憲法をなめていませんか――岸田文雄内閣の発足にあたって
2021年10月11日

東京震度5強、再び

107日午後1041分、首都圏直下の震度5強の地震があった。「歴史グッズ」を密集展示している研究室は、さまざまなものが崩れて床に落ちた。東日本大震災の時ほどではなかったが、かなり散乱して、足の踏み場もない状態になっていた。何とかドアを開けて中に入ったが、ずっしり重い75ミリ野砲弾(サイト内検索で「砲弾」と入力!)を移動しようとして足を滑らせ、右足の小指の上に落としてしまった。激痛が走った。整形外科を受診して治療してもらった。総務省消防庁によると、5都府県で43人が負傷したそうだが(各紙9日付)、私の場合、後片付けでのうっかりミスだから、「震災関連負傷」というところか。

  ともかくも、3.11」の時のような惨状にならなかったのが幸いだった。「日独伊防共協定記念国民大会」の提灯は無事だった。10年前は本に押しつぶされて破損し、修復に時間を要した(『東京新聞』201363日付夕刊1で紹介)。再び大きな地震が起きることを想定して、天井から紐でつり下げておいて正解だった。陶器製や壊れやすい「歴史グッズ」は、箱に入れるなどして低いところに置いていたので被害はなかった。
   来年は関東大震災から100年。近いうちに、ほぼ確実に大地震が起こるといわれているので、2年半後の「店(研究室)じまい」を見据えた対応を考え始めている。


「首相のお菓子」から石破茂キャラが消えた

  104日に岸田文雄内閣が発足した。冒頭左の写真は、岸田の地元の中国新聞号外である。その右は、衆議院第二議員会館地下にある売店(おかめ堂)で売り出された「誕生!キッシー 号外!瓦版煎餅」(賞味期限2022328)と、「ありがとう スガちゃんまんじゅう(パンケーキ風味)(20211215)である。8年ほど前から、ゼミ出身の記者が新作発売のたびに研究室の「歴史グッズ」に提供してくれている。先週の「直言」で安倍・菅政権のお菓子をまとめて紹介したが1年前の「晋ちゃんまんじゅう」と「誕生 スガちゃん瓦割りせんべい」を横に置いて撮影してみた。そこで気づいたのは、今回の「キッシー煎餅」(味は家族には好評)から、昨年まで必ず登場した「石破茂」キャラが初めて消えたことである。この変化を指摘した報道はなかった

憲法67条・68条無視の報道

   ところで、104日付の『朝日』『毎日』の紙面づくりが気になった(『読売』も同じ構図)。この日、憲法53条後段に基づく召集要求を無視し続けるなかで臨時国会が召集された。午後1時から、「他のすべての案件に先だつて」、内閣総理大臣の指名選挙が行われた(憲法671)。参議院でも指名選挙が行われた。両院での指名が異なったときはどうなるか。今までに5回あったが(直近は2008年、衆院・麻生太郎、参院・小沢一郎(民主党))、衆院と参院から10名の委員からなる両院協議会(国会法89)での協議を経て、衆院の議決が国会の議決となる(憲法672)。今回は衆院も参院も自民党が多数を占めているから、このような事態にはならなかったが、憲法上、両院における総理大臣の指名手続が完了してから、憲法68条に基づき、国務大臣の任命が行われる。昔は、総理指名が終わると、官邸前にメディア各社のテント村ができて、閣僚が決まっていくたびに記者たちが慌ただしく動く。閣僚名簿の発表が行われ(慣例上は官房長官が行うが、13年前だけは麻生首相自らがやった)、いわゆる「呼び込み」で国民は新大臣を知ることになる。そして、指名選挙の翌日の朝刊1面トップに閣僚のラインナップが掲載される(過去の紙面はみなこうだった)。日本的議院内閣制における一つの儀式だった。

