国民投票有権者だけ18歳以上に?――『はじめての憲法教室』発刊に寄せて              2013年10月21日

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週17日、集英社から拙著『はじめての憲法教室―立憲主義の基本から考える』が発刊された。5月16日のゼミの時間(2コマ連続180分)を使ったフリートーキングの記録がベースになっている。通常、私のゼミは学生が自主的にテーマを選んで「発表班」を組織し、必要に応じて当該テーマの関係者や現場(地方を含む)を取材して報告・討論する海外取材の報告もある。ゼミの時間中に私が発言するのは、原則として終了間際の15分ほどだけである。しかし、この5月のゼミは例外的に私が仕切って解説もする、一回性の「番外ゼミ」となった。

実は6年前、第一次安倍内閣のとき、憲法改正国民投票法(憲法改正手続法)案が国会に提出され、ゼミでも憲法改正問題について盛んに議論したことがあった。その頃のゼミの「空気」について、当時私はこう書いている。「近年のゼミの議論では、『とにかく憲法を変えてみよう』というような意見や、何でもなしくずしでやってきたことはよくないから、『なしくずしマインド』から脱却すべきだという議論も出るようになった」と。「なしくずし」でなく、明文改憲できちんとさせるべきだ。これはわがゼミでもけっこう有力な意見だった。そこで、私は、憲法改正を議論する際に求められる「作法」について語った。慶応大学の小林節研究会〔小林ゼミ〕との合同ゼミも2回行って、憲法改正問題について各論的に深めていく試みも行った。そうした16年間の経験の蓄積の上に、今回の「番外ゼミ」はある。

この「番外ゼミ」をまとめた本書で私が最も言いたかったことは次の点である。すなわち、「いま、憲法をめぐる対立軸は、伝統的な『護憲か、改憲か』ではない。憲法について理性的な議論が可能な、立憲主義を前提とする立場と、濃厚な価値観を前面に押し出し、立憲主義そのものを否定する『壊憲』の立場との対立である。大切なことは、護憲・改憲を超えて、『憲法とは何か』についての議論から始めることである。…本書が、憲法について考えようという憲法改正国民投票有権者の手元に届き、議論が始まるきっかけになることを期待したい」(エピローグ、185〜186頁)。

いま、安倍政権は前のめりで改憲に向かっている。その手法はかなり強引で荒っぽい。憲法96条先行改正を前面に押し出してきたかと思えば、集団的自衛権の合憲解釈や秘密保護法制定など、憲法の実質的な空文化をはかる手法も駆使している。「憲法改正の作法」を心得ない、何とも強引な手法がとられている。

その一つのあらわれが、憲法改正国民投票の投票年齢を18歳以上とする国民投票法改正案である。自民党はそれを、この臨時国会に提出する方針を決めたという(『東京新聞』2013年10月16日付)。10月15日の所信表明演説で安倍首相は、「憲法改正について、国民投票の手続きを整え、国民的な議論をさらに深めながら、今こそ前に進んで行こうではありませんか」と述べた。

2007年5月に国民投票法が可決・成立したときのことを思い出していただきたい。成立を焦った安倍首相は、井上秘書官を通じて自民党国対に採決を急がせ、採決を強行させた。そのため審議が不十分になり、附則に「宿題」を盛り込み、18項目もの附帯決議をつけて、たくさんの課題を先送りすることになった

その「宿題」の一つが投票権者の年齢である。附則3条には、「国は、この法律が施行されるまでの間に、年齢満18歳以上満20歳未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」とある。

附帯決議の第2項には、「成年年齢に関する公職選挙法、民法等の関連法令については、十分に国民の意見を反映させて検討を加えるとともに、本法施行までに必要な法制上の措置を完了するように努めること」とあり、2010年5月18日の施行日までに18歳選挙権・成人の措置が「完了する」ことが求められていた。

この3年間、国民投票法は必要な法制上の措置がとられぬまま放置されてきた。ここへきて、安倍首相は、成人や選挙権については棚上げしたまま、国民投票の投票年齢だけ18歳に引き下げようとしている。6年前、投票年齢を18歳以上にする理由は、若者に政治的関心を持ってもらうということだった。附則に入った18歳選挙権との連動も自然だった。しかし、国民投票だけ18歳にするという法案がこの臨時国会に出てくるとすれば、それはどう説明されるのだろうか。

18、19歳の若者はフェイスブックなどにはまっている人たちが他の年齢層よりも多いから、「フェイスブック宰相」(『ニューズウィーク』誌7月30日号の表現)の安倍首相としては、「いいね、いいね」「改憲いいね」をたくさんもらえる可能性が高いと見込んでのことだろうか。これでは、憲法改正のためには手段を選ばずではないか。

憲法96条は、憲法改正には、衆参の各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、国民投票の過半数の賛成を必要とすると定める。今年の前半、安倍首相はこの「3分の2」を「過半数」にすることに異様にこだわり、96条先行改正に前のめりになっていた(最近はほとんど言わなくなったが)。

今度は投票権者の年齢を18歳以上にすることに前のめりになるのか。しかし、憲法改正の発議を行う国会議員を選ぶことのできない18歳、19歳が、発議された憲法改正案についてだけ賛否を問われるというのは首尾一貫しない。これでは、国民投票有権者のなかで、18歳と19歳だけが発議結果のみ判断するという低い扱いを受けることになる。附則や附帯決議が国民投票の年齢を18歳に引き下げるならば、同時に18歳選挙権にすべきだという判断をしたのは自然である。18歳選挙権についてとうの18歳があまり積極的でないという現実があるのも確かだが、むしろ、この機会に18歳選挙権導入に向けた努力を本格的にすべきではないだろうか。

安倍第一次内閣が憲法改正国民投票法で投票権者を18歳以上としたときに企画が生まれたのが拙著『18歳からはじめる憲法』(法律文化社)だった。今回、『はじめての憲法教室―立憲主義の基本から考える』としたのは、第二次安倍内閣で、文字通り「立憲主義」をないがしろにする施策が矢継ぎ早に出されていることから、立憲主義を基軸にすえて、憲法の問題を考えてほしいと思ったからにほかならない。ゼミ生と私との議論を通じて、読者が憲法の問題について少しでも考える機会になれば幸いである。

《付記》本稿脱稿後、自民党憲法改正推進本部の総会で、投票年齢を18歳に引き下げる国民投票法改正案に対して反対の声が出て、改正案の了承を見送った(10月18日)。船田元・本部長代行は、次回総会で原案通り了承を求めるという(『朝日新聞』10月19日付)。

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