しを付けた(Berliner Morgenpost vom 12.9)。ゲルツ会長も、「国防相とは98.5%一致する」とやった。国防相にうまく丸め込まれたのか、最初から「グル」だったのかは分からない。ドイツでは、裁判官・検察官も市民的自由を当然のように行使する。裁判官の反核デモや警察官組合のデモもある。これに制服軍人の「デモ」が加わった。日本では考えられないことだ。中身は別にして、「多元的社会で一般的に受け入れられる方法」を軍人も行使できるという点は、積極に評価できるだろう。
   なお、会場の外では、反戦運動グループが、「困窮する連邦軍」に「連帯」して、市民に寄付を募っていた。集まった金額は31,70マルク(約1800円)。代表が連邦軍協会に手渡した。

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