わが歴史グッズの話(52)国会みやげの首相お菓子――2009年「秘密の太郎ちゃん」まんじゅう、再登場
2023年4月24日

首相お菓子の歴史

会内の売店で売られている歴代首相のお菓子にも歴史がある。わが研究室には、10年以上にわたり、ゼミ出身の関係者から、さまざまな国会みやげが送られている。11年前に直言「わが歴史グッズの話(33)―内閣総理大臣」をアップした。安倍第2次政権誕生の5カ月前のことだった。その「直言」の下方の写真は、研究室にある「首相お菓子」なかでも最も歴史が古いもので、2009618日に1年ゼミの学生を連れて国会見学をした際、私自身が購入した「秘密の太郎ちゃん」まんじゅうである。これについては後述する。

   さて、今月4日、「どうなる2023 あたらしい景色―キッシーの瓦版煎餅(国会版)」が届いた(冒頭左の写真)。首相お菓子の最新バージョンである(ちなみに、賞味期限は728日)。ごく普通の瓦煎餅に岸田文雄首相の全身のイラストが描いてある。関係者のメモが入っていて、昨年辞任した4閣僚(山際大志郎経済再生相、葉梨康弘法相、寺田稔総務相、秋葉賢也復興相)はすべて新顔に入れ代わっているという。左下には「4月「子ども家庭庁」新設」「10月インボイス制度」とあり、右上にはバイデン米大統領が「G7広島サミット」の「しゃもじ」を手にして微笑んでいる(バイデンの拡大写真はここから)。「被爆地ヒロシマ」ではなく、日清・日露の戦争で宇品から第5師団を出動させた「軍都広島」を開催地として、「必勝しゃもじ」によって新たな日清・日露の軍事対決を象徴させようとしているかのごとくである。

   早いもので、その岸田内閣が発足してから1年半が経過した。自民党総裁選で岸田が総裁に選ばれたとき、直言「「安倍院政権」の誕生へ―権力の私物化と「生業としての政治」(その2)をアップした。その時に使ったのが、冒頭右の写真である。内閣発足直後に発売された「誕生キッシー号外瓦版煎餅」を紹介した(直言「憲法をなめていませんか―岸田文雄内閣の発足にあたって」)。そこでは、「ありがとう スガちゃんまんじゅう」や「誕生 スガちゃん瓦割りせんべい」、「美しい国 日本! ありがとう 晋ちゃんまんじゅう」も一緒に並べた。菅義偉内閣下ではもう一つ、「誕生!!スガちゃんまんじゅう パンケーキ風味饅頭」もあるが、この構図の写真は、消費税の増税をめぐる政権の手法を批判した直言「権力は民衆の「忘れっぽさ」を利用する―「増税分の5分の4を借金返しに」?!でも使用されている。永田町では、「誕生」と「ありがとう[さよなら]」が短期間に繰り返されていることがわかる。


「傑作」は2013年「ねじれ解消餅」

   数ある首相お菓子のなかで、ネーミングの上からも、政治的意味づけからも「傑作」と私が考えているのが、2013年秋に売り出された「ねじれ解消餅―晋ちゃんの野望」である。これについては、直言「歴史的逆走の夏―朝日新聞「誤報」叩きと「日本の名誉」?で、実際に食べた餅の味についても触れている10個入りで、5個はねじれがとってある)。いつも箱にばかり関心がいって、中身の味については記憶にないのだが、この餅だけは10年前のことだが、よく覚えている。

   201212月の総選挙で勝利して第2次政権をつくった安倍晋三は、野党が多数を占める参議院の攻略にとりかかった。その戦略的タームが「ねじれ解消」だった。メディアも「ねじれ解消」という言葉を無批判に流し、選挙の目的が「ねじれの解消」にあるかのごときミスリーディングな刷り込みが行われた。その結果は、直言「「ねじれ解消」と「3 分の2 」の間―2013年参議院選挙」で書いた。トップ見出しに「ねじれ解消」を使わなかったのは『朝日新聞』と『東京新聞』 だけだった。参議院で野党が多数を占めているから、参議院で自民党が多数になれば、衆議院との「ねじれ」は「解消」する。テレビニュースが、「ねじれ解消を最大の焦点とする参議院選挙」ということで、有権者はその「解消」に向かった。つまり衆参両院で自民党が多数派となったわけである。「ねじれの解消」というキャンペーンは見事に成功した。私はこの20137月参院選での「ねじれ解消」こそ、その後の日本の不幸の始まりと考えている。まさに「晋ちゃんの野望」の実現過程そのものである。

 

「晋ちゃんラッキートランプせんべい」とNYの缶バッチ

   今となっては、安倍晋三がプーチン露大統領やトランプ米大統領(当時)と過度に密接・密着した関係を続けたために、どれだけ日本の「国益」(この言葉は使いたくないのだが)が損なわれたか計り知れない。プーチンと27回も会談したと会談回数ばかり誇ったが、北方領土を「献上」する結果となり、3000億円は一体どうなったのかトランプに兵器の爆買いを約束して、長期にわたる構造的な負債を抱え込むことになった。オバマの在職中にトランプタワーに馳せ参じ(あの時のゴルフクラブは米公文書館に)、トランプ敗北後は黙して語らず、『安倍晋三回顧録』(中央公論新社、2023年)でも上手にスルーしているようである(仕方なく購入して手元にあるが、まだ読んでいない)。

