「無立憲」の政党が国政に進出――トランプとルサンチマン
2025年7月23日



芝公園の参政党「野外フェス」に参加する
27回参議院選挙は、この国の転換点になる。その発火点になる場所が芝公園だと踏んでこれを取材することにした。病気療養中でもあり、炎天下の遠出に家族はよい顔をしなかったが、信頼する教え子(といっても10歳しか違わない)の編集者・渋谷康人氏に付き添ってもらうことで承諾を得た。大規模な集会の場合、駅で入場規制が行われる可能性もあるので、芝公園まで歩くことにした。新橋駅SL前で待ち合わせたが、すでに国民民主党の演説会場になっていた。会場に向かうたくさんの人々がいるというイメージだったが、意外なほどに多くはなかった。公園のなかに入ると、「ヘイト集団お断り」「レイシスト」「Jナチス」といったのぼりやプラカードを掲げた「アンチの人々」(参政党演説者の言葉)が、演壇(大型街宣車)から見て右側のロープに囲まれた一角で抗議活動を展開していた。マイクは使わず、肉声で叫んでいた。たまに小競り合いはあったものの、主催者側は「挑発に乗らないように」と参加者に繰り返し呼びかけていた。投票日前日ということもあり、反対派との対立を動画に撮られてSNSに出されることを極端に警戒していることがうかがえた。

  演説会は時間通りに始まった。YouTube で中継しているからだろう(「参政党芝公園」の動画検索で見られる)。反対派がプラカードを掲げて、演説者の前の列に並ぶ。通常の政党の政治集会・演説会ではあり得ない風景である。警察による警備は最小限で、自前の警備員が反対派を規制をするが、控え目だった。

  どういう人たちが参加しているのか、観察を続けた。オレンジ色の服装をする人もいたが、多く見積もっても4割程度だった。若者もいたが、多くは30代から50代の男性だった。自己主張をするというタイプではなく、端的におとなしいという印象である。女性は40歳を超えた人が多かった。オレンジの女性の一人が私に、証紙付きの選挙運動用ビラを20枚もまとめて手渡した。会場整理をしている人も女性の方が多い。

  これまでの政党の演説会に「動員」されてくる人たちとは明らかに異なり、妙に静かだった。これは意外だった。反ヘイトの人たちが、大声で「人種差別をやって恥ずかしくないのかぁ」「オレンジを着て来ない人は参加できませんよー」などと叫んでも、何も反論しない。

 

「日本で唯一のトランプ党」という自己認識

  6時ちょうどに始まった演説会(「マイク納め」)のトップバッターは、現役時代に過激な論文を投稿して国会でも問題となった元空幕長の田母神俊雄である。退官後、日本の核武装を広島市の講演会でも公然と主張した人物である(直言「核時代のピエロ」参照)。その後、「核共有」(ニュークリアシェアリング)の議論を展開して、都知事選にも立候補した。演説では、安全保障問題には一切立ち入らず、通貨発行権を政府はもっているのだからどんどん刷って積極財政をやるべしなどと叫んで終わった。

  中国人犯罪者を取り調べていた元警察官で作家と称する人物は、日本人ファーストで何が悪いということをいうために、家庭における夫婦の会話を使って、非常に下品な例え方をしていた。ここで笑いと拍手が起きるのか、とあきれる。投票日の前日ということで、街頭演説での露骨な外国人差別の言葉は避けたのだろう。

 医師を名乗る女性は、世界で8回もコロナワクチンを打っているのは日本だけだと「反ワクチン」をメインにして、厚労省・大手製薬会社の医療利権とたたかうと絶叫していた。

 米国滞在が長いという元証券会社社員は、独仏伊英の極右政党を列挙して、このジャイアントウェーブが参政党を押し上げているという(下の写真は「ドイツのための選択肢」(AfD)アリス・ヴァイデルとフランス国民戦線のマリーヌ・ルペンと神谷宗幣(Die Welt vom 27.7.2025))。「先日、米国に行って、トランプ政権の安全保障長官(?!!)と意見交換しました。日本で唯一の反グローバリズムの政党があり、それが参政党だといってきました」と胸をはった。盛りに盛った話で、トランプ政権に対する連帯感を強くアピールしていた。ここは大きな拍手というほどでもなかったので、聴衆がその意味を理解しているのか疑問に感じた。

