「新聞を読んで」 〜NHKラジオ第一放送
      (1998年 3月22日午前 0時30分放送、7時40分再放送)

今日も、三つの出来事をについて新聞を素材としてお話しします。

 

1.地下鉄サリン事件から3年

まず最初に、この20日で、東京・地下鉄サリン事件から3年が立ちました。新聞の常として、大きな事件の節目の前後には、関連記事や論評などが一気に増えます。この問題でも20日付朝刊・夕刊を中心に扱いも見出しも各紙横並びでした。「今も電車に乗れない−−消えぬ後遺症」(東京)「全面解決道遠く−−被害者救済ようやく一歩(毎日)など。あるいは、「逮捕者の半数教団復帰」(読売)、「教団再生に不安」(毎日)という見出しも。『毎日新聞』は、オウムが「破防法の適用が見送られたのを契機に活動を活発化させた」と書きました。破防法適用に慎重だった『毎日新聞』にしては、警察庁情報にやや引きづられた過ぎているように思います。またぞろ破防法適用といった議論に飛躍することのないよう、オウムの状況や問題については、公安情報に無批判に依拠せず、新聞各社のしっかりした独自の裏付け取材が求められます。重要なことは、この3年の間に被害者救済が十分に進んでいないことです。こうした事件の被害者救済の法的仕組みが不十分なことは各紙とも指摘しています。20日付、被害対策弁護団が被害者救済の署名簿を法務省に提出したという記事が載っていますが、被害者救済の総論では反対がなくても、お金がからむ各論になると、国の姿勢は鈍くなります。この事件に限らず、犯罪被害者等給付金支給法の見直しなど、この分野での施策の充実が求められます。社説では、『朝日新聞』20日付が「犯罪の被害者を支えよう」と、被害者の後遺症のケアの問題などを指摘しながら、他方で、被害者への強引な取材やぶしつけな態度、さらには被害者の名前の公表の問題など、「自らに問いかける」という形で、マスコミ側の反省点についても触れていたのが目をひきました。これが指摘だけにとどまらずに、実際の取材現場に具体的にどう活かされていくのかが課題でしょう。

 

2.「周辺有事立法」と新輸送艦「おおすみ」呉配備

さて、次はいわゆる「周辺有事立法」の問題です。17日、政府・自民党は、新しい日米防衛協力の指針、いわゆる新ガイドラインに関連する法律の整備の問題について、方針を打ち出しました。18付『読売新聞』によると、新ガイドライン関連法は3本柱で、まず、自衛隊83条(災害派遣)の規定を改正して、撃墜された米兵などを捜索・救難できるようにすること、2つ目は自衛隊100条の8(在外邦人等の輸送)を改正して、在外邦人救出のために航空機だけでなく、自衛隊の艦船も使えるようにすること、3つ目は「周辺事態法」という新立法を作り、米軍への後方地域支援や民間の空港や港湾の使用、さらには船舶に対して武装した自衛官を乗船させて、積荷の検査などを行う臨検を行えるようにするというものです。これに加えて、『毎日新聞』は、これら3活動に従事する自衛隊員の防護のための武器使用ができる規定も含まれていると書いています。そもそも新ガイドライン自体が憲法との関係でも多くの問題をはらんでいるにもかかわらず、国会での議論は不十分です。しかも立法や予算を拘束するものではないと書いてありながら、事実上、こうした立法により、実質的な拘束力をすでに発揮しつつあります。安保条約が日本および極東の平和と安全という建前をとっており、この条約自体は一字一句改正されていないのに、条約でもない実務的な合意文書によって、この国の安全保障の枠組が大きく転換をとげつつあることは問題です。「周辺事態」という曖昧な概念が日本の安全保障政策を組み替える役割を果たしています。この概念は、どこまでが「周辺」かという地理的限定が最初から外されています。「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」であると政府が判断すれば、それは「周辺」にカウントされてくるわけです。安保条約のもとで米軍は、一度の事前協議もなしに、「極東」の外にも活動の場を広げてきましたが、自衛隊の活動には「専守防衛」というしばりがありました。「周辺事態」を導入することで、今度は、自衛隊がこうした枠に拘束されることなく、日本の領域外で活動することが可能になるわけです。18日付『毎日』の見出しは「臨検、周辺有事に限定」、『読売』のサブ見出しは「臨検は周辺事態限定」。これだけ見ると、周辺事態に限られるという印象を受けます。しかし、すでに述べたように、「周辺事態」は、日本が武力攻撃を受けた日本有事の場合よりもはるかに広い概念です。日本自体が直接武力攻撃されていないのに、日本から遠く離れたアジア・太平洋地域のどこかで起きた出来事で、日本の「平和と安全に重要な影響」があると政府が認定さえすれば、そこまで行けるわけです。自衛隊は「自衛のための必要最小限の実力」だから憲法に違反しないとしてきた、1954年以来の政府解釈との整合性も問われてくるでしょう。各論的にいえば、臨検と呼ばれる活動は、武力による威嚇・武力の行使の可能性が高く、これを禁じた憲法九条との関係で問題となります。国連決議を受けているから「国権の発動ではない」という主張もありますが、憲法9条で禁止されている武力威嚇・武力行使の幅はきわめて広く、かりに国連決議を受けてもそれは違憲となると考えるのが憲法学の通説の帰結です。しかも、『読売』のいう「周辺事態法」という形の、臨検も米軍の物資の輸送などもいっしょくたに規定する特別法を制定するとすれば、「周辺事態」という曖昧な目的のために、一括して広範な権限を自衛隊に与える法律となり、そうした包括的な立法は、法治主義の観点からも問題となります。日本が武力攻撃されたときの対処を法的に整備するとして始められたこれまでの「有事法制」とは明らかに異なるものです。「日本の自衛のため」という論理ではない新しい論理、つまりアジア・太平洋地域の平和と安定のために自衛隊は活動するということになるわけで、これは集団的自衛権を前提としたものです。集団的自衛権の行使は違憲としてきたこれまでの政府の解釈との整合性が一層問われてくるでしょう。こうした重大な立法が国会に上程されようとしているのに、マスコミの扱いも国民の関心も高くないので気になります。
 これと関連して、各紙とも16日に、海上自衛隊の新しい輸送艦「おおすみ」が配属地の呉基地に入ったことを報じています。この船は8900トンで海自最大の補給艦。外見は空母のようだと各紙ともに写真を入れて報じています。広い甲板には大型ヘリが搭載可能で、LCACというエアクッション方式の上陸用舟艇も収納できます。この舟艇は重い装甲車を4両も高速で運ぶことができます。「おおすみ」は邦人救出や災害派遣などに使うと説明されていますが、この装備の性格は、上陸作戦に使われる強襲用陸艦に近いものといえます。建造費530億円。すでに2隻目が今年度予算に計上されています。配備先の広島県呉市の地元の『中国新聞』17日付は、とくに詳しく報じています。その記事なかで、この間就役した海自の4隻の艦艇(おおすみ」と、イージスミサイル艦「ちょうかい」、潜水艦「おやしお」、大型掃海母艦「ぶんご」)が従来の艦艇と異なり、大型化が著しく進んでいることを指摘していること、艦艇の数は防衛計画で変わらなくても、その実力は急速に増強されていること、「おおすみ」の2番艦、3番艦の建造も予定されていることから、配備段階で問題にするのはおそすぎることに触れつつ、建造決定の時点でもっと透明性を高め、必要性を含めて議論する必要があることを強調しています。重要な指摘です。私は、この装備は、海上自衛隊の外洋での作戦を想定した外洋型といえます。政府がこれまでとってきたいわゆる「専守防衛」とは明らかに異なる運用思想に基づくものだと考えます。地域紛争に介入する緊急展開部隊の有力な装備になりかねません。新ガイドラインで導入された「周辺有事」に対応した装備といえるでしょう。

