「7.8事件」は日本の「9.11」か――「ショック・ドクトリン」によるトータル・リセット?
2022年7月18日


投票日直前に元首相暗殺

議院選挙の結果が出た。投票率は52.05%で前回より微増だが、1819歳は3449%だった。「二人に一人しか投票しない「民主主義国家」」の「その5」を今回書くことはしない。「7.8」事件が投票行動にどのような影響を与えたのか。NNN・読売新聞が71112日に緊急電話世論調査を行ったところ、選挙結果に「影響した」が86%と圧倒的だったが、共同通信が同じ期間に、同じ手法で調査したところでは、「影響があった」は15.1%で、「影響はなかった」が62.5%だった。いずれにしても、自民党は単独過半数を確保し、改憲4党で93議席を獲得。憲法改正発議に必要な「総議員の3分の2」を超えるに至った。

  投票日の前々日から、「安倍晋三暗殺の衝撃」(冒頭左の写真『ニューズウィーク日本版』719日号のタイトル)によって、メディアにおける選挙報道はほとんど消えた。限られた情報をパンパンに膨らませた「事件報道」と安倍追悼(礼賛)の「ニュース」に覆い尽くされた。投票日直前になにがしかの「事件」が起きるという経験則からすれば、今回ほど派手なものはなかったように思う。「改憲に命を懸けた「憂国の宰相」の遺志を継げ」(櫻井よしこ『週刊新潮』721日30-34)という絶叫調の文章が週刊誌に載るようになった。ネットは「安倍さん、ありがとう」のようなトーンで、有名なスターの死を悲しむノリである。官邸からは、戦後4人目の「大勲位菊花章頸飾」授与(711日閣議決定)2人目の「国葬」(14日首相記者会見)という形で、「偉大な政治家」に見せる演出が繰り出されている。安倍自身が首相時代、叙勲を政治的玩具のように利用してきたが、まさか自分に「大勲位」が転がり込むとは想定していなかっただろう。それにしても吉田茂以来55年ぶりの「国葬」。この「スピード感」はなんだろうか。ボロが出ないうちに、大急ぎでリセットの舞台を整えているとしか思えない。ちょうど2年前の直言「「総理・総裁」の罪――モリ・カケ・ヤマ・アサ・サクラ・コロナ・クロケン・アンリ・・・」でたくさん並べたが、これに「マスク」(アベノマスク)なども加わって、未解明のまま放置されている問題は多数ある。安倍は政治責任も刑事責任も果たすことなくこの世を去ってしまった。日本がまともな民主主義国家ならば、それぞれの「責任」の所在を明確にしなければならない。トータル・リセットを許してはならないだろう。

 

惨事に便乗してトータル・リセット

冒頭左の写真は、知人が送ってくれた『福島民報』78日付号外である。たまたま研究室に21年前の9.11」(「米国同時多発テロ」)の同紙号外があり、それと並べてみた。21年前の「9.11の時も、世界貿易センター(WTC)崩落の映像を何度も見せられ、私自身、かなり神経が参ったのを覚えている。このショックに便乗して、ブッシュは「これは戦争だ」として、テロという犯罪行為を、軍隊が遂行する「戦争」にすり替えて「テロとの戦い」(アフガニスタン戦争)を開始した。

  カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』上・下(幾島幸子・村上由見子訳、岩波書店、2011年)は、戦争や、大地震、大津波などの自然災害、大規模テロなどの大惨事を前に人々が茫然自失の状態にあるのに便乗して、一気に新自由主義的な施策を強行する手法を鮮やかに分析した名著である。東日本大震災の数か月後に、緊急事態条項を入れるための憲法改正が唱えられた際、私は、この新刊を紹介しながら、直言「憲法審査会「そろり発進」――震災便乗型改憲をアップした。以来、「惨事便乗型改憲論」はさまざまな危機のたびに登場している(直言「新型コロナウイルス感染症と緊急事態条項――またも「惨事便乗型改憲」」参照)。


安倍政権の闇と膿

  前回の直言「安倍晋三銃撃事件――立憲政治の前提を壊した人物の死でも挙げた「安倍晋三の負の遺産」については、その一部が『東京新聞』713日付「こちら特報部」でも使われている。私のコメントも載っており、安倍政権によって壊されたこの国の荒野からの「復興」が見出しに使われている

