「96条の会」発足――立憲主義の定着に向けて(1)             2013年5月27日


5月8日、「96条の会」の発起人の会合が開かれ、記者会見で発表する声明案を決定。代表に樋口陽一氏(東大・東北大名誉教授)を選出し、正式に発足した。発起人の顔ぶれはきわめて多彩で、これまでこの種の行動(賛同署名を含めて)に参加したことのない方々が多く含まれている。改憲派の小林節氏(慶應大学教授)も加わり、メディアの注目は一気に高まった。

先週の23日午後、衆院第一議員会館会議室で「96条の会」の記者会見が開かれた。代表の樋口氏は、「国会は3分の2の合意形成まで熟慮と討議を重ね、国民が慎重な決断をするための材料を集め、提供するのが職責のはず。過半数で発議し、あとは国民に丸投げというのは、法論理的に無理がある」と訴えた(『朝日新聞』5月24日付による)。初めて同席した改憲派の小林節氏は、安倍首相が96条改正で「憲法を国民の手に取り戻す」と述べたことを批判。「憲法に縛られるべき権力者たちが国民を利用し、憲法をとりあげようとしている」と指摘した(同)。

 私は夕方まで授業があったため、記者会見には参加しなかったが、その場にいた方からのメールによると、60名あまりの記者が参加。「大学の授業みたいな雰囲気」に満たされたそうである。実際、私も知人の新聞やテレビの関係者にメールで記者会見のことを知らせたところ、すぐ反応がかえってきて、関心の高さを実感していた。冒頭の写真のように、『東京新聞』5月24日付が一面トップにもってきたのには驚いた。

 私は4月に国会議員による「憲法96条研究会」が発足したとき、きわめて志の低い研究会で、「憲法改正をやりやすくする政治家の会」とでも呼ぶべきだと酷評した。他方、この「96条の会」は、市民の側が、「まず96条から改正」という権力側の動きを阻止するという一点で結成されたもので、その意味では発議権をもつ国会議員の「96条研究会」とは質が違う。

「96条の会」は小さいが、国会議員のかつての恩師もおり、影響力は決して小さくない。ちょうど自民党政調会が参院選の公約を審議しているところだったが、5月に入り、「まず96条から改正」を参院選公約に入れると勢いづく安倍首相に対して、党内に慎重な意見も芽生えはじめていた。その結果、公約に「96条先行改正」が盛り込まれなかった。これは一つの変化である。メディアも、一部を除き、「先行改正」に批判的になりつつある。自民党に迷いが見えてきた点を、『産経新聞』24日付は「自民、96条先行改正公約化見送り 改憲機運の低下を懸念」と残念がっている。『読売新聞』5月23日付社説は、「改憲論議が失速しては困る」という実に露骨なタイトルだった。直接的には橋下徹代表の従軍慰安婦問題と米軍「風俗活用」の暴投発言によって、みんなの党と維新の会の選挙協力が解消されたことについての社説だったが、「両党が反目するのは残念である。これによって、高まっていた憲法改正論議が失速するようでは困る」とぼやいている。維新の会は25日の役員会で、参院選は「96条先行改正」を訴えていくと確認しているので、楽観はまったくできない。

ここで、「96条の会」の呼びかけを掲げておこう。5月8日に発起人で検討し、樋口氏の詳細な手書きメモをもとに確定したものである。

「96条の会」呼びかけ文

 憲法改正手続きを定めた憲法96条の改正がこの夏の参議院選挙の争点に据えられようとしています。これまでは両院で総議員のそれぞれ3分の2の多数がなければ憲法改正を発議できなかったのに対し、これを過半数で足りるようにしようというのです。自民党を中心としたこうした動きが、「国民の厳粛な信託」による国政を「人類普遍の原理」として掲げる前文、平和主義を定めた9条、そして個人の尊重を定めて人権の根拠を示した13条など、憲法の基本原理にかかわる変更を容易にしようと進められていることは明らかです。

その中でもとりわけ、96条を守れるかどうかは、単なる手続きについての技術的な問題ではなく、権力を制限する憲法という、立憲主義そのものにかかわる重大な問題です。安倍首相らは、改憲の要件をゆるめることで頻繁に国民投票にかけられるようになり、国民の力を強める改革なのだとも言っていますが、これはごまかしです。今までよりも少ない人数で憲法に手をつけられるようにするというのは、政治家の権力を不当に強めるだけです。そもそも違憲判決の出ている選挙で選ばれた現在の議員に、憲法改正を語る資格があるでしょうか。

96条は、「正当に選挙された国会」(前文)で3 分の2 の合意が形成されるまでに熟慮と討議を重ね、それでもなお残るであろう少数意見をも含めて十分な判断材料を有権者に提供する役割を、国会議員に課しています。国会がその職責を全うし、主権者である国民自身が「現在及び将来の国民」(97条)に対する責任を果すべく自らをいましめつつ慎重な決断をすることを、96条は求めているのです。その96条が設けている憲法改正権への制限を96条自身を使ってゆるめることは、憲法の存在理由そのものに挑戦することを意味しています。

私たちは、今回の96条改正論は、先の衆議院議員選挙でたまたま多数を得た勢力が暴走し、憲法の存在理由を無視して国民が持つ憲法改正権のあるべき行使を妨げようとする動きであると考え、これに反対する運動を呼びかけます。来る参議院選挙に向けて、96条改正に反対する声に加わってくださるよう、広く訴えます。               

2013年5月23日/「96条の会」発起人

 なお、「96条の会」発足シンポジウムが下記の通り開催される。私も発起人として参加し、時間があればリレートークで発言する予定である。

熟議なき憲法改定に抗して
   −「96条の会」発足記念シンポジウム−
日時:6月14日(金)18時会場、18時30分開会
場所:上智大学
内容:基調講演 樋口陽一東大名誉教授(代表)
  シンポジウム「96条改定の何が問題か」
  長谷部恭男(東大)、小森陽一(同)、山口二郎(北大)
、  岡野八代(同志社大)。司会・杉田敦(法政大教授)
  リレートーク(「96条の会」発起人からの発言)
その他:参加費無料。予約は不要。

 明日、5月28日、『改憲の何が問題か』(岩波書店)が発刊される。編者は奥平康弘、愛敬浩二、青井未帆の各氏である。私はUの5(緊急事態法制)を執筆している。参照されたい。

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