   ところが、上記の写真にあるように、104日付朝刊14版(ここでは朝毎のみ)に閣僚となる議員全員の顔写真がすでに出ているのである。14版の締切りは4日午前130分だから、午後1時からの指名選挙の12時間近く前に、新聞紙面上で組閣は終わっていたことになる。いくら派閥均衡で、入閣する人物を、事前の「リーク」により各社がつかんでいたとはいえ、20人の閣僚枠がすべて、臨時国会召集の半日前に紙面上で閣僚として紹介されているのはいかがなものだろうか。3日(日曜)には、夜のテレビ番組の途中で、ニュース速報で、「〇〇大臣は〇〇〇〇氏」というテロップが流れていた。入閣予定者すべてを、国会による総理大臣指名の前に派手に報じる。これは憲法67条、68条を、自民党だけでなく、メディアもなめていませんか、といいたいところである。

   「総理・総裁」という奇妙な言葉は、ごく普通に政権交代のある民主主義国家には存在しない。この言葉は、自民党総裁が首相になることに慣れきった国民やメディアの思考の惰性の産物ではないか。「総裁」が決まれば、国会の指名も無視して(実は憲法61項の「天皇の任命」も無視して)、首相気分で、国会召集前に組閣名簿の情報を垂れ流し、メディアはそれを無批判に伝える。かつての自民党ならば、「憲政の常道」への目配りがあって、それなりの自己抑制が働き、ある時点までは発表しないとか、いろいろな「政治作法」があった。すでに人事は決まっていても、あえて時間をおいたりした。国会での指名までは、閣僚のポストについて、複数の人物の名前を流すこともする。メディアの取材合戦との緊張関係のなかで、最終的に組閣名簿が確定して、翌日の朝刊1面の記事ができるのである。

   議院内閣制をとる以上、国会における指名が衆参両院で確定してから、閣僚の任命に入る。長年の慣行で行われいる「儀式」は、国会を重んずるという意味があったのである。その意味で、今回の岸田内閣発足に至る過程は、やはりどこかおかしい。安倍・菅政権で、憲法を徹底的に軽視・無視してきた結果であり、安倍晋三の心象風景である「憲法蔑視」のあらわれといえるが、加えて、長年にわたって議院規則や先例や慣行に支えられてきた国会運営が、安倍・菅政権下でかなり損なわれたことは指摘しておかなければならない。104日に臨時国会が(憲法53条後段違反を続けた上で)召集され、その日の朝に実質的な閣僚名簿が早々と報じられる現実は、安倍・菅政権のおごりもここまできたということだろう。この9年近くの国会運営や内閣の活動についての検証が必要な所以である。

 

閣僚が多すぎる?─ 20人→14人→20

   もう一度、国会召集日の104日付各紙の1面をご覧いただきたい(上の写真参照)。いずれにも「初入閣13人」の見出しがある。「適材適所」は建前で、実際は、大臣待機組が、総裁選の論功行賞を軸に登用されている。これまでもそういうことはよくあることだったが、せいぜい34人である。今回の13人というのは異様に多い。閣僚の65%が新人というのは、行政の継続性は二の次だということがよくわかる。特に、コロナの第6波が懸念される時期に、厚生労働大臣、コロナ担当大臣、ワクチン担当大臣をすべて入れ替えて、「コロナ対策を最優先の課題」(岸田首相)として取り組むといわれても、にわかに信じがたい。今までの大臣が十分だったというわけでは決してないが(ワクチン大臣は特にひどかったが)13人の顔ぶれを見ても、政治には詳しい私でさえ、「この人、誰?」の世界である。

   それよりも何よりも、内閣法22項で14人となっているのに、なぜ20人もの閣僚が任命されて、誰も疑問に思わないのだろうか。日本国憲法とともに施行された内閣法では、21項で、「内閣は、首長たる内閣総理大臣及び二十人以内の国務大臣を以て、これを組織する。」と定められていた。1990年代末頃からの「行政改革」のなかで「多すぎる大臣」が問題にされ、縦割り行政の克服と内閣機能の強化、事務・事業の減量と効率化(経費削減)などを目的として、中央省庁再編(「中央省庁改革等」)が行われた。関連法が200116日に施行され、122省庁から114省庁への削減が行われた。内閣法22項が改正され、「前項の国務大臣の数は、14人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、三人を限度にその数を増加し、十七人以内とすることができる。」と定められた。総務庁、郵政省、自治省、北海道開発庁が総務省に、厚生省と労働省で厚生労働省に、建設省、運輸省、国土庁で国土交通省に、文部省と科学技術庁で文部科学省、等々。大臣の頭数は減ったが、「ただし書き」にある「特別に必要がある場合」がくせものである。これを根拠に、「一億総活躍担当」「規制改革担当」「女性活躍担当」「再チャレンジ担当」等々の「内閣府特命担当大臣」がつくられていった(直言「お友だち政治の頽廃安倍乱造内閣)。いずれも、期間的に限られた、限定的任務をもつ閣僚ポストで、恒常的なものではなかったが、大臣ポストの維持が第一義的な目的であったことがわかる。内閣法の附則はさらに改正されていく。

