統一教会の家族観に「お墨付き」――安倍晋三の置き土産
2022年12月5日

同性婚をめぐる3つ目の判決

性婚をめぐる訴訟で、3つ目の地裁判決が出された。20213月、札幌地裁は、同性婚を認めない民法や戸籍法等の諸規定を憲法141項に違反するとしたが、20226月、大阪地裁はこれを合憲とした。先週の水曜、1130日、東京地裁は「違憲状態」の判決を出した。

判決は、「婚姻」を異性間のものに限り、同性間の婚姻を認めていない法の諸規定が、憲法241項に違反するとはいえないとしながらも、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことが、憲法242項に違反する状態にある、と判示した。判決は、この結論を導く上で、婚姻の意味を次のように述べる。

 「婚姻は、親密な人的結合関係について、その共同生活に法的保護を与えるとともに、社会的承認を与えるものである。このように親密な人的結合関係を結び、一定の永続性を持った共同生活を営み、家族を形成することは、当該当事者の人生に充実をもたらす極めて重要な意義を有し、その人生において最も重要な事項の一つであるということができるから、それについて法的保護や社会的公証を受けることもまた極めて重要な意義を持つものということができる。
   このように、婚姻により得ることができる、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は、個人の尊厳に関わる重要な人格的利益ということができ、これは男女の夫婦と変わらない実態を有する生活を送る同性愛者にとっても同様であるということができる。そして、特定のパートナーと家族になるという希望を有していても、同性愛者というだけでこれが生涯を通じて不可能になることは、その人格的生存に対する重大な脅威、障害であるということができる。
 …現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法242項に違反する状態にあるということができる。」

判決は、どのような法制度を構築するかの選択・方法を含めて、国会の裁量(立法裁量)に委ねられており、民法や戸籍法などの現行法の諸規定が憲法242項に違反するとはいえず、国家賠償法により違法と評価されることはないとしたものの、同性愛者がパートナーとなり、家族を形成して共同生活をすることができないことが放置され続けることについて、これを憲法に違反する状態と認定した。立法府に対して、憲法上どこに問題があるのかを明確にして、違憲状態の是正を求めたわけで、そのプレッシャーのかけ方として、憲法13条の個人の尊重に軸足を置いたことは評価できよう。同性婚に賛成ではない議員にとっても、「家族のかたち」をつくる際に当事者の意思を尊重するという点にまで反対する人は多くはないだろう。地裁判決は「違憲」の直球ではないが、立法府にはボディブロウのように効いてくるかもしれない。

偶然だが、この判決が出された時間より半日ほど前に、同性婚の権利を保障する法案が米上院で可決された(東京地裁判決を報ずる『朝日新聞』121日付の国際面(11)肩の記事)。共和党の議員も賛成して、6136だったという。「米国人は愛する人と結婚する権利を持つべきだ」というのが、上院通過の際の大統領の声明だった。

つ、誰と結婚し、どのような家族をつくるのかは個人の自由な判断と選択によるもので、それは個人の尊厳にかかわる。同性婚に激しく反対し、異性婚に徹しつつ、子どものいない夫婦を認めない結婚や家族・家庭を構想し、実践しているのが、2015年から「世界平和統一家庭連合」を名乗る宗教法人である。愛し合う個人同士の婚姻によって形作られる家族や家庭ではなく、特定の価値観に基づく、いわば「統一家庭」である。


統一教会は「人格的生存に対する重大な脅威」

統一教会がやっていることは、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項」(憲法242項)のすべてに対する重大な侵害といえるのではないか。何よりも「配偶者の選択」「婚姻」については、文鮮明と韓鶴子によって決められる。結婚する当事者に選択の余地はない。「両性の合意」は形だけのもので、「合同結婚式」がすべてである。「財産権」については、統一教会のターゲットそのものであり、過酷な献金要求によって、老後の資金や生命保険金まで搾り取られる。宗教団体によって、「寄進」「布施」「財施」「喜捨」「財務」など名称こそさまざまだが、統一教会で行われている「献金」は、その金額と取り立ての手法が度を越していて、「霊感商法」などの反社会的な問題を引き起こしてきたことはよく知られている。「相続」も献金に連動する。信者が養子に入り込んで多額の財産を相続して裁判になったケースもあるという(養子縁組については後述)。「住居の選定」についても危うい。合同結婚式においては、熱心な信者の日本女性と、韓国男性(にわか信者も少なくない)の組み合わせが多く、韓国に住まざるを得なくなった日本女性が7000人もいるという。「離婚」のハードルはきわめて高い。「合同結婚式」で示された「真の父母様」の意思に反するからである。韓国で、DV夫と劣悪な環境で住み続けざるを得ない女性信者の悲劇が、この間、テレビのワイドショーで執拗に伝えられている。


