1年ぶりの「わが歴史グッズの話」である。前回は「日独伊三国同盟」の関連グッズだった。これを書いた1カ月ほど前、安倍首相は訪米中の記者会見(2014年9月25日)で、「日本が再び世界の中心で活躍する国になろうとしている」と語ったが、お互いを「世界の中心」と認め合う枢軸国の条約が「日独伊三国間条約」だった。この時の近衛文麿内閣の「告諭」には、「独伊両国ハ帝国ト志向ヲ同ジウスルモノアリ」とある。この1年で安全保障関連法を強引に成立させ、独裁的な政権運営に突き進む安倍政権の姿は、75年前とさまざまに重なる。
さて、その安保関連法の審議過程で、珍妙なやりとりがあったことをご記憶だろうか。「ミサイルは弾薬ですか、武器ですか」「劣化ウラン弾は武器ですか、弾薬ですか。これを輸送できますか」といった質疑である。他国軍への後方支援について定めた「重要影響事態法」と「国際平和支援法」では、自衛隊による武器の提供はできないが、弾薬提供はできるとしている。旧周辺事態法の別表第一、第二の備考「物品の提供には、武器(弾薬を含む。)の提供を含まないものとする。」とあったものが、重要影響事態法では(弾薬を含む。)の部分を削除し、国際平和支援法は同法の別表をなぞっているので、その結果、ともに「弾薬は提供できる」と解釈されるようになったわけである。
8月3日の参院特別委員会で中谷元・防衛大臣は、「弾薬」とは「武器とともに用いられる火薬類を使用した消耗品」であり、手榴弾は弾薬に当たり、他国軍に提供可能と述べた。翌4日には、「ミサイルは提供の対象として想定していない。あえて当てはめれば弾薬に整理できる」と答弁した。さらに中谷大臣は、劣化ウラン弾、クラスター爆弾が「弾薬」に含まれるかを問われ、「劣化ウラン弾、クラスター爆弾も弾薬だ」と述べた。安倍晋三首相は「クラスター爆弾は禁止条約に加盟しているから日本は所有していない。提供することはあり得ない」とフォローした。5日には、「核兵器は(他国軍に)提供できるのか」との質問に、「弾薬に分類される」と述べ、法律上は提供可能との認識を示した(以上『朝日新聞』2015年8月6日付)。この日の審議では、後方支援の「輸送」任務について、何を運ぶかが問題となり、「核兵器、化学兵器、毒ガス兵器は輸送可能か」と問われた中谷大臣は、「法律上は排除していない」と答弁した(同)。この3日間の審議で具体的に挙げられたのは、輸送可能な武器として、米軍のミサイルや戦車、化学兵器、毒ガス兵器、核兵器、また弾薬として提供可能なものとして、手榴弾、ロケット弾、戦車砲弾、核兵器、劣化ウラン弾、クラスター爆弾だった。なお、劣化ウラン弾についていえば、9月2日の参議院特別委員会で、中谷氏は再び野党の追及を受けた。審議が何度もとまった、そのしどろもどろの答弁風景は記録に残す価値があると思うので、参議院の議事録から当該部分を抜き出してみた。
ところで、「弾薬」の範囲については、これらの答弁にもかかわらず、防衛省では弾薬に該当するものを「装備品等及び役務の調達実施に関する訓令」(昭和49年防衛庁訓令第4号)ですでに定めている。口径30mm以下の銃弾や擲弾(手榴弾、小銃擲弾)から、地雷、機雷、ロケット弾、魚雷、さらには125mmを超える榴弾が「弾薬」に該当する。武器と弾薬の違いについて、訓令では、魚雷発射管やロケット発射機は「武器」と定めている(『軍事民論』参照)。なお、日米間の弾薬の提供に関しては、日米物品役務相互提供協定(ACSA協定)に関する実務手引き書「日米物品役務相互提供業務の参考」(2009年3月27日統合幕僚監部)に収録されているACSA協定の手続取極によると、米国の国内法令により提供が禁止されている誘導ミサイルや機雷・魚雷、爆弾などは両国とも提供しないことで合意されているという(同)。
この「わが歴史グッズの話」シリーズでは、手榴弾 について12年前に紹介している。砲弾も、地雷も扱っている。クラスター弾については、日本がクラスター弾禁止条約案に賛成に転じた直後に書いている。その後、新しい砲弾や中国で販売された米国製手榴弾M-67の置物などをいろいろと入手しているが、別の機会に紹介しよう。
ここで注目したいのは劣化ウラン弾(DU)である。劣化ウランを用いた合金でできた弾丸をいい、戦車の分厚い装甲を貫通する対戦車砲弾に使われる。1200度を越える溶解温度で、装甲を貫通した後に溶解した一部が微細化して飛散する。劣化ウランは、ウラン238を中心に、ウラン濃縮過程で出てきたウラン235などからなっており、毒性の強い放射性物質である。飛び散ったウラン微粒子が付着した戦車の残骸に近づいた子どもなどが、内部被曝や健康被害を起こしている。湾岸戦争の帰還兵などに白血病などの健康被害が出ており、劣化ウラン弾が使用された旧ユーゴの諸国でも健康被害が報告されている。
