暴走するアメリカの世紀
(ポール・ロジャーズ著、岡本三夫監訳  法律文化社 二二○○円)

 「9・11」から二年たった。この間「対テロ戦争」(アフガン戦争)と「イラク戦争」が起きた。それは、「本当に彼は当選したの?」という疑問を引きずる大統領による、国連安保理決議に基づかない、自衛権行使ですらない、むきだしの暴力だった。米国の「暴走」はなぜ起きたのか、そしてどこへ向かうのか。原書の副題が「二十一世紀におけるグローバルな安全保障」とあるように、本書の検証範囲は広く、かつ深い。

 まず、グローバルな地球社会の構造分析にはじまり、「9・11」に通ずる「前史」が徐々に浮き彫りにされていく。ポスト冷戦から「9・11」を考えるのではなく、四十五年間の冷戦の評価から入るところも、本書の特徴である。冷戦期、核先制使用に結びつく思考回路がどのように生まれ、数々の誤警報や核事故によって「危機」が現実化したか。冷戦期の分析も多面的で、示唆的である。

平和求める市民に元気

 国際(関係)政治学者らのありきたりの分析と異なるのは、著者が反核・平和運動への眼差(まなざ)しを失っていないからだろう。民衆の視点からの平和論的対案が背後に控えていることも、本書の強みと言える。

 では、今後はどうなるのか。著者は、世界的な経済格差、環境問題、軍事技術(大量破壊兵器)の拡散を紛争要因としつつ、世界の片隅に追いやられた人々による「反エリート行動」が紛争を増大させるとみる。これを軍事力で抑えることはできない。ならばどうするか。著者は「挑戦と変革の可能性の時期」がくるという。二十一世紀の最初の数十年は、世界社会の分裂が不安定と暴力をもたらすが、同時に、より社会的に公正で、環境的に持続可能な世界秩序をめざす大きな進展のある時代になる、と予測する。本書は、平和を求める市民に、冷静で有益な視点と「元気」をプレゼントしてくれる。

 なお、九人の訳者の三分の二は道内の平和研究者である。この人的資源を活(い)かし、北の大地に根ざした平和論の一層の発展が期待される。

評・水島朝穂(早大教授・憲法、法政策論)