「統一家庭」のための養子縁組

先月あたりから、統一教会が行ってきた養子縁組の問題が注目されるようになった。1116日、国会において野党ヒアリングが行われた(立憲民主党HP 参照)。元2世信者の小川さゆりさん(仮名)が、統一教会における養子縁組の実態について語った。「私は養子に出された当事者ではないんですが、1つ下の次女が養子に出されたんですが、5番目の子も養子に出され、また次に生まれた6番目の子も養子に出されました」。

同じく佐藤海さん(仮名)は語る。「旧統一教会では、家庭は子どもがいて初めて完成するという教えがあり、複数人の子どもがいる家が新たに妊娠した場合、子どもに恵まれない信者家庭へ養子に出すことが推奨されることがあります。初めから子どもを養子に出す前提で妊娠する人もいると聞いたことがあります」と。驚愕の事実である。

1115日のNHK『クローズアップ現代』は、統一教会が組織的に養子縁組を行っている実態を報じた。信者向けのハンドブックには、「養子の約束を交わすのは捧げる側の妊娠前が最も望ましい。子どもに恵まれない家庭のために養子を捧げるということは神様の愛を中心とした家庭理想をともに実現するという意味で、統一教会の美しい伝統となっています」 、「両家で合意がなされたら、必ず家庭教育局に報告が必要です」と書かれていた。

TBS系『報道特集』123日放送で、関連団体の元幹部の証言を伝えていた。「妊婦の方々が本部に集められて、子どもができない方に対して子どもをあげるということの意義を説教されて、子どもをあげたいと思う人は手を挙げてください、と。その説教を聞いて「(子どもを)あげます」と言った人が何人もいたわけです。「子どもがいないと神の国に行けない」とか、文鮮明の言葉のなかにいっぱいある。自分の子どもが生まれない、不妊治療するよりも早く(養子を)もらった方がいいなとなる。…」

  上の写真は、『報道特集』が入手した統一教会の冊子である。発行部署は家庭局であり、2003年に出版されている。そこに、「赤ん坊が産めないことほど恥ずかしいことはありません」という下りがあり、子どものできない信者夫婦にプレッシャーをかけている。このようにして養子縁組を家庭局が組織的に取り仕切っていた疑いが強い。

 2018年に施行された「養子縁組あっせん法」は、この事業を許可制としていて、事前に都道府県知事の審査を受けることを求めている。そして、事業者に対して、金銭の受け取りを禁止している。統一教会は1981年から2021年の間に、信者家庭の間で、745人の養子縁組が行われたことを認めているので、知事の事前の許可なしに、長期にわたって養子縁組のあっせん行為を行ってきたことになる。統一教会側は、金銭の授受がないから知事の許可は必要ないと反論しているようだが、1117日の衆議院厚生労働委員会で、加藤勝信厚生労働大臣は、「金銭の授受等にかかわらず養子縁組あっせん法に違反する」と答弁している(衆議院インターネット審議中継 6時間24分あたり参照)。これに続く答弁で、加藤大臣は、管轄する東京都とともに事実確認を行っていると述べている。この違法性が確認されれば、宗教法人法81条に基づく解散に連動する新たな根拠となりうるだろう。

  前述の野党ヒアリングで元2世信者の小川さんは、自らの鮮烈な体験を淡々と語っていたが、怒りを込めてこう指摘した。「子どもの気持ちは一切関係がなく、全て教会、信者である親の事情だけがまかり通っている。また子どもの人権がとても無視されているのは重大な問題。事実を知ったときの子どもたちの、存在意義やアイデンティティが崩壊するといった深刻な問題がある」と。献金したお金は返却されたとしても、子どもたちの時間は返ってこないと、子どもたちの人生を左右するこの教団への怒りをあらわにした。

 冒頭で紹介した東京地裁判決がいうように、「家族を形成することは、当該当事者の人生に充実をもたらす極めて重要な意義を有し、その人生において最も重要な事項の一つである」から、不自然で異様な異性婚をさせられ、子どもができないことを恥であるという刻印を押しつけられ、強引に養子縁組にもっていかされる。結婚も出産も、養子縁組も、家族にかかわるすべての事項が、献金のための手段となっている。家族を教団への献金装置とする考え方である。信者のことを「シッ」と呼ぶ統一教会の罪深さは、莫大な金銭を巻き上げるために、多数の男女とその子どもたちの人生に重大な損害を与えてきたことであり、現に与えていることである。恐ろしいことは、マインドコントロールされた信者が家庭内で拡大再生産させられ、教団の戦力になっていることである。これらの子どもたちの人格的生存は大きく損なわれているといえよう。次なる世代に同じことを繰り返させてはならない。