私の研究室には2種類の劣化ウラン弾の薬莢がある。一つは、かなり古いタイプの20ミリスポッティングライフルM69用の薬莢である。信管が働く腰の部分だけ30ミリと大きくなっている。何とも奇妙な形である。1960年代にアメリカ陸軍が採用していた戦術核無反動砲(「デビークロケット」と呼ばれた)は車両に搭載され、自走砲のように運用される。120ミリXM-28、150ミリXM-29の2種類あり、有効射程はXM-28で約2km、XM-29が約4kmだった。弾頭には0.25キロトンの核弾頭(Mk54)を使う。そして、XM-28は砲身の下面に、弾着チェックに使う20ミリ・スポッティングガンM69を備えていた。この薬莢のなかにおさめられているのは尾部にフィンをもつ特殊な弾丸で、これにアメリカで初めて劣化ウランが用いられた。60年代の核兵器の運用思想がよくあらわれている。5キロに満たない正面で敵と向かいあい、ジープに積んだ無反動砲(バズーカ)から歩兵が射程2キロほどで戦術核砲弾を撃つ。爆発すれば、放射能の影響は、風向きにもよるが、味方にも及ぶ。その核砲弾の弾着をチェックするために撃ち出す20ミリ弾。戦術核を使うことを考えていた時代の遺物(異物?)である。
もう一つは、通常兵器だが、戦車の装甲を貫くときに核汚染がおきる「機能的核兵器」ともいうべき機関砲弾である。照屋寛徳衆議院議員が2000年6月、那覇市近郊の西原町で大量の劣化ウラン弾の薬莢を発見した。これは、その470本あったなかの1本である。照屋議員は、入手した4本の薬莢を使って国会で質問しようとしたところ、放射能の心配があるということで委員会室への持込みをとめられた。だが、これは過剰対応ではないか。遠方から撃った機関砲弾が戦車に命中したときに放射性物質が飛散するのであって、射撃した対戦車ヘリの下方に落下した薬莢に放射性物質が付着する可能性は皆無に近い(目標にかなり接近して射撃した場合は別)。照屋議員は質問主意書(質問第6号「劣化ウラン弾薬きょう流出に関する質問主意書」平成12年8月4日)の形で政府を追及した。
質問主意書によれば、この薬莢は、海兵隊のAV8Bハリアー攻撃機の25ミリ機関砲弾の薬莢である。湾岸戦争のとき、米軍は、イラク軍の装甲車両に対して劣化ウラン弾を100万発以上発射したが、そのうち6万7000発は米海兵隊のハリアー攻撃機から発射されたものという。この薬莢はどういう経緯で流出したのかなどについて照屋議員は質問している。これに対する政府答弁書(答弁書第6号、平成12年8月25日)では、 薬莢が発見された場所や薬莢を調査した結果、汚染はなく、劣化ウランによる影響は認められなかったとされた。また、「米国軍隊は、平素より即応態勢を維持するため、緊急事態に備えて、種々の装備、物資を保有しており、劣化ウラン弾についても、このような観点から我が国における一部の施設及び区域に保管されているものと承知しているところであり、その撤去を申し入れる考えはない」というものだった。
イラクに派遣された陸上自衛隊の隊員は、「ガンマ線用ガイガーカウンター」。を携行した。これは、当時、「湾岸戦争シンドローム」とされる異常を避けるためで、これと劣化ウランとの関係が疑われた。政府は衆議院の関係委員会での照屋議員の追及に対して、劣化ウラン弾とは無関係と答弁した(衆議院イラク問題特別委員会議事録(2004年1月29日)。当時の外務大臣は、「劣化ウラン弾というのは特定通常兵器使用禁止制限条約の規制の対象にはなっていないわけでございます。ということは、その使用は禁じられていないということです。」と簡単に述べ、その人体への影響についてもかなり軽くみていた。自衛隊員がイラクにガイガーカウンターを携行することについても、防衛庁長官は次のような牧歌的な答弁をしている。「湾岸戦争シンドロームというお話がございましたが、それも、人体に対する影響が劣化ウランとの関連性は確認されていないとの報告を受けておるわけでございます。そういたしますと、現在のところ私どもは、劣化ウランについて、人体に直接摂取でもしない限り、直接摂取した場合もそれは重金属ということを先ほどお答えをいたしました、影響があるとは思っていないけれども、しかしながら万が一ということもある、念には念を入れてということもある、したがって線量計というものを携行していくということ、それを行っているということはお答えをしておるとおりです。」(石破茂防衛庁長官)
劣化ウラン弾はそれが使われたあと、命中した装甲車両などの周辺が汚染され、被害を拡大していく。これは通常兵器ではなく、放射能汚染を拡大するという限りにおいて、「機能的核兵器」ともいうべきものである。化学兵器や生物兵器、対人地雷やクラスター弾に続いて、その使用を禁止する必要がある。イラク・ウラン被害調査緊急報告やUMRCアサフ・ドラコビッチ博士の報告などを参照してほしい。なお、劣化ウランの被害について、世界保健機構(WHO)の「劣化ウラン:原因、被曝および健康への影響」も参照のこと。