読売新聞2002年6月11日第2社会面
ひき逃げ死亡「飲酒隠し」と地検が危険運転の訴因追加


 東京都多摩市でバイクの専門学校生が飲酒運転の車にひき逃げされ死亡した事故の公判で、東京地検八王子支部は10日までに、業務上過失致死傷罪などで起訴した被告に対し、危険運転致死傷罪の適用を求める訴因追加を行った。被告は飲酒運転を隠すため、事故後に酒を飲む「重ね飲み」をしていたが、事故当時の状況などから、被告に危険運転の認識があったことを立証できると判断したと見られる。最高刑で懲役15年の同罪を検察側が訴因追加するのは極めて異例。同罪適用を求めて運動してきた専門学校生の遺族の思いが実る形となった。

 被害者は多摩市鶴牧の岩崎元紀さん(当時19歳)で、今年1月23日深夜、飲酒運転で時速約80キロで暴走していた名古屋市港区の会社員久野和也被告(37)のワゴン車に追突され、死亡したとされる。久野被告は事故直前に別のオートバイの男性(17)に追突して逃走しており、岩崎さんの事故後に酒を飲んだように装うため、日本酒を買って飲んでいたという。

 同支部は当初、通常の事故と同様に業務上過失致死傷罪(最高刑・懲役5年)などで起訴。岩崎さんの父、祐一さん(50)と母、悦子さん(51)に、久野被告の「重ね飲み」で事故当時の飲酒量が確定できないことを挙げ、「危険運転致死傷では立証が難しい」などと説明していた。

 これに対し祐一さんらは先月、森山法相を訪ね、「これでは、どんな悪質な事故も重い罪を免れられる」との上申書を提出。同罪適用を求める署名運動を事故現場で今月から展開し、10日までに約1万5000人分を集めていた。訴因追加を知った2人は「気持ちが通じた。うれしい」と話している。

 交通事故問題に詳しい古田兼裕弁護士は、「業務上過失致死傷と危険運転致死傷は、一方しか適用されない法条競合の関係にあるため、訴因追加は極めてまれなケース。危険運転の認識を立証できると踏んだのだろうが、それなら、なぜ最初から同罪で起訴しなかったのか」と話している。