あるダイヤ改正のこと  2001年7月23日

月末から怒りがおさまらない。食い物の恨みではない。「足」の恨みである。京王電鉄が3月27日を期してダイヤ「改正」を行った。「新宿府中間が19分に短縮」(特急の場合)というのがウリだった。府中駅の隣の東府中駅を使う私には、かつてない変化が起こった。子どもの頃から急行や通勤快速の停車駅で、新宿まで25分前後で出られたのだが、3月下旬から突然、各駅停車駅に変わったのだ(朝晩の一部時間帯のみ通勤快速が停車)。それまでは、昼の時間帯(10時台から15時台)を例にとると、1分(各駅停車・調布で特急接続)、12分(各駅)、18分(急行)、21分(各駅・特急接続)、32分(各駅)、38分(急行)、41分(各駅・特急接続)、52分(各駅)、58分(急行)と、計9本が停車していた(ラッシュ時や競馬開催時は最大15本)。急行に乗れば、座って本を読みながら新宿まで一本で行けた。特急に接続する各駅停車と組み合わせれば、ロスはほとんどなかった。だが、3月下旬から、上記の時間帯を例にとると、6分、15分、26分、37分、46分、57分、と6本すべて各駅停車になった。5つ目の調布駅までけっこうかかる。そこで特急に乗り換えるのだが、この接続がよくない。しばらく待ったあげく、多摩センター方面から来る快速などを待ち合わせして発車することが多い。従来、急行に乗って調布を出るまで数分だったのが、15分位かかる時間帯もある。しかも、調布駅のホームは極端に狭く、雨の日などは小さな屋根から人がはみ出して、濡れることさえある。
  ダイヤ「改正」翌日、すぐに本社担当窓口に電話して抗議した。「何十年も急行停車駅だったのに、突然各駅停車駅にするのだから、唐突な不利益変更だ。乗降客への事前の説明は不可欠である。何を根拠に各駅停車駅にしたのか」。担当者は説明不足を詫びながら、乗降客調査をやり、コンピュータで計算した結果、乗降客が減っているので各駅停車駅にしたという。数字をはじいて、それを根拠に顧客をいとも簡単に切り捨てる。効率優先もここまで来たのかという印象である。

  私の父の一族は、父が6歳の時、目黒から府中に越してきた。1936(昭和11年)2月26日水曜日。雪のなか、車で府中に向かう父たちに、戒厳軍兵士が銃剣をギラリと光らせ、「どこへ行く」と誰何したという。この話はよく祖母から聞かされた。私は、札幌と広島の12年間を除き、東府中に住んでいる。地方にいる時は、千歳線と山陽本線を使っていた。本数は京王線とは比較にならない。だから、各駅停車が1時間に6本というのは、地方から見れば決して少ない数ではない。だから、このコーナーで京王線のダイヤ改正なんぞに憤るのはおかしい、と言われればそれまでだ。地方から東京に戻って5年になり、私自身、ゆったりとした気分を失っている、とも言える。だが、長年にわたって急行が停車した駅を、ある日突然各駅停車駅にするという、そういう「無駄」の切り捨ての発想が許せなかったのであえて書いた。

  同じ時期、東急東横線の田園調布駅でも「異変」が起きていた。特急停車駅から外されたのだ。ここでも、乗降客数をもとに、特急停車駅の絞り込みが行われた。「渋谷横浜間の所要時間は最大4分30秒短縮し、30分台を切る27分を達成した」と東急は胸をはる(『朝日新聞』2001年3月27日〔東京14版〕)。主要駅間を短時間で結ぶという局部的な成果を競い、それをもって全体のイメージアップに使う。京王線・東府中駅と東横線・田園調布駅は、期せずしてそういう「戦略」の犠牲になったわけである。

  最近、この国は、どこもかしこも変である。たとえば、電話の「マイライン」狂騒曲。各社がこぞって「安さ」を競うさまは異様だった。その結果、リストラに連動して、多くの人の職場が失われた。NTTの人事政策の悲惨である。子会社に出向。一度解雇して、3割減の収入で再雇用。一昔前なら組合が大騒ぎしているはずなのに。消費者という面で見れば、安いにこしたことはない。だが、不自然な価格破壊が雇用破壊を生み、「いらぬお節介、大きなお世話、最後は高負担」ということで、結局は庶民にツケが返ってくる。医療、福祉、教育(大学)といった分野での地味な努力は、市場の波にさらされ、競争のるつぼに投げ込まれれば、一たまりもない。「公共交通機関」という表現があるように、私鉄もまた、旅客輸送の面では公共的性格をもつ。局部的な成果を競うよりも、客へのサービスを大切にしながら、生き残りをはかる。いまや、企業も大学もあらゆる組織がそのあり方を根本的に問われているように思う。

  なお、京王電鉄株式会社の第80期定時株主総会(6月7日)に提出された「営業報告書」には、「本年3月に京王線・井の頭線でダイヤ改正を実施し…旅客サービスの向上をはかりました」とある。だが、東府中駅乗客にとっては旅客サービスの著しい低下である。今回、東府中在住の何人かの小株主たちが、初めて書面による議決権を行使し、株主総会における第一号議案(利益処分案承認の件)に反対した。滅多に出ない反対票の意味を、会社幹部は理解しただろうか。

※今週もコメントすべき課題がたくさんあるが、執筆時間がとれなかった。ストック原稿のUPをご容赦願いたい。