AWACSとイージス艦 2002年12月16日

と2週間で2002年も終わる。今年も色々なことが起こり、どんどん忘れられている。8カ月前の「直言」のボツ原稿をたまたま見つけた。その書き出しはこうである。

  2002年4月に開かれたドイツ連邦軍司令官会同で、シュレーダー首相は、連邦軍の中東〔イスラエル、ヨルダン川西岸地区〕派遣をぶちあげた。あるドイツ紙は「歴史の無視」という評論を載せて、シュレーダー首相の歴史認識を問うた(Frankfurter Rundschau vom 10.4.2002) 。なぜ中東紛争は起きたのか。イスラエルができたからである。なぜイスラエルができたのか。ナチス・ドイツが600万のユダヤ人を虐殺したからである。だから「ドイツは中東紛争の原因の一部であり、したがって、武器をもってする紛争解決の一部になるようなことを自分から申し出ることはできない」。9.11テロの結果、国際的な「テロとの戦い」のなかで、アフガンをはじめ世界各地に軍事派遣を拡大したのは、ドイツの「性急な服従」の結果である、と。

  「対テロ戦争」でブッシュに対して「無制限の忠誠」を誓って、世界各地にかなりの数の兵を派遣したシュレーダー首相は、今年9月の総選挙前後から大きく転換した。対イラク戦争には「兵も金も出さない」という明確な態度表明を行ったのだ。この転換の狙いを、かつて米国務長官を務めたH・キッシンジャーは、ドイツの対外政策が対イラク問題を口実に、より自主的な方向への転換されるに至った、と読み解く(『読売新聞』2002年12月2日)。統一ドイツの自主路線がどこまで実現するか注目されたところだが、ここへきて、また微妙な「ゆらぎ」をみせている。一つは、イスラエルへのABC兵器対処用装甲車Fuchsの派遣である。昨年11月の連邦議会決定に基づき、「国際テロとのたたかいのためにのみ」という限定目的で、クウェートにFuchsを6両(人員52名)派遣したのだが、この8月、連邦政府は、米国がイラク攻撃をした場合には、Fuchsを撤退させるという方針を明らかにした(taz vom 31.8.2002) 。それが、ここへきて、イラクが化学兵器などでイスラエルを攻撃した場合に備えるという名目で、くだんの装甲車をイスラエルに派遣するというのだ。Fuchsは、戦闘能力よりも、放射能や毒ガスの除せん機能が売りである。
  12月に入ると、NATO軍の空中早期警戒管制機(AWACS)を対イラク戦に投入するか否かが焦点となってきた。ボーイング707の機体をベースにしたE-3センチュリーというタイプで、様々な国籍の16人のコンピュータやレーダーの専門家が搭乗する。ドイツ軍人もオペレーターとして搭乗している。9000メートル上空を時速850キロで8時間以上滞空しつつ、500キロ圏内にいる400の飛行機や艦船を捕捉し、識別できる。1982年からドイツ・アーヘン近郊のガイレンキルヒェン基地に17機が常駐(ドイツ軍人は160人)。91年湾岸戦争の際にトルコ(NATO加盟国)やボスニア上空に投入された。9.11テロのあと、「対テロ戦争」の一環として、米本土上空にドイツ軍人が搭乗するAWACSが警戒にあたった。口の悪い米国人は、第2次大戦後、ついに我々の頭上に初めて「ドイツ野郎」が飛んでいる、と言ったとか。そして今回、ドイツ連邦政府は、米国がイラク攻撃を開始したら、トルコ上空の警戒のためにAWACSを派遣し、そこにドイツ軍人が搭乗することを承認した。連立与党の「みどりの党」も、NATO加盟国上空の警戒という理由で、あっけなく認めてしまった。米軍機のドイツ上空通過と米軍基地使用も認める方向である
 だが、AWACSの機能からして、トルコ上空の警戒という限定した目的にとどまらない。トルコ上空から500キロの策敵が可能だから、イラク軍機の飛行状況を監視して、米英軍にその位置を通報して攻撃させれば、その指揮管制行為は戦闘行為と一体である。こうした行為は、侵略戦争を禁止した基本法26条に違反すると批判される所以である(taz vom 10.12) 。なお、日本では、1994年にAWACS導入が決まり、98年からE767タイプ2機が、静岡・浜松基地に配備されている。

