番外編(2) トイレ論 1999/11/29 ※本稿はドイツからの直言です。


外編2 回目は、一転して美しくない話で恐縮。2000年へのカウントダウンが、ドイツの新聞にも出るようになった。ベルリンの地元紙は、12月31日深夜の大イベントを、「100万本のソーセージと200 万リットルのビール」という見出しで予告した(DerTagesspiegel vom 22.11)。ブランデンブルク門周辺に100 万人以上が集まり、花火と踊りとビール。警察・消防・医療などの諸機関が準備態勢に入ったという記事だ。これを読んで、この夏のおぞましい記録がよみがえった。7 月10日、ベルリン。130 万人の若者が集まり踊りまくる「ラブ・パレード」に、車で行ってまともに巻き込まれた。半裸の若者が大音響で踊りまくる。もともとドイツは公共トイレが少ない。臨時トイレも業者の有料トイレがほとんどで、入口で0.5 マルクとられる。そのため、道路も周囲の林も「臨時トイレ」と化し、異臭が漂った。自然保護団体が、立ち小便をする人々に向かって、メガホンで「中止」を呼びかける。そんなシーンがテレビで放映された。小便で植物が枯れるのを防ぐ運動だという。TVレポーターが「既遂者」にインタビューしていたが、一人が「背後で自然保護を叫ばれても、もう止まらないよ」と答えたのには笑えた。公共トイレの数を増やす方が先だと思うが、ベルリンに何度か行ったが、大イベントを前にその対策が進んでいるようには思えない。今回は真冬。200 万リットルの行方が心配だ。ヨーロッパを旅行するとき、小銭が必須となる。日本では有料トイレは少ないが、こちらでは「トイレには小銭が必要」が原則と思った方がいい。アウトバーンのサービスエリアのトイレにも、酒場の中のトイレにも、白衣を着た「トイレ女」(Toilettenfrau) がいる(男もいる)。机の上に小さな皿だけが置かれていることもある。その場合でも、ほとんどの人は0.5 マルク置いていく。日本人ツアー客とトイレの前で遭遇したとき、「カードではだめじゃろうか」なんて日本語が聞こえてきたので笑えた。デュッセルドルフの日本書店も、いちいち鍵を借りないとトイレには入れない。日本大使館に在留届を出しに行ったとき、トイレはどこかと尋ねると、窓口で鍵を渡された。ガソリンスタンドでも、鍵を渡されるところもある。頻尿の人は、こちらでは苦労するだろう。トイレを求めてレストランに入り、そこでビールを飲んでしまい、またすぐに次のトイレ探しをしているうちに、次の店でもまたビールを飲んでしまった、という人もいた。これは極端な例だが、程度の差こそあれ、こちらに旅行に来た日本人の「隠れたる重大問題」がトイレだ。夜遅くともなれば、「トイレ女」のいるところは閉まっているし、公共トイレも鍵をかけてしまうところが多い(安全上の理由もある)。だから、地下鉄の通路や地下駐車場の階段付近などは、常に異臭が漂う。ボンの地元紙は、私が住むBad-Godesberg の中心部の劇場横に公共トイレを設置するかどうかをめぐって、1 頁の半分も割いていた(General-Anzeiger vom 26.10)。区議会で、そこに障害者用も作ろうと与党が提案。金をとる業者用にすべきだとの意見も出て、結局2000年中には実現するだろうと書いている。つまり、障害者用トイレは、連邦議会や首相官邸が置かれたBad-Godesberg の中心部にはまだないということだ。一方、日本の新聞には、「障害者もバリアフリーが進むヨーロッパにツアー旅行」という記事が載る(朝日新聞11月23日)。環境の問題も含めて、「日本は遅れている。ヨーロッパは進んでいる」という物言いはもうやめた方がいい。ことトイレに関する限り、健常者でさえ苦労する。こういうツアーを計画する人は「モデル地区」の話だけで判断すべきでないだろう。今回は、美しくない話ですみませんでした。