「アベノコトバ」がもたらしたもの――安倍・菅政権の8年
2020年12月21日

第2次安倍政権発足から8年

週の土曜日(12月26日)は、第2次安倍晋三政権(官房長官・菅義偉)の発足から8年である。私は発足5日後に直言「「憲法突破・壊憲内閣」の発足」を出して、「日本を、取り戻す。」というスローガンのもと、「国民は、かつてない急角度の制度転換や、みぞうゆうママ」(未曾有)の政治手法を覚悟する必要がある。」と書いた。これは外れていなかったように思う。

6年前、政権発足につながった2012年総選挙のポスターを岩手県平泉の中尊寺付近で見つけ、直言「安倍政権の「異次元の政策」」と、直言「安倍首相の「責任」の意味を問う」の冒頭で使用したところ、前者をアップした直後に、「一国の首相を檻に入れるような扱いは失礼ではないか」という抗議のメールが届いた。5年前は「責任」といっても政治責任の問題で書いたのだが、いまは正面から安倍前首相の刑事責任が問われつつある。今後の展開次第では、「檻に入る安倍夫妻」(河井夫妻と違って、妻は別の罪で)を目撃できるかもしれない。ただ、検察は安倍を不起訴処分にする方向のようである(『毎日新聞』12月19日付一面トップ記事)。歴代大統領が刑事責任を問われて服役する韓国とは大きな違いである。

アベノシリーズ

この8年間、わが研究室は「アベノグッズ」が増える一方だった。「アベノミクス」「アベノマスク」「アベノコラボ」「アベノアプリ」等々の大失策は言うに及ばず、何より安倍・菅政権がこの国にもたらした最大の害悪は「アベノコトバ(言葉)」ではないか。「戦争は平和である」(WAR IS PEACE)、「無知は力である」(IGNORANCE IS STRENGTH)といった「二重語法」(ダブルスピーク)の典型が、軍事に積極的な安倍流「積極的平和主義」だろう。「誠実に」「丁寧に」「真摯に」という副詞が、その本来の意味とは最も遠い場面で頻用され、それにメディアも国民も慣れてしまうという状況も続いている。

防衛費は2021年度予算案で5兆3400億円と過去最大となった。国会を早々に閉じ、コロナと年末のどさくさに紛れて、12月18日の閣議決定によって、菅義偉政権はこの国の安全保障政策の大転換をやってのけた。「コロナ前逃亡」の直後、安倍は、「敵基地攻撃能力」についての首相談話を出した。菅政権はこれをそのまま継承するのではなく、12月18日の閣議決定後の加藤勝信官房長官記者会見では、「スタンド・オフ防衛能力」なるカタカナ煙幕の新語が用いられ、「敵基地攻撃能力」との距離感が演出されている。これも「アベノコトバ」の応用といえる。スタンド・オフ・ミサイルは長射程巡航ミサイルで、陸自の「12式地対艦誘導弾」をベースに開発していくという。「敵」のミサイルの射程圏外から攻撃できるようにするため、射程を約1000キロまで伸ばし、戦闘機や艦艇にも搭載可能にするという。航続距離の長いF35を導入し、これを「空母」に搭載すれば、これらの運用によって、日本領域をはるかに超える範囲を攻撃圏内に置くことが可能となる。これは、日本が設定する目標に到達する能力をもつことを意味する。武力攻撃の着手時期(時間軸)に関連した対応(先制自衛)とは区別される、空間(距離)軸における大きな変化といえる。だが、メディアの反応は鈍い。本命ではない「北朝鮮ミサイル」を理由にして、重要なことが隠されている。この問題については、来年1月の直言で詳しく取り上げる予定である。

「アベノコトバ」の害悪

さて、「アベノコトバ」がいかにこの国に害悪をもたらしているか。何よりも、未来ある子どもたちが、「一国の首相」が大嘘つきであることを知ってしまったことである。衆参の予算委員会などで、安倍は野党議員の追及をことごとく退け、質問者に食ってかかり、ときには居丈高に開き直った。本当に見苦しい質疑だった。

「アベノコトバ」は不快な副詞や連用修飾語が多いのが特徴である。「いわば」「まさに」「そもそも」「〜の中において」「その上において」等々。これらに「ですね」をつけて何度も繰り返すこともあるため、まともに聞く気持ちが萎えていく。例えば、憲法改正の発議は国会が行うのに、やたらと首相がしゃしゃり出てくることを野党議員に追及されると、次のような意味不明の答弁を何度も繰り返した(参議院予算委員会2017年5月9日)。

