東京新聞2006年5月4日 コラム「筆洗」

「『オッカムのカミソリ』と呼ばれる論理学の命題がある。それ…

「『オッカムのカミソリ』と呼ばれる論理学の命題がある。それは『必要がないものをふやしてはならない』ということで、実に幅広く応用がきく」

▼憲法記念日の三日、立花隆さんの近刊『滅びゆく国家 日本はどこへ向かうのか』(日経BP社)を読んでいたら、こんなくだりにぶつかった。ウィリアム・オッカム(一二八五−一三四九)は唯名論を唱えたイギリスのスコラ哲学者

▼憲法論争はつまるところ、九条二項の必要性の当否に尽きるという立花さんは、解釈改憲で足りるとの立場だ。オーストラリアが大統領制提案を否決して英女王を国家元首のままとした保守派のスローガン「壊れていない車は修理するな」をひきあいに出す

▼自衛隊に先制攻撃力を持たせようとする改憲論が、環境権やプライバシー権、知る権利などを盛り込もうとするのは「過剰なめくらまし」で、「オッカムのカミソリ」で切り落とせばすむという

▼自衛隊を非軍事化して国際救助隊とする「サンダーバード構想」で、高次の現実主義を提唱する水島朝穂早稲田大教授は『憲法「私」論』(小学館)で、英語で「憲法」と同じ「コンスティテューション」を使う日米「構造」協議の流れとともに進んできた米軍再編と改憲論議の相似に注目する

▼「憲法を尊重し擁護する義務」を定めた九九条が、国民ではなく公務員の行動規範であることに憲法の本質をみる飯室勝彦中京大教授は、近著『敗れる前に目覚めよ』(花伝社)で、戦艦大和・臼淵磐大尉の最後の言葉を歴史の教訓として受け継いでいる。