2005(平成17)年会社法についての感想   正井 章筰(まさい しょうさく)

(1) 2005年会社法は、これまでの規制を大幅に緩和した。これは、日本政府の、規制緩和による不況からの脱却という基本的考えにしたがったものである 。できるだけ事前の規制を撤廃し、問題が生じたときは、事後に救済すればよい、という考えの下に、会社法の基本原則(たとえば、資本金・最低資本金制度)までが変更された。しかし、会社法を景気回復・株価引き上げの道具として使おうという発想は、根本的に間違っている。企業不祥事の続発に鑑みると、その防止、企業と市場に対する国民の信頼の回復こそ、会社法制定の基礎としなければならなかったはずである。また、事後の救済を受けるには、当事者(被害者)にとって、大変なエネルギー(労力・費用・時間)が必要となる。救済のための会社法・民事訴訟法などの手当てが、予め整備されていなければならない。しかし、それらの手当ては不十分なままである。

 規制緩和の大きな流れに沿って、会社法は、原則として強行法規であった株式会社法制を、原則として任意法規とした。それによって、会社の定款で決めることができる範囲が大幅に拡大された。つまり、株主総会において決定できる事項が増えた。株主総会を支配する者(経営者、多数派株主)に、広い自由が与えられたのである。その反面、少数派の株主が不利益・被害を受ける場面が増えた。とくに、上場会社では、経営者の裁量の範囲が拡大した結果、少数派である個人株主が不利益を受けるおそれが拡大した(たとえば、「合併等対価の柔軟化」による会社からの締め出し)。少数派株主保護のための手当ては、きわめて不十分である。

 会社法の施行によって、会社の設立(いわゆる起業)は増えるであろう。しかし、会社法は、会社の内部組織だけでなく、多方面(証券取引、税制、労働法制など)に大きな影響を及ぼす。その副作用が心配である。規制緩和=定款自治の範囲の拡大=経営者の裁量の余地の拡大→不祥事の続発→株主の被害の拡大→上場会社と市場に対する信頼の喪失→投資者の市場からの資金の引揚げ→株価下落→経済の崩壊、といった事態を招かないような方策を、早急に整備しておかねばならない。

(2) 会社法は、国民の権利・義務に直接に関連する多くの事項を法務省令に委任している。それだけでなく、法務省令の中には、会社法によって委任されていないにもかかわらず規定している項目(たとえば、会社法施行規則94条)があり、また、委任されていても、その範囲を越えていると思われる項目も多い。これは、国会中心主義(憲法41条)・法治主義に反している。早急な改正が必要である。同時に、分かりやすい会社法・法務省令に変えなければならない。日本の法治主義と法文化の程度が問われている。