  冒頭右の写真は、『南ドイツ新聞』714日付社会面(Die Seite Drei)である。トーマス・ハーン東京特派員の「群衆と無関心」という長文の評論が掲載されている。「とても平和な国がなぜ、殺人と右傾化(Rechtsruck)の現場になっているのか」という問題意識のもと、雇用と社会的不平等を研究している今井順(上智大)へのインタビューを軸に構成されている。日本の読者が読んで特に新しい事実の指摘はないが、この事件が、日本社会の集団的性格のなかでケアが行き届いていない問題のあらわれだとする。日本人の多くは、実は集団社会のためになる営みのみに関心があり、社会的な議論や周囲の人などには関心がなく、人と違ったり、成功できなかったり、ルールやヒエラルキーに適応できない人は、このシステムのなかで孤独な状態に陥ってしまうという。使われた写真(AFP)は、JR品川駅自由通路の通勤風景だが、記事とあわせてみると何とも複雑な思いである。なお、この記事では、山上徹也の母親が統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に多額の献金をして破産、家庭崩壊に至った事情についても触れられている。

  事件の背景について、親族(とりわけ叔父[父親の兄])への綿密な取材による記事(『週刊文春』7月21日号22-28頁)なども出てきて、山上の、旧統一教会への憎しみが限りなく深いことがわかってきた。それに伴い、メディアは、安倍の「不都合な真実」にも注目するようになってきた。微妙に局面は変わりつつある。上の写真は、旧統一教会の友好団体「天宙平和連合(UPF)」が開いたオンライン集会「シンクタンク2022 希望の前進大会」(20219月)における安倍のビデオメッセージの写真である。NHK「クローズアップ現代」(711日放送)で使われたが、この番組は、事件後3日という時点で、どこよりも早く、安倍と旧統一教会との関係を伝えていた。「家庭の価値を強調」と高く評価する安倍の姿を、この組織に家庭崩壊させられた山上はどのように見ていたのだろうか。


  まず秘書に食い込み、議員の秘密を握り、自ら議員になれ(文鮮明の指示)

 「安倍夫妻をめぐるさまざまな問題については、森友・加計問題をはじめ、その「点と点」を結んでいくと、何本もの「線」が錯綜してのびていき、やがてそれらがつながって、「疑獄の膿」の立体映像が見えてくる」と書いたことがある(直言「魚と政権は頭から腐る――隠蔽・改ざんから麻薬汚染まで参照)。とりわけ、今回の実行犯が長期にわたって統一教会幹部を狙っており、そのなかで安倍がターゲットとなっていく経緯が少しずつ明らかになっている。最近購読を始めた『クーリエ・ジャポン』(Courrier Japon)には、世界各国のメディアがこの事件をどう報じたかがかなり詳しく紹介されている。そのなかで、安倍のみならず、自民党と宗教カルトとの「近すぎる距離」を問う英国『フィナンシャル・タイムス』紙の紹介が興味深かった。安倍・自民党と統一教会をめぐる「不都合な真実」の数々。「それは祖父・岸信介の時代から「公然の秘密」だ」としている。

  安倍晋三は第1次政権の時の20075月、憲法改正国民投票法を成立させるため、異様な行動をとった。直言「「ねじれ解消」からの脱却――安倍「自爆改憲」を止めるにこうある。「[安倍は]自らが倒れる傾きと勢いを使った「自爆改憲」を狙っている可能性がある。これには既視感がある。20075月、閣僚の不祥事が続くなかで、安倍首相は憲法改正国民投票法の審議に官邸から過剰介入して、強引にこれを成立させた。安倍はこれでエネルギーを使い果たし、参議院選挙の敗北をはさんで、その政治生命を終えた」。

  この時、安倍は官邸から自民党国対に対して早急な採決を求めて介入し、反発をかうことになった。この時の首相秘書官が、統一教会から送り込まれたとみられている井上義行である。統一教会の教祖である文鮮明は、「まず秘書として食い込め。食い込んだら議員の秘密を握れ。次に自らが議員になれ」と指示していたという。安倍の井上優遇は際立っていた。2007年9月の第1次政権の投げ出しで職を失った井上は、翌年、さしたる業績もないのに、加計学園・千葉科学大学客員教授になっている。千葉科学大は安倍側近の浪人時代の肩書・経歴維持装置として活用されてきた(萩生田光一は「名誉客員教授!)

