■ユーゴ空爆(「新安保」を問う ガイドライン法案の行方)【西部】

1999年4月20日 朝刊  米軍を中心とした北大西洋条約機構(NATO)によるユーゴスラビアへの空爆 が続いている。水島朝穂・早稲田大教授(憲法学)は「ドイツから見れば、この空 爆は『周辺事態』。日本人がガイドライン関連法案でつきつけられるものも見えて くる」と指摘する。3月末、1年間の研究のため渡独し、ボンに着いた翌日に空爆 が始まったという、水島教授に聞いた。

■ドイツの人々は空爆をどう受け止めているか。

 「私たちの玄関前の戦争」。3月24日付、大衆紙「エクスプレス」の見出しだ。

 難民に対する募金は、ドイツ赤十字に数日間で150万マルク(約1億円)が寄 せられたという。ソマリアやルワンダの時とは比較にならないテンポの速さだ。

■空爆をめぐるドイツと、新しい日米防衛協力の指針(ガイドライン)をめぐる日 本の立場の共通点は。

 ドイツは基本法(憲法)の制約から、NATO域外への派兵を行わないできた。 湾岸戦争で「国際貢献」の名のもとに軍事協力を求められ、連邦軍の戦闘機や掃海 艇をNATO加盟国のトルコと東地中海まで出した。その後、ボスニア紛争などで 連邦軍を域外に派兵したが、「国連の傘のもとで」が前提だった。だが、今回、国 連の安保理決議はない。

 ドイツ社会民主党(SPD)がNATOや連邦軍を認める現実路線に転換してか ら、今年でちょうど40年。昨年、緑の党との連立で政権を手にしたこの党のもと で、ドイツがついに武力行使の道に踏み出したのは何とも皮肉だ。

 日本でも、旧社会党(社民党)が、政権参加を機に自衛隊合憲の立場に変わった。 その後、「国際貢献」の名のもとに自衛隊の海外派遣が可能になるなど、自衛隊の 行動範囲と内容は、憲法を改正することなく徐々に広げられている。

 ガイドライン関連法案では、日本が直接攻撃されない場合でも米軍の後方支援を 求められている。今回の空爆におけるドイツと似た役割が想定されている。

■空爆以外にどんな方法があると考えるか。

 例えば、空爆で態度を硬化させたユーゴは、政府に批判的だった同国内の独立系 ラジオ局を閉鎖したと報道された。空爆ではなく、ユーゴ政府に対する批判世論を 同国内で守り育てることも有効な手段だろう。

 空爆が状況をむしろ悪化させたという論評もある。空爆を続けながら、そのため に発生した難民を受け入れる矛盾への批判は、SPDや緑の党の内部、特に地方組 織から起きている。シュミット元西独首相も、NATOは国連をないがしろにして いると批判している。

 私は「人権を守る空爆」か「平和のための傍観」か、という二つの選択肢しかな いとは思わない。日本でも、ガイドラインをめぐる議論の中で「傍観か、武力行使 か」という二者択一を迫る動きが生まれつつあるように思う。憲法に基づく冷静な 視点が一層重要になっている。

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 水島教授は1953年生まれ。著書に「この国は『国連の戦争』に参加するのか」 (高文研)など。