「お墨付きを与える」という「エンドースメント」

  「違法行為のデパート」のような存在であり、反社会的団体である統一教会が、なぜかくも長期にわたって違法行為を続けられたのか。7.8事件」がなければ、いまも違法行為は続いていたことだろう。わずか5カ月の間で事態は大きく変わった。統一教会との濃厚接触の度合いによって、大臣辞任も相次いだ。とりわけ、経済再生担当大臣だった山際大志郎の説明や答弁は無様の極みだった。山際の言葉で記憶に残っているものがある。それが、105日の衆議院本会議の議事録に残っている

○国務大臣(山際大志郎君) 旧統一教会の反社会性の認識についてお尋ねがありました。

 当該団体は、悪質商法や悪質な寄附といった社会的な問題が指摘されていることや、被害を受けている方が多数いらっしゃるという認識が不足していました。また、そうした団体のイベントに出席することで、いわば団体にお墨つきを与えてしまうようになったことを真摯に反省しています。今後は、当該団体とは一切関係を持たないよう慎重に行動してまいります。(拍手)

 統一教会がなぜかくも影響力を行使できたか。それは与党の有力政治家たちとつながり、不都合な真実を隠し通すことができたからにほかならない。なぜ信者が統一教会に疑問をもたなかったのか。立派な政治家の先生方が、すばらしい教団だとほめてくれるからである。

山際はまったく無自覚にも、一つの言葉を使ってしまった。すなわち、「お墨付き」である。政治家たちは、「メッセージや電報を送っただけ」「集会に参加しただけです」「挨拶はしたけど、すぐに帰りました」などと言い訳をしているが、そもそも、国会議員がイベントにやってきて、「真のお母様」にカーネーションをプレゼントするだけで信者は、自分たちの教団は特別な存在で、権力に守られていると安心するだろう。事実、国家公安委員長は山谷えり子をはじめ、統一教会に親和的な人物がポストを占め、警察へのにらみは抜群だった。

あまり指摘されないが、憲法の政教分離原則との関係で問題はないのかという論点がある。「エンドースメント・テスト」(Endorsement test)というのがあるが、これは、一般の人々から見て、政府の行為が、特定の宗教をエンドース(是認または否認)しているとの印象を持つかどうか、これが問われる。政府の行為が、特定の宗教団体を後押しするようなメッセージを発することで、当該団体の信者たちに大きな励みとなり、教団への忠誠を誓う。閣僚が「お墨付き」を与えるということは、まさに積極的な是認の裏付けを与えることを意味する。元首相や閣僚や衆議院議長もやる有力政治家が、特定宗教団体のイベントに参加して、教祖を天まで持ち上げる。一連の行為は、特定宗教との「過度のかかわり合い」どころか、ここまでくると特定宗教団体による政治支配の様相を呈してきた。これは重大問題である。それが安倍晋三に至る「安倍三代」の闇である。

2021912日の安倍演説

統一教会について、78事件」まではほとんどのメディアが取り上げることのないという状況のもとで、地道な取材を続けてきた鈴木エイト氏の近著、『自民党の統一教会汚染――追跡3000日』(小学館、2022)を、通勤電車のなかで一気に読了した。直接取材やネットの執拗な検索などで確実に裏付けをとっていく姿勢には頭がさがる。「要注意人物」として教団から“指名手配”を受けていたが、それでも取材をやめなかった。統一教会の自民党支配戦略は実に巧妙で、選挙運動員でまずとりこにし、秘書を送り込んで議員の金から下半身まで掌握し、いずれは自らが議員となって政治を動かす。本書は、統一教会と関係をもった168人の現職議員のリストを収録している(307-318)