  今回の参院選の最中の622日、井上が小田原市内での演説で、「同性愛などをかわいそうだと言って(容認したら)家族や家庭ができず、子どもたちは日本を引き継げるのか」といってSNS上で「炎上」したのは記憶に新しい。旧統一教会の幹部は、「井上先生はもうすでに信徒となりました」と紹介したという(news23の7月14日放送分)LGBT・同性婚や選択的夫婦別姓を異様に敵視するのは、「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)のメンバーだからだろう。「子ども庁」が設立される時、「子ども家庭庁」に変えさせたのは政調会長の高市早苗とされている。いずれも「統一家庭連合」に近い議員である。


 24年前の国会質問

  統一教会からの秘書送り込みについては、1998922日の参議院法務委員会における質疑が重要である。質問者は、テレビ時代劇『木枯し紋次郎』の主役もやった中村敦夫(無所属)。質疑のポイントは、統一教会が国会議員のもとに秘書を送り込んでいる事実である。

〔252〕
中村敦夫君: まず最初に、統一協会の教祖文鮮明の入国と、それから国会議員に対する統一協会からの秘書の派遣の問題についてお尋ねします。
統一協会は宗教の名をかりてさまざまな反社会的な行動をとっている団体でございますけれども、特に青年たちあるいは主婦層をターゲットに、大変システマチックな心の操縦法というものをうまく使いまして、いわゆるマインドコントロールをしていく。最初は正体を隠してさまざまな形で勧誘をやるわけですね。…北東アジアの平和を考える国会議員の会という妙なものが突如でき上がっていまして、この招待でもって入るという形になりました。この会はほとんど幽霊団体という感じでして、大体その当時の前参議院議員が一人、そして当時の現役の衆議院議員が五人ですか、六人ででっち上げたような会でして、大体、統一協会から秘書を派遣してもらったり、献金をいっぱいもらったりしている連中の名前が並んでおります。こんなふうにして入ってきたということです。…
【法務省入国管理局長の答弁は省略】
〇中村敦夫君:国会議員に対して統一協会やその政治組織などから秘書が派遣されているというのは広く知られているわけですね。多い人は統一協会から一人の議員に九人もの秘書がついているというようなこともあります。私たちもそういう議員や秘書というものの数を調べておりますけれども、公安調査庁では、統一協会系の秘書の提供を受けている議員が何人いるのか、そしてそういう秘書たちは国会全体で何人いるのか、数でお答えいただきたいんです。…
〇政府委員(豊嶋秀直君[公安調査庁長官]):お答えいたします。公安調査庁といたしましては、統一協会が種々社会的な問題を引き起こしている団体であるということは十分承知しておりまして、統一協会側によると公称の会員は四十七万を超えているというふうに発表されておりますが、実質的には五万人ぐらいではないかという見方もあるようです。そういうことで、大いなる関心を持って統一協会という団体の動向については広く情報を集めております。中村委員御指摘の、国会議員に秘書が派遣されているというようなことが一部のマスコミで報道されたこともよく承知しておりますけれども、その内容の真偽についてまでは把握いたしておりません。

 公安調査庁は、どの議員に統一教会から送り込まれた秘書が採用されてるかについて、確実に把握しているはずである。しかし、有力議員もおり、あえてぼかしているだけではないか。中村議員はさらに追及する。特に当時の高村正彦外務大臣が統一教会に協力している事実は重要である(高村については、直言「「100の学説より一つの最高裁判決だ」?!参照)。

○中村敦夫君:実は高村[正彦]外務大臣、この方はかつて統一協会の代理人だったわけですね。裁判の記録などにも載っているわけです。それから、一九八九年の資産公開では、統一協会の霊感商法の元締めであるハッピーワールドという会社、ここから時価三百八十万円のセドリックを提供されているというような、これは相当に深い関係だと思うんです。こういう方が今、日本と北朝鮮の問題のさなかで外務大臣をやっているということを私は大変危惧するわけです。ですから、高村さんは現在とこれまでの統一協会との関係、具体的なものを全部公開すべきではないのかなというふうに思うんです。もし公開できないとしたら、これは外務大臣としては大変不適任でありますから、これは罷免すべきではないかと思います。本来、総理大臣に聞くべき問題なんですが、聞いてもどうせわからないでしょうから、国務大臣としての法務大臣にかわりにお答え願えませんか。

○国務大臣(中村正三郎君[法務大臣]):今、中村議員の問題意識はいろいろお伺いしたわけでございますけれども、やはり内閣総理大臣にわからないものは私にもわからないのでありまして、実際にどのようなことがあるか、またどのようなことが法律に反するんだという観点から私ども行政をやるわけでありまして、ちょっと私としてもお答えできないということだと思います。

 83日に臨時国会が召集される。今後の内閣改造や党役員人事で、安倍お友だち議員や統一教会系議員がどのような扱いをされるかはまだわからない。「7.8事件」から10日。安倍と安倍政権の闇と膿を明らかにすること、これこそ「日本の民主主義の根幹にかかわる」重要問題であろう。

【文中敬称略】

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