内閣総理大臣(安倍晋三君)「今、蓮舫委員がおっしゃったように、まさに私がここに立っている立場について、発議権がない、それはそのとおりなんですよ。発議権がないわけでありますし、提案をする言わば考え方もない、発議するのは国会だ、だからそういう立場ではないということでお答えをさせていただけないということでございまして、ですから、まさにですね、まさにそういう意味で蓮舫委員も御理解をいただけているのではないかと、こういうことでございます。」(強調は引用者)

「桜を見る会」前夜祭の資金補填

直近のものとしては、「桜を見る会」前夜祭の問題がある。これについての質疑はきわめて長時間にわたった。2013年から19年までの5年間、「安倍晋三後援会」主催で行われ、安倍側がホテル側へ支払った開催費用は2015年から19年までの5年間で約2300万円にのぼった。1人5000円の会費の総額は約1400万円で、差額の約900万円を安倍側が負担していたことが明らかとなった。安倍は国会答弁で「後援会としての収入、支出は一切なく、政治資金収支報告書への記載の必要はない」と言い続けてきたが、地検特捜部の捜査の結果、実際には、安倍側が差額分を補塡していたことが明らかとなったのである。衆参の本会議、予算委員会をはじめとする各種委員会で、安倍前首相は、膨大な時間を使って嘘をつき続けていたことになる。NHKの国会中継の合計時間数をカウントすれば「被害」の規模が明らかになるだろう。憲政史上、ここまで国会(議会)を愚弄し続けた首相はいないだろう。ここまで国会を欺いた者が国会の一員であり続けることは許されない。遅まきながら、議員辞職すべきだろう。安倍・菅による「失われた8年」は、この国の今後のありように大きな影を落としている。

石破茂の「正直、公正…」

そこで思い出すのは、2018年9月の自民党総裁選の時、対立候補の石破茂元幹事長がテレビで、「正直、公正、謙虚、丁寧、透明、誠実」という言葉を連続して使ったところ、安倍側近の議員たちから「安倍首相への個人攻撃だ」という声があがり、石破が「正直、公正」という言葉を封印したことがある(『朝日新聞』2018年8月25日)。石破がそれらの言葉を使えば使うほど、安倍の「嘘つき、情実・不公正、傲慢、ぞんざい、不透明・秘密、不誠実」が可視化されてしまう。問わず語りに安倍側近は安倍の本質をあぶり出してしまった。一度紹介したことがあるが、上記の動画をクリックして、石破の言葉に落ち着きなく、目が泳ぐ安倍の表情をご自身で確認していただきたい(「報道ステーション」2018年9月18日)。

「96条先行改憲」の破綻

冒頭右の写真は、最近露出度を格段にアップして、院内での記者団のぶらさがりに応じている安倍である。この8年間の、両院予算委員会におけるひどい答弁ぶり(言葉・コトバの発信)のうち、憲法改正はまずは96条 (憲法改正発議は衆参両議院の総議員の3分の2以上の賛成を総議員の過半数に変更する)からという「96条先行改憲」もひどかった。橋下徹(大阪府知事)の入れ知恵と推測されるが、私はこれが出てきたときに批判した(水島朝穂の同時代を診る(連載97回)「「3分の2」と「過半数」の間」(PDFファイル)参照)。この「96条先行改憲」は政権発足から数カ月で姿を消し、二度と安倍の口から出ることはなくなった。菅政権でこの改憲手法が復活することもないだろう。

「アベノコトバ」から「菅語」へ

先週の「直言」でも紹介したように、国語学者の金田一秀穂氏は「菅語」を、「姑息」、「ひきょう」、「その場限り」と特徴づけている。「GoToトラベル」「携帯電話料金半額」「不妊治療の保険適用」「カジノ(IR) 」と、菅の「肝入り」政策のどれをとってみても緊急度は低い。つまり「不急」である。菅の推奨する「マスク会食」も「不急」である。結局、菅義偉「首相」というのが「不要」なのであって、大嘘つきの首相を支えた官房長官こそ、大嘘つきと一体である。コロナの大感染が始まっているなか、「危機における指導者の言葉と所作」をまともに実践できない首相には即刻、退場願おう。そして、大嘘つきの前首相を証人喚問して、国権の最高機関たる国会(憲法41条)の威信を回復すべきである。これには、党派的利害を超えて、与党議員もまた、議会人として協力すべきであろう。

《文中敬称略》

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