子どもを米国の戦争で死なせない――女性週刊誌と安保法制            2015年5月25日

女性自身・記事

女性自身・記事

ットで情報を得て、『女性自身』という週刊誌を買いにコンビニまで行こうと思った。でも、小学校6年生の時に本屋に『平凡パンチ』を買いに行ったときよりも戸惑った。結局、帰宅した妻に買ってきてもらい、早速目を通した。まさに女性週刊誌である。「カンタン朝食31日分」、「八ヶ岳は“美智子さま愛の原点”」、「浅田真央 葛藤秘話」…。ページをめくり、裏表紙に近い本文の最終頁(172頁)の直前3頁にその記事はあった。表紙に出ているタイトルは「戦争法案 安倍さん 子供たちの“未来の幸せ”描けてますか?」。本文の主タイトルはもっとはっきりしている。「あなたの子供が”アメリカの戦争”に命を捨てる!戦争法案がついに国会審議を経て、7月にも成立へ」である。「存立危機事態」や「重要影響事態」などをわかりやすく図表化。ここには、レシピもゴシップも佳子さまもヨン様もなく、まったくの別世界がある。

この週刊誌は41万部。主に主婦層が読んでいる。政治や憲法の問題に女性は決して無関心ではないが、その関心をよぶような素材と切り口をどうするかである。安保法制問題で安倍政権の面々はあまりに傲慢で、女性を怒らせ、不安にさせるようなことばかり口走る。そんなこともあってか、『女性自身』が骨太の記事を載せた。

その出だしは、法案を閣議決定した日の記者会見における安倍首相の言葉である。「アメリカの戦争に巻き込まれるのではないか。漠然とした不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。その不安をお持ちの方にここではっきりと申し上げます。そのようなことは絶対にあり得ません。…戦争法案などといった無責任なレッテル貼りは全くの誤りであります」(引用文は官邸HPより)と。女性を念頭において語ったものだろうが、逆効果だった。これに続く文章の小見出しは、「『絶対ない』は信用できない!」である。

「絶対にあり得ません」なんていう男を信じられるだろうか。2007年7月に「最後のお一人にいたるまで、責任をもって年金をお支払いすることをお約束します」と言いながら、その2カ月後には政権を放り出した「前禍」がある。よもや忘れまい。今度は、直前まで戦闘行動が行われているところまで自衛隊を派遣できるようにする以上、相手から攻撃をされるリスクは格段に高まる。米国の殴り込み部隊である海兵隊がオスプレイで紛争地域に投入されたとき、その「後方支援」(現代戦ではきわめて相対的な概念)を行う自衛隊に戦死者がでないという保証はまったくない。それを「絶対にない」と言い切った。かつて年金を支払うという約束を反故にした責任も重大だが、今回は人の命が失われる可能性を一気に高めた点で、責任はきわめて重い(注)。

次の頁には、アーミテージ元米国務副長官の写真と、「アメリカ人を守るために自衛隊員も命を懸けるという宣誓なのだ」という中見出しがある。え、こんな宣誓あり?と思って本文を読むと、「かつて日本を牛耳っていたアーミテージ元国務副長官が、先日テレビのインタビューで、『日本の自衛隊が米国人のために命を懸けることを宣誓した』と発言しているんです。これが今回の安保法制の本質なのです」という森田実氏(政治評論家)のコメントだった。なるほど、「安保マフィア」の一人であるアーミテージは、安保法制が完成すれば、現行の自衛隊法の枠組みが大きく変容し、自衛隊員が米軍のために死ぬ宣誓をすることになることを見抜いている。すなわち、自衛隊法施行規則39条はその服務の宣誓について定める。宣誓の言葉は次の通りである。

