沖縄タイムス2004年5月2日朝刊1面コラム

大弦小弦

 イラクで最初に人質になった三人のうちフォトジャーナリスト郡山総一郎さん(32)とフリーライター今井紀明さん(18)が記者会見し、解放までの全容を明らかにした。
 事件直後に憲法学者の水島朝穂早稲田大教授がホームページで取り上げていたのが今井さんだった。北海道の高校で講演した際に的を射た質問をし、ゼミ学生らが「あれで高校生?」と圧倒されたと紹介していた。

 十代とは思えないほどしっかりしている。人質にされ死に直面させられた場面を冷静に再現してみせた。米軍がイラクで使用したとみられる「放射能兵器」の劣化ウラン弾の被害調査をし、日本に伝えることが目的だった。

 ボランティア活動家の高遠菜穂子さん(34)は精神的ショックから回復せず出席できなかった。郡山さんに「人前に出られない」と訴えたという。人質になっていたときから三人に対する自己責任論が噴き出し、ネットでは匿名性をいいことに誹謗中傷が書き込まれた。

 自らの行動に責任が伴うのは当然のことだ。現地の状況判断に甘さがあったかもしれない。それでも、事件はむしろ、日本社会の不寛容さを映し出したのではないだろうか。

 記者会見をみて志を持つ若者たちが、世界に向き合っている姿に共感を覚えた。二人は米軍の戦争と自衛隊への率直な疑問も吐露した。生きて帰れたことに感謝し、頭を下げた。外部に開かれ、行動する精神はだれも否定できない。(崎浜秀光)