2項:「復興庁が廃止されるまでの間における第二条第二項の規定の適用については、同項中「十四人」とあるのは「十五人」と、同項ただし書中「十七人」とあるのは「十八人」とする。」
3項:「国際博覧会推進本部が置かれている間における第二条第二項の規定の適用については、前項の規定にかかわらず、同条第二項中「十四人」とあるのは「十六人」と、同項ただし書中「十七人」とあるのは「十九人」とする。」
4項: 東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部が置かれている間における第二条第二項の規定の適用については、前二項の規定にかかわらず、同条第二項中「十四人」とあるのは「十七人」と、同項ただし書中「十七人」とあるのは「二十人」とする。

   中央省庁再編前の20人の「多すぎる大臣」に限りなく近づいている。一体、誰のための、何のための省庁再編だったのか。東日本大震災から10年たって、復興庁の廃止は20213月末だったが、そうなると復興大臣の1ポストがなくなるという本音を隠して、復興庁は2031331日まで存続する。本末転倒ではないか。

万国博覧会担当大臣で1枠、そして東京オリ・パラ大会担当大臣で1枠が増やされていった。だが、オリ・パラについてはすでに終了している。この大臣の仕事は、事務局担当者によれば、「レガシーを残すための対応をする」そうである。これは笑えない。附則4項には、オリ・パラの「推進本部が置かれている間」とあるので、少なくとも、この本部が解散される2022331日までこの大臣が置かれるわけである。今回の組閣でこの大臣になった堀内詔子(義父は、『自民党は殺された! 』を出版して小泉首相を批判した堀内光雄総務会長(当時))は、さすがに「オリ・パラ大臣」だけでは足りないので、「ワクチン担当」が加わった。中央合同庁舎8号館には、複数の大臣が所管するさまざまな部署が同じフロアに雑居している。職員はどこも出向組。一体、何をやっているやら。大臣の1ポストはかくも大事なのか。

憲法をなめ続けると、痛い目に

   岸田首相は、「私の特技は人の話をよく聞くこと」だそうである。だとすれば、安倍晋三は「私の特技は人の話を聞かないこと」、菅義偉は、「私の特技は人に話をさせないこと」ということになろうか。
   安倍に伴うさまざまなグッズのお披露目をやった直言「わが歴史グッズの話(47)「アベノグッズ」の店じまい」のなかで、「アベノマグネットシート」を紹介した。これがその写真である。2018325日の自民党大会で代議員に配られた「記念品」であるが、「書いて消せる!」とあるが、森友学園問題における財務省文書改ざん問題が起きていたので、ジョークにならないと党本部職員はあわてたようだ。「人の話を聞かない」「人に話をさせない」という安倍・菅の強圧的な政治手法と比べると、岸田の場合、外見も口調も雰囲気も、それとは距離があるように思える。先週の「直言」で「安倍院政権」と特徴づけたが、岸田が、憲法をなめきった「アベ的なるもの」からどこまで、どのように離脱していくか、あるいはできないか。

   総選挙がすべてを決するだろう。ドイツは、総選挙で、ひと足早く結果を出したが、「緑の党」が政権に復帰して、2022年脱原発、気候変動対策は次の政権の待ったなしの課題となる。日本でも、総選挙の結果しだいでは、岸田政権は、羽田孜政権(64)よりも短命に終わるかもしれない。

《文中敬称略》

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