ジャパンタイムズ 2004年5月3日

改憲容認派 増加の傾向 − 9条はいまだ議論

 戦争放棄を宣言した憲法が改正される可能性が大きくなってきている。もっとも、9条の改正については、依然として慎重さが要求されており、世論のコンセンサスを得ることは大変困難である。憲法は1947年の制定以来、まったく手をつけられていない。
 2000年に両院に設置された憲法調査会による論議は最終段階に入った。また、与党自民党と野党第一党の民主党は、それぞれ独自の改正試案を作成している。
 憲法改正には各議院の3分の2以上の賛成にしたがって、有権者の過半数の賛成が必要である。つまり、有権者は憲法の改正に関して最終的な判断を下す。世論調査によると、憲法改正に賛成の人の数は増えている。
 憲法改正には慎重な朝日新聞の調査(4月)によると、1945人の回答者のうち53パーセントが、憲法改正に賛成であった(2日付朝刊)。改憲派が過半数を上回るのは、同紙が1995年に調査を開始して以来、初めてのことである。国会での議論は憲法のすべての範囲を網羅しているが、各種世論調査や衆院憲法調査会に寄せられた意見によると、世論の関心がもっとも強いのは、国家による軍隊の保持を明文で禁止し、戦争放棄を宣言した9条についてである。
 改憲支持者による議論は、自衛権を認め、自衛隊を国際貢献に使えるように憲法を改正することを目指している。また、集団安全保障の枠組みに加わるべきである、と主張する人もいる。
 しかしながら、具体的に憲法9条をどうするかということについて世論の大方はいまだに決定していない。中田啓介氏(法学部4年)は、授業中はずっと沈黙をたもっていたが、最後に「自衛隊が緊急時や災害救助活動に参加することは問題ない」と発言した。この日のゼミのテーマは「憲法と国際貢献」だった。「しかし、軍事力の必要とされる戦闘地域において、国はどうすべきなのか、また、どうしたらよいのか、私はその問いに答えることができない」とも言った。
 中田氏のように、多くの日本人は国に国際社会に貢献してほしいという強い願望を抱いている一方で、軍事力を使う活動に参加することは賢明ではないと考えているようだ。
 日本の軍隊のイラクへの展開−第二次大戦後初めての紛争地域への派遣について、世論ははっきりと二分されている。
 朝日新聞の調査では、過半数が憲法改正を支持したが、60パーセントの回答者が、9条は変えるべきではないと主張した。これは前回調査(2001年)とくらべ、14ポイントさがっている。
 より保守的な読売新聞によって3月に行われた調査では、1823人の回答者のうち65パーセントが憲法の改正を望んでいる。だが、そのうち9条の改正に賛成しているのは、44パーセントであった。
 読売新聞の調査では、憲法改正に賛成する最も大きな理由として、日本が現行憲法の制約のために「『国際貢献』をはじめとする新たな課題や要求」に的確に答えられなくなってきたことをあげている。
 国際貢献の必要性は、朝日新聞の調査においても、前回の調査では17パーセントであったが、今回の調査では31パーセントまで増加しており、9条改正支持のもっとも大きな理由としてあげられている。
 憲法改正に関する政治的な論議は、1991年の湾岸戦争以来、活発化した。多くの政府関係者や官僚は、日本が130億円を米国主導の多国籍軍に提供しただけで、人的貢献ができなかったことに、外交的屈辱を感じていた。
 それまで、日本の大方の雰囲気としては、事実上、アメリカ占領軍によっておしつけられた、戦時中のアジア諸国に対する侵略という歴史の上にたっている憲法を改正しようという話題を持ち出すことさえタブーであった。
 つまり、1990年代のはじめに、政治家が憲法改正について主張をするようになったのは、戦後感情からの脱却であったといえる。
 マスコミ界では、日刊新聞では最大の発行部数をほこる読売新聞が、自身の憲法改正試案を1994年と2000年に発表した。この試案で読売新聞は、国家の権利としての自衛権を認め、自衛隊を国際貢献のためにも使えるようにすることを、ほかの論点も含めて主張している。
 世論は、自衛隊という軍隊を、1990年代の一連の国連の支援する平和維持活動に参加させることに関しては、次第に憲法改正に賛成へと転じているようである。
 しかし、改憲論者の中には、自衛隊のイラク派遣について疑念をいだきはじめている人もいる。
 自衛隊派遣を決定するにあたって、小泉純一郎総理大臣は、ほかに理由をあげながら、日本のアメリカとの同盟関係を強化する必要があると述べた。
 「アメリカの従属的なひとつの州のように、盲目的にアメリカについていくような国になってほしくない。9条はそのブレーキとしての役割を果たしている。」と慶応大学法学部教授の小林節氏は言った。
 小林氏は、いままでただ一人、憲法学者の中で9条を改正し、日本は自衛隊で自国を防衛できるように明文化すべきであると主張していた。だが、少なくとも現在は、もはや改憲論者ではなくなっている。
 「法の解釈を確定する政府の姿勢についてはひどくおどろいている。」と、小林氏は言う。そして、いまだにイラクでは戦闘が続いているにもかかわらず、自衛隊の人員は「非戦闘地域」においてのみ活動する、として政府が自衛隊派遣を正当化したことにふれた。
 「政府は非戦闘地域がどこか判断するのは自衛隊自身である、といっている」と小林氏は言う。しかし少なくとも、国際法の上では、イラクには非戦闘地域など存在していない。イラクでは、ゲリラによる戦争が多発している、と述べた。
 早稲田大学の憲法のゼミでは、「国際貢献」の定義に関する問題が提起された。「国際社会という言葉が何を意味するか、よく考えなければならない」と神庭亮介氏(法学部4年)は言う。もし米国主導の軍事活動を支援することが、国際社会に対する貢献であると考えられているとしたら「その意味がすごくせまいように感じる」と言った。
 「国際貢献の主体は、自衛隊に限られるべきではない」と小山結貴氏(法学部3年)は言う。NGOは、自衛隊という軍隊よりも、紛争地域において救援活動をするにあたり、より効率的、かつ経済的に活動できる、と小山氏は野党議員の議論を引用して述べた。
 授業の最後に、ゼミの指導教員である水島朝穂教授が、「国際社会の関心」の定義について深く考えるように言った。
 「国家の建設にあたっては、たくさんの要求がある・・・そして、われわれはその要求に応えなくてはならない。」「しかし、軍事的手段を選択した場合、憲法の制約に直面する・・・今われわれに問われていることは、日本が国連の枠組みからはずれた有志連合のなかで軍事力を用いることに参加すべきかどうか、である。」

[藤田裕喜訳]