21世紀の日独軍隊物語 2000年6月5日

等陸佐で自衛隊を退官した中村好寿氏(防大9期、防大助教授、ジョージア工科大客員教授)と対談した。私は、氏の仕事を『21世紀への軍隊と社会』(時潮社、1984年)以来、16年間注目してきた。

氏は、軍隊の性格を捉えるモデルとして、

(1) 排他的戦闘機能論、
(2) 戦闘機能中核論、
(3) 戦闘機能・非戦闘機能等価論の三つを挙げる。

軍隊の使命は敵軍隊の破壊・殺傷にあるというのが(1)、戦闘機能があくまでも本務で、災害救助活動などを「余技」として位置づけるのが(2)である。氏は(3)の立場をとり、災害救助活動などの非戦闘機能を「余技」としてではなく、それ自体軍隊の重要な任務と位置づける。この立場は、『抑止力を越えて・2020年の軍事力』(同、1996年)でより明確にされている。コテコテの国家防衛が語られていた冷戦時代に、21世紀の軍隊のありようを社会の視点から分析した点は先駆的である。もちろん、軍隊の戦闘機能の保持を前提とする点で、私と基本的立場は異なるが、具体的な点では傾聴に値する指摘も少なくない。中村氏の議論は、冷戦後の自衛隊の新たな存在証明として、実に洗練された議論である。詳しくは、『法学セミナー』8月号(7月10日発売) を参照されたい。

  ところで、ヴァイツゼッカー元ドイツ大統領を委員長とする「防衛構造委員会」が、ドイツ基本法51周年記念の日(5月23日)に報告書を首相に提出した。連邦軍を33万人から24万人へ、30%も削減する大改革である。注目すべきは、24万人中の14万人を国際緊急援助などに出動する緊急展開部隊に編成する点である。これに伴い、660の基地・駐屯地のうちの265を閉鎖する。さらに兵役義務者の定員を現在の13万人から3万人に減らすというものだ。
   委員の一人で、憲法学者のK. Ipsenは、報告書中に少数意見を載せ、「基本法12a条が一般兵役義務を定める以上、徴兵適例市民のうちの4分の3が対象とならないような選択的兵役は、公民的義務の平等を定める憲法の要請に抵触する」と批判する。
   徴兵実務データを見ると、徴兵検査の対象外の人(病気・障害)が18歳の徴兵適例人口(現在約43万人)の4%(17000人)いる。17〜18%(約75000人)が徴兵検査に落ちて、不適格と判定されている。さらに、神学徒や第三子といった「徴兵の例外」が3%( 約13000人) 。受刑者も徴兵されない。さらに警察や国境警備隊、開発援助などの従事者も徴兵されない。そして39%(約17万人)が兵役拒否者だ。
   シャーピング国防相によれば、実際に徴兵可能なのは、18歳人口の 30%前後(12万から15万人の間)でしかなく、18歳人口の減少をにらめば、徴兵制の維持は極めて困難という認識だ。ただ、当面は徴兵制維持の方針である。

  EU諸国のうちでドイツは、徴兵制を存続させている数少ない国になった。軍隊の目的も、58%が緊急展開(介入)軍の性格をもつことになれば、もはや「国防軍」ではなくなる。これに対して、国防重視のキリスト教社会同盟(CSU) と反戦色の強い「緑の党」がともに強く批判している。ある平和グループは、ユーゴ空爆以降NATOは「介入同盟」に性格を変え、ドイツ連邦軍も介入型軍隊に変質しつつあると指摘。防衛構造委員会報告書の方向を「質的軍拡」と批判する

  ところで、兵役拒否者のうち13万8000人が代役者(民間役務)として、13カ月間(兵役より3カ月長い)、病院や障害者施設、老人ホームで働いているが、兵役義務者が3万になると代役者も減り、病院などがピンチに陥るという批判も出ている。ただ、これらの活動を「兵役の代わり」というのがそもそも誤りであって、医療・福祉・環境の現場を主たる活動分野にする「一般勤務義務」を導入すべしという意見もある。これに対しては、医療・福祉・環境には強制的な義務はふさわしくない。社会的ボランティアの機会を若者に拡大し、その社会的評価をあげることこそ重要という主張もある。

  5月23日に報告書が公表されてから、新聞のフォーラムなどで連邦軍のあり方をめぐる議論が活発化している。ドイツの状況は、日本の自衛隊をめぐる議論を先取りしているようにも思える。