  さて、「『ブッシュの戦争』パート2 に反対する」という「直言」を3カ月ほど前に書いたが、危惧した通り、日本は真先に「参戦」の意思表示をしてしまった。ドイツの場合は、NATOのAWACS部隊の一部を担い、かつNATO加盟国トルコ上空という二重のイクスキューズ(弁解)が可能である。だが、日本の場合は、イラク攻撃が展開されている作戦海域近くにイージス・システム搭載護衛艦(DDG)「きりしま」(第1護衛隊群第61護衛隊所属)を派遣するというものだ。12月16日、「きりしま」は横須賀基地を出航する。
  このタイプのものを日本はすでに4隻もっているが、さらに2 隻が追加される。値段は一隻1250億円。全部揃えると7500億円にもなる。この艦は、スパイワン・レーダーを使い、360度探知が可能である。探知範囲も空中なら500キロと、通常護衛艦の5倍と言われる。同時に200以上の目標について、(1) 探知、(2) 追尾、(3) 敵味方識別、(4) 到達地点の計算、そして(5) 最適な武器の選択、ができる。通常型護衛艦が追尾可能な目標はせいぜい10個というから、いかにすぐれものかがわかるだろう。艦対空ミサイルと127ミリ速射砲、高性能20ミリ機関砲(CIWS)を組み合わせれば、完璧な艦隊防空システムとなる。そもそも日本のイージス艦は、米空母機動部隊の護衛の一翼を担うことを期待して導入されたといってもいい。艦同士で50キロ程度までは情報共有可能というから、日本イージス艦が500キロ西方をカバーすれば、イラクの国土の大半と紅海上空のイラク軍機を探知・追尾・識別できる。その情報を米軍に通報すれば、それに基づき米軍は攻撃態勢に入る。まさに武力行使との一体化である。これは従来の政府解釈からも正当化できないだろう。

  かつてソ連軍が健在だった頃、米国は日本に対潜哨戒機ロッキードP3Cを100機揃えるように求めた。島国オーストラリアでさえ、全土防衛のために10機程度保有しただけなのに、狭い日本に100機はいかにも多い。米第7艦隊の対潜哨戒機を日本国民の税金で買わせたようなものだ。冷戦構造が崩れ、ソ連潜水艦探知任務がなくなってからは、宝の持ち腐れになった。先日、那覇空港に降りるとき、P3C8機近くも「翼を安めている」のを目撃した。近年沖縄に行ったとき、いつもズラッと並んでいたから、仕事がないのだ。
  同じことは、イージス艦にも言える。艦内には、米軍が日本側に教えてくれない情報もあるという。イージス艦は米核戦略に組み込まれているから、すべての情報が日本側に知らされているわけではないのだろう。こうした事情も含め、イージス艦の派遣は問題である。ところが、「通常型護衛艦では艦内の空調がよくないが、イージス艦は居住性がいい」という新手の「理由づけ」により、派遣は呆気なく決まった。法的には、テロ対策特措法による実施要綱(2001年11月20日策定)の変更という形をとった。こうした小手先の変更で、日本は一線を超えた。自民党内にもイージス艦派遣に対する反対の声があるのも、この船のシンボリックな存在の故だ。このタイミングであえてこの艦を派遣することは、日本が「ブッシュの戦争」に英国に次ぎ3番目に熱心だという印象を与える。少なくとも、アラブ世界をはじめ、各国からはそう見られるだろう。ドイツの場合は、「ブッシュの戦争」から一線を画したというイメージが強く、トルコ上空のAWACSの注目度は格段に低い。ドイツの空(AWACS)と日本の海(イージス艦)。二つの象徴的な兵器が、「ブッシュの戦争」を目前にして、二つの国の明暗を分けようとしている。

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