山上徹也容疑者が「7.8事件」を起こす直接のきっかけとなったのは、2021912日に韓国ソウル近郊で開かれたフロント団体の大規模集会にリモートで出演した安倍晋三の姿とその演説をネットで見たからとされている(起訴状でどのように書かれるだろうか)。安倍は、統一教会の「家庭の価値を強調する点を高く評価します」といって、統一教会的な家庭観、家族観を手放しで誉めあげている。この集会には、トランプ前大統領も参加して、安倍とのツーショットが演出されている。鈴木前掲書によれば、事前収録の動画にもかかわらず、司会を務めた本部長は、「韓鶴子総裁と『THINK TANK 2022』の主旨に積極的に支持してくださり、本日の基調演説を担当してくださいました安倍晋三総理を大きな拍手でお迎えください」と参加者が興奮するような演出を行った(271)。安倍は冒頭、「日本国、前内閣総理大臣の安倍晋三です」と口火をきった。司会の紹介では「前」がとれているから、参加者にとっては日本のトップが実際に参列してくれていると思っても不思議はなかった。この演説のなかで安倍は、「家庭は社会の自然かつ基礎的集団単位としての普遍的価値を持っているのです。偏った価値観を社会革命運動として展開する動きに警戒しましょう」と、ジェンダーやLGBTQの運動を非難している。

 鈴木前掲書は、2013年参院選こそ「全ての始まりだった」と書く(7)201212月に発足した安倍政権が、野党が多数を占めていた参議院で逆転を狙うべく、統一教会の力に依拠するようになる。まさに「ねじれ解消」は統一教会の協力によるものだったと今回改めて知った。鈴木前掲書は、首相官邸と統一教会との裏取引を示す内部文書の入手からそれを説き起こすスリリングな展開である。


「国会議員の秘書を輩出する」

直言「「反社勢力」に乗っ取られた日本(その2――2次安倍政権発足10年を前に(その1)」をアップして、安倍政権の闇を明らかにしてきたが、ここへきて、私の想像を超えるすさまじさで、統一教会が日本を狙っていることがわかってきた。鈴木前掲本も、2021912日演説の意味を二つ指摘している。まず、韓国への強気の対応で知られる安倍晋三が、裏で韓国発祥の問題教団とつながっていたことに加え、統一教会自体が数々の社会問題を引き起こしてきた反社会性の強い教団であることである(274)。安倍演説によって、「安倍が初めて統一教会との関係を配信時のみとはいえ公にした瞬間だった」とみる(276)。その意味では、統一教会を狙っていた山上容疑者が安倍をターゲットにする転換点がこの演説だったというのも頷ける。

ここで、毎日新聞のスクープ記事にも触れておこう。117日付朝刊1面トップ(6日は日曜なので夕刊がなく、デジタル版6630)の見出しは「旧統一教会教祖の発言録が流出 「安倍派を中心に」浮かぶ政界工作」である。ソウル特派員と社会部記者が、『文鮮明先生マルスム(御言)選集』(韓国語)615巻、53年分の文鮮明発言録にこまめにあたって、これを翻訳・確認して公表したものである。記事では、1989年に韓国で行った説教で文鮮明が、自民党の安倍晋太郎元外相が当時会長を務めていた保守系派閥「安倍派」(清和会)を中心に国会議員との関係強化を図るよう信者に語っていたことが明らかにされる。岸信介との信頼関係は有名だが、安倍晋太郎の役割が明らかにされた。

 これに続けて「中曽根の時に130人の国会議員を当選させた」とも語っている。また、文は、「(日本の)国会議員との関係強化」に言及し「そのようにして、国会内で教会をつくる」と述べているから仰天である。毎日のチームは、615巻の発言録のなかから、韓国内の信者に向かって、日本国内の預貯金は「皆さんのためのもの」と語っていたことも見つけ出した(『毎日新聞』1110日付)日本を「資金源」とみなす姿勢が浮き彫りになっている。

1112日放送のTBS『報道特集』に出演した統一教会の元信者の男性の証言もすさまじい。「とにかく、嘘をついても勧誘できたらOK。…政治家を全員信者にして、政策に関わって、国家予算にも関わって、予算の配分も全部決めようとしてましたし…」「馬鹿げた話なんですけど、国家予算全額を献金させようとしてたので。そうすれば、日本は救われると言ってましたので、(足立教会の)幹部が大真面目に」と。

  財物はすべて「神」のものであり、人間は一時的に預かっているものだから「神」のもとに返す。これが霊感商法の基本にある考え方で、「万物復帰」という。そして、統一教会の教義を国教とするのが「国家復帰」である。

  今月26日の安倍第2次政権発足10年を前にして、少なくとも国民は統一教会の本質を知り、メディアもかつてのような弱腰でなく、取材を続けており、政府も宗教法人法81条の適用に向けて動き出しているので、少なくとも「国家復帰」は阻止できたといえるだろう。かなり時間がかかったが、山上容疑者が殺人罪で起訴され、被告人となって公開の法廷で語る言葉に注目したい。

【文中一部敬称略】
〈付記〉旧統一教会という表記をしないのは、2015年の下村博文文科大臣による、無理筋の改名を認めない立場です。統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と表記することにしています。

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