「私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の付託にこたえることを誓います。」

安保関連法制が整備され、武力攻撃事態法のなかに「存立危機事態」が組み入れられれば、「他国防衛」である集団的自衛権の行使が可能となる。その結果、「我が国の平和と独立を守る」だけでない、他国防衛のために隊員の危険が高まることになる。8年前に、海外出動の「本来任務化」が自衛隊法3条改正で行われたが、これはあくまでも「我が国の防衛」が主たる任務で、「他国防衛」まで含むとは解釈できない。だから、3条改正をして、他国防衛を自衛隊の本来任務とするための修正を行うか、解釈で乗り切るか。「宣誓」を定める自衛隊法施行規則39条の改正も視野に入ってくるだろう。「我が国」でないところで、「身をもつて責務の完遂」をすることになるわけだから、もはや「自衛」隊ではない。今回の安保関連法が成立したあと、どんな施行令や施行規則になるだろうか。軍刑法も軍刑事裁判所(軍法会議)も復活するかもしれない。「普通の国」の「普通の軍隊」まで、あと一歩である。

11年前、自衛隊がイラクに派遣されるとき、その先駆けになったのが北海道名寄市の第3普通科連隊だった。その出発前に旭川でこれに反対する集会が開かれ、そこで講演した。そのとき、私の前に陣取ったのはスナックのママさんたちだった。常連さんの自衛隊員が死ぬようなことがあってはならないと参加したものだ。かの与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」もそうだったが、女性たちの平和を求める願いは強烈である。自衛隊派遣について「新手」で読み解きをするような技術屋の論理よりも、母親の情理の方が論理においても勝るときがある。

『女性自身』の特集の最後には、「母が声を上げれば日本を救える!」という見出しがおどる。切り口はわかりやすい。ここではジャーナリストの江川紹子さんが登場し、自衛隊が戦地に派遣されるようになれば、隊員数が減るのではないかと指摘する。「除隊を含め、これだけ少子化の時代に一人息子を自衛隊に入れたくないという親も増えるかもしれない。これから自衛隊の質と量が維持できるか。そういう問題が新たに出てくる可能性もありますね」と。徴兵制の可能性も示唆しつつ、「今の時代の女性たちは、社会的な発言をなす術を持っています。母親たちが「自分の子供を戦場には送らない」と声高に訴え、反戦の意思表示をすれば日本は救われる。」と。今回初めてこの週刊誌を購入したが、他にもいろいろ有益な指摘があり、女性ならずともこの特集は読んで損はない。今後、どういう特集や記事でこの時代と向き合っていくか注目したいし、私もできることは協力したい。

思えば、57年前、岸信介内閣は、安保条約改定に反対する運動に対して警察の機能を強化すべく、警察官職務執行法(警職法)改正案を唐突に国会に提出した。警察官が「公共の安全と秩序」のために警察官の警告・制止・立ち入りの権限を強化するもので、反対運動が急速に盛り上がった。そのなかで、若い世代に読者の多い『週刊明星』が、戦前の「オイコラ警察」を思い起こさせるとして、「デートも邪魔する警職法」という特集を組んだ(1958年11月9日号)。これが「デートもできない警職法」というスローガンとなって反対運動に拍車をかけることになって、改正案は廃案となった。①強引な法案提出の手法、②早期成立を焦ったこと(今回は「夏まで」)、③法案の内容が国民生活を圧迫すると直感されるようなものだったこと(今回は「戦争法案」)、そして④芸能誌(今回は女性誌)に「デートも邪魔する」という歴史に残るキャッチフレーズで批判されてしまったこと、等々。このおじいちゃんの誤りを、孫も忠実に引き継いでいるようである。かつては『週刊明星』、そして今回は『女性自身』が引き金となるか。


(注)本稿を書き上げた後、5月22日の記者会見で中谷元防衛大臣は、新たな安保関連法案によって自衛隊員のリスクが「増大することはない」と断言した。ペロッとこう言い放つ神経は相当なものだ。安倍首相の「絶対にあり得ません」と並んで、この内閣の特異性を示すものと言えよう。憲法66条2項(文民条項)の趣旨から中谷大臣は不適という確信を強めたところである。別稿で詳しく論じたい。

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