 

3.サッカーくじ法案の参議院で可決

次に、いわゆるサッーカーくじ法案が20日参議院で可決。衆議院に送られ、成立の見込みという記事です。各紙とも参院文教・科学委員会可決の前後から一面で大きく扱っています(一面扱いは東京18日付)。1枚100円。Jリーグの十数試合の結果を予想する仕組みで、的中率に応じて払戻を受ける。最高1億円程度。コンビニやガソリンスタンドでも販売されますが、19歳未満には販売できない。18歳未満の禁止ハードルを高めたのは、現役高校生には売らないためでしょう。「スポーツ振興投票実施法案」という奇妙なタイトルのこの法案。JOC(日本オリンピック委員会)などは歓迎ムードだそうですが、与党内部にも反対論が根強くあり、各紙の論調も批判的トーンが目立ちました。児童・生徒への悪影響が生じたときの文部大臣の停止権限や、八百長をした選手・監督の処罰規定などを置いていますが、これらの規定自体が、すでに問題の発生を予測しています。長野オリンピック報道で一番熱をあげていた『信濃毎日新聞』が、「サッカーくじに賛成できない」という見出しの明確な反対論を20日付社説で展開したのが目をひきました。長野オリンピック事業費は、当初見積もりよりも1600億円もオーバーしたと18日付『毎日新聞』が書いていますが、とにかくオリンピックの興奮でうやむやにされていた不透明な金絡みの問題が今後出てくるでしょうが、それはともかく、『信濃毎日新聞』の社説がいうように、「かけの対象になれば、スポーツの見方そのものが変化しかねない」という指摘は重要です。 競馬も競輪も最初からギャンブルという認識がありますが、サッカーの場合、サポーターと称する人々に見られるように、異様な興奮をよぶスポーツですから、途中からこれがギャンブル性を帯びてきた場合、競馬・競輪以上にギャンブル的になり、荒れてくる危険があります。PTA全国協議会や日弁連の反対声明のポイントは、青少年の非行・犯罪との関わりですが、私はそれ以上に、この国がヨーロッパ諸国などと比べて、GNPに占めるギャンブルの比率が高いことを指摘したいと思います。朝日新聞社の週刊誌「アエラ」はサッカーくじ問題を初めて論じた94年7月25号で、「気がつけばギャンブル大国」という秀逸のレポートを載せています。それによれば、日本のギャンブル熱は異常で、競馬・競輪・競艇・オートバイ・宝くじ・パチンコの6つのギャンブルをあわせるとGNPの5.7%。これは世界一です。競馬もイギリス・フランスの四倍以上。まさにギャンブル大国です。スポーツ予算が貧困なことは明らかですが、それは一般会計の予算を増やす努力をすべきで、サッカーくじ導入の根拠としては薄弱。財政が苦しいからギャンブルを導入という論理は、所得の低い層から多くとるという点で、消費税以上の逆進性を生むおそれがあるという声も『アエラ』は紹介していました。私は、「ギャンブル大国」の日本で、子どもまでも巻き込んで、より一層、ギャンブルを拡大することそれ自体の問題が根本的に問われているように思います。


    「新聞を読んで」( 1998年 3月22日午前 0時30分放送 NHKラジオ第一放送)