北海道新聞2006年8月8日 政治

国民保護計画策定 自治体、自衛隊OB頼り 道と10市町が採用  2006/08/08 08:48 〔WEB版〕

国民保護法の施行により、自治体が自前の保護計画策定やテロ対策訓練の準備を国から求められる中、道内で自衛官OBを採用している自治体が、道のほか十市町に上ることが分かった。OBの主な業務は、計画の策定や訓練の準備で、自治体が独自には十分に対応できず、有事の専門家の自衛官OBに頼らざるを得ない実態が浮かび上がる。

 自衛隊の札幌地方協力本部によると、全国では昨年四月に採用した道の一人を含む四十都道府県が自衛官OBを採用。市区町村単位では三十八の自治体に上る。このうち、道内は二○○二年四月採用の千歳市を皮切りに、札幌、函館、旭川、帯広、岩見沢、苫小牧、北斗、美唄市と網走管内美幌町の九市一町で、計十三人が働く。これらの自治体の大半は、自衛官OBの採用は初めてだ。

 苫小牧市に一月、嘱託防災指導員として採用され、計画策定に携わる元二等陸佐の佐々木正博さん(55)は「武力攻撃は、自然災害を想定した防災計画とは異なる面もあり、自衛隊の経験が役立つ」と話す。

 札幌市は○四年七月、陸自OB一人を採用。危機管理指導員の職名で、計画策定についての助言や、自衛隊と市の連絡調整を担う。平野誠・国民保護計画担当課長は「計画作りは市職員だけでは分からない点が多い」と指摘する。

 道には連日、各市町村から「海に面してないので、海上保安部などとの連絡はどうすればいいか」「攻撃の想定が立てにくい」など、計画策定に関する相談が相次ぐ。

 国民保護計画は、○四年六月成立の有事関連七法の一つ「国民保護法」に基づき、自治体ごとに策定義務がある。武力攻撃に備え、住民の避難や救援体制を取り決めておく計画で、昨年度中に全都道府県が策定。市町村は来年三月までに作る必要がある。

 道と国は八月二十五日、苫小牧市の苫小牧東部地域(苫東)で、国民保護法に基づく道内初の実働訓練を行う。石油タンクが炎上後、テロ組織による犯行と分かる筋書きで、自衛官OBの道職員も準備段階から助言している。道は将来、こうした実働訓練に地域住民も参加させたい意向だ。

 ただ、有事法制に詳しい早稲田大学法学部の水島朝穂教授は「自衛隊は有事の際、米軍基地や重要施設をいかに警備するかに主眼がある。このため、OBを採用しても住民保護の観点では効果が薄いことを、採用した自治体は認識すべきだ」と指摘している。