番外編(3) 交通ルールの話 2000/1/10 ※本稿はドイツからの直言です。

月3日間、家族の希望で、ベルギーのアルデンヌ地方とルクセンブルクを旅した。観光客がほとんどいなくて、静かな古城めぐりができた。ただ、ルクセンブルクの山中で霧に視界を塞がれた。北海道に6年住み、雪道を数万キロを走った私でも初めての深い霧だった。80キロにまで減速してゆっくり(?)走ったが、猛スピードで追い抜いていく車が何台もあり、ヒヤリとさせられた。
  1月2日にはアウトバーン7号線のフルダ・ヴュルツブルク間で、霧のため150台が玉突き衝突。70人以上の死傷者を出している。玉突きといっても、何十台もが折り重なる光景は息をのむ。統計的に見ると、ドイツの交通事故の死者数は、90年から99年の間に32%も減少したという。94年が9814人、99年見込みが7700人(Die Welt vom 15.12.99) 。
  これは意外だった。もっとも、交通事故件数そのものは99年度240万件と、前年比6%増で最高を記録。自転車の死亡事故が相対的に増えている。
  こちらでは自転車はエコロジーに貢献するということで、優遇されている。ただ、自転車に乗るのは結構勇気がいる。滞在を始めた頃、日本人の癖で左側走行してしまったら、向こうから猛スピードでやって来る中年女性が、凄い形相で「右を走れ」と怒鳴っている。決してスピードは落とさない。そのままなら正面衝突だ。その迫力に思わず停止して、反対側に行こうとしていると、私の脇をビューッと通り過ぎてから、急速反転で戻ってきて、大声で注意して去っていった。
  また、主な道路には自転車専用レーンがある。事情を知らない日本人はこの上を平気で歩くので、疾走する自転車から強烈なブーイングをくらうことになる。2つの車線の間に自転車レーンがある所もある。車2台が並んで右折しながら(日本だと左折になる。以下同様)、その間に自転車をはさむ。これは怖い。交差点でも、自転車が車を右手で制して、整然と左折していく。日本ならクラクションの嵐だ。
  ある日、縦長の独特のヘルメットを目深にかぶった女性が、ベビーカー(旗が付いている)を牽引した自転車で、左折しようとしている私のすぐ前に勢いよく入ってきた。女性は右手で私を制しながら、鮮やかに左折していった。よく見ると、ハンドルの前の椅子にもう一人子どもが座っている。すごいスピードのため、ベビーカーの旗竿がしなっていた。「目が点」状態で見送っていたら、後続車にクラクションを鳴らされた。
  自転車事故の死亡者が多いのも頷ける。日本のように「トラックに引っかけられて転倒」なんていう事故ではない。自転車とトラックの正面衝突。交差点を猛スピードで左折したら、そこに車が渋滞していて、その後部に追突して死亡等々。自転車同士の事故でも整然とあの世行きである。死亡者の86%が脳傷害という研究もある(自転車事故統計98年版)。
  この国では、与えられた権利は徹底して行使する。曖昧さがない。日本人は与えられても、遠慮がちに行使する。それを奥ゆかしいと見るか、優柔不断と見るかは評価が分かれる。こちらでは、スピードを出してよいところに歩行者がノコノコ出てきたら、はねられて当然の世界だ。日本みたいに運転者が前方不注意の責任を問われることはない。だから、青信号で交差点に入ったものの、正面が渋滞していて交差点内で信号が赤に変わった場合、青信号で進む権利をもつ側からは怒りのクラクションだが、これに対するペナルティも厳しい。
  昨年11月、カールスルーエの連邦通常裁判所は、正面の渋滞のため交差点で立ち往生した運転手を、赤信号違反(信号無視)と見なし、250マルクの過料と1カ月の運転禁止に処す判決を出した。これを報じたADAC(日本のJAFにあたる) の雑誌Motorwelt2000年1月号の見出しは、「1秒の決断」だった。