   その点で、20172月に国会で売られていた「晋ちゃんラッキートランプせんべい」は、直言「非立憲のツーショット―「みっともない憲法」と「いわゆる裁判官」」 でも紹介した。今回、ニューヨークの街頭で売られていたプーチン缶バッチを乗せてここに掲げておこう。2016年大統領選挙をめぐるトランプ・プーチン関係を皮肉る構図であるとともに、トランプ・プーチン関係のなかで踊った安倍が表現されている。フライングぎみのタイトルになったが、直言「安倍政権の終わり方―「アッキード事件」と「日報」問題もここに掲げておこう。また、安倍が「政治的仮病」によって唐突に政権を投げ出した直後、安倍に関するグッズをまとめた直言「わが歴史グッズの話(47)「アベノグッズ」の店じまい」をアップした。それも、ここに挙げておこう。

  なお、「令和」に元号が決まったときの「直言号外」に、「令和まんじゅう」が載っているが、これはリンクするだけにとどめる

「戦える自衛隊に」――「我が軍」といった首相

   さて、少し古くなるが、2008924日に発足した麻生太郎内閣の「首相お菓子」について書いておく。支持率が10%を切って9.7%(20092月)を記録するところまで落ちた内閣だったが(AFP2009216 )、2009830日の総選挙で大敗して、政権交代となってからも、この人物は元気である。「秘密の太郎ちゃん」饅頭。14年前のものなので、研究室の奥に眠っていた。今回、ひっぱり出してきて、しげしげと眺めた。前述の「直言」で紹介してある。また、Amebaテレビ編集部のブログ(2009年2月14日) にも出てくる。今回、賞味期限を見てみると200986日であった。830日の総選挙で麻生内閣は大敗して政権を譲ることになるので、お菓子の方が先に賞味期限を迎えていたことになる。

   麻生太郎には失言癖があるといわれるが、私は本音だと思う。言葉のもつ作用について無神経なだけである。首相時代、漢字を読めないことでこの「直言」でもずいぶん批判した。下記は直言「漫画首相と政治の戯画化」からの引用である。私も55歳だったので、今なら書かないような激しい批判をしている。

「…麻生に欠けているのは漢字が読めないことだけではない。ボキャブラリーの貧困もはなはだしく、「語彙の困窮」の水準にまで到達している。貧困な歴史認識しか持たない、「歩く失言製造装置」としか形容しようがない。あの口から繰り出される、差別と人間蔑視と地方軽視の失言の数々は、まさに「言葉の暴風」である。即座に訂正するというのだから、これは暴言の放屁である。…」

   言葉だけではない。首相としての一挙手一投足、全パフォーマンスを徹底批判している(直言「麻生お一人様内閣」)。歴史認識の貧困はすさまじく、自民党幹事長時代の失言から、20137月、安倍内閣の財務大臣として、「ヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って出てきたんですよ。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。」というとんでも発言まで。直言「憲法の手続を使って憲法を壊す―ヒトラー権力掌握から90で詳しく書いたので参照されたい。

   先週の月曜、417日、麻生副総裁は福岡市での講演で、北朝鮮ミサイル問題や「台湾有事」に関連して、「今までの状況と違う。戦える自衛隊に変えていかないとわれわれの存立が危なくなる」と述べた(共同通信2023417 )。昨年9月にも、「沖縄、与那国島にしても与論島にしても台湾でドンパチが始まることになれば戦闘区域外とは言い切れないほどの状況になり、戦争が起きる可能性は十分に考えられる」と語っている(直言「台湾でドンパチ、日本で戦争」参照)。

  対外政策において政治家が不用意かつ不必要に勇ましい言葉を使うことは、過度に相手を刺激にすることにもなり、厳に慎むべきことである。自衛隊を軍隊と呼ぶことは、憲法尊重擁護義務(憲法99条)をもつ政治家として失格である。2015320日の参院予算委員会で、安倍晋三が自衛隊について、「我が軍」という言葉を使った。私は、直言「「我が軍」という憲法違反の宣言―箍が外れた安保法制論議(2)」でこれを批判した。フーテンの寅さんのセリフ「それを言っちゃあ、おしめえよ」の世界である。麻生は、「戦える自衛隊」というのは「戦力としての自衛隊」ということだろう。政府解釈の本筋は、自衛隊は「自衛のため必要最小限度の自衛力」として合憲なのであって、戦力として合憲ということではない。しかし、12.16閣議決定」による「戦略3文書」、とりわけ「敵基地攻撃能力」の保有の方向と内容によって、安全保障政策の「時代の転換」(Zeitenwende)を迎えようとしている。なお、拙稿「日本国憲法9条と「敵基地攻撃能力」憲法解釈論と立法事実論からの一考察」(早稲田大学法学会編『早稲田大学法学会百周年記念論文集』第1(公法・基礎法編) (成文堂、202212)2346頁参照)。

   最後に、G7を前にした日本の状況について一言しておきたい。ベルリンのTagesspiegel(Digital)416日付は、415日に岸田首相が襲撃された事実を伝え、日本は治安がいい国とされてきたが、安倍晋三元首相暗殺の9カ月後に岸田首相への襲撃が行われ、5月のG7開催国としての日本の治安は大丈夫かと懸念を表明している。「アベなるもの」(Das Abe)が岸田に憑依して、この国に行方を危うくしているが、その当人たちも、かなり危うい橋をわたっていることは確かだろう(直言「安倍晋三銃撃事件―立憲政治の前提を壊した人物の死」および直言「「壊された10年」2次安倍晋三内閣発足の日に」参照のこと)

【文中敬称略】
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