  参政党の創設者という人物が壇上に立つと、聴衆の拍手と歓声は一段大きくなった。「正論の神谷宗幣、政策の松田学」と自称するだけあって、党内では人気があるようだ。世界は反グローバリズムに向かっている。トランプがいうことは参政党が結党以来いってきたことだ。我々こそ世界の主流、本流だ。行き過ぎた脱炭素、戦争利権、感染症利権、差別撤廃が世界を壊してきた。日本人として誇りのある国をつくる。国は通貨発行権をもっている。デジタル円をつくって国債をどんどん発行し、積極財政をやって富を国民にまわす。財務省、日銀、市場が敵だと煽る。文章にすると恥ずかしくなるようなことでも、とりわけ30歳代から50歳代の男性たちがこれに熱狂していた。

  この頃になると、上空には報道各社のヘリコプター(私が確認しただけでも7機)が飛来し、集会の映像を撮っている。参加者は2万人に達したという。

     東京選挙区候補者の「さや」(塩入清香)が登壇。中身はまったくないが、「私を皆さんのお母さんにしてください」と絶叫したのには驚いた。一瞬の間があってから拍手が起きたが、あまり大きな反応ではなかった。聴衆はなぜ「お母さん」といったのか理解できたのだろうか。「核武装は安上がり」、「徴兵制の教育的役割」と説く「さや」。防衛大臣をやった稲田朋美ですら徴兵制には消極的である。「さや」は「愛国の母」として、わが子を喜んで国家に差し出すことを求めていることを聴衆は理解しているのだろうか。「私は田母神ガールズの中で一番有名になりたい!」とアピールしていたというから(『女性自身』2025年7月21日)、彼女の主張は、日本の核武装を含めて「師匠」の受け売りなのだろう。

   最後に真打ち登場で、代表・神谷宗幣の演説。拍手と歓声は頂点に達した。人気があるようだ。投票日直前ということで、メディアやSNSで突っ込まれるような話はしなかった。街頭演説で語っていた「仕事に就けなかった外国人が万引きとかして大きな犯罪が生まれている」「外国人の社会保障を日本が丸抱えしている」等々の外国人敵視の発言は完全に封印していた。

    同行してくれた渋谷氏によると、神谷代表はマルチ商法的な話法で知られており、本来の参政党は「極右系マルチ・カルト」であるのに、7割の支持者はそれがわかっていないのではないか。生活をよくしてくれる改革政党のように振る舞っているが、本質は「大日本帝国カルト」であるそうだ。 「日本がさらに壊される。参政党の最後の集会を見て改めてそう思いました。核武装とか一切口にしなかったが、ベースは陰謀論。そして自民党はダメと言いながら、消費税廃止とか言いながら、なぜかアベノミクスの復活を叫ぶ。政治オンチにキャッチーに思えることの寄せ集め。それが参政党!」(渋谷氏のXより)。

   神谷代表の愛読書はヒトラーの『わが闘争』であるとされている(『週刊文春』7月31日号17頁)。その第6章「プロパガンダ」には、「宣伝効果のほとんどは、人びとの感情に訴えるべきであり、いわゆる知性に訴えかける部分は最小にしなければならない。われわれは大衆に対して、過度な知的要求をしてはならない。大衆の受容能力は非常に限られており、彼らの理解力は低いが、忘却力は大きい」とある(直言「「忘却力」と憲法」参照)。

   ナチ党のシンボルカラーは「褐色」である(フランク・パヴロフ(藤本一勇訳)『茶色の朝』(2003年、大月書店))。投票日の翌日、朝起きると、新聞はオレンジの勝利を伝えていた。やがて臨時国会が始まる。オレンジ色が国会の一角を占める。

  

「無立憲」の政党――参政党「新日本憲法」

  会場でもらった選挙ビラ(上の写真)には、9つの「政策」が掲げられている。すべて突っ込みどころ満載だが、とりわけ「GoToトラベルで医療費削減」にはのけぞった。「健康で医療費削減に協力した高齢者には国内旅行券を配布」。コロナ禍の愚策であるGoToトラベルと医療費削減をつなげる発想がおぞましい。「減税と社会保険料削減で給料の3分の2を手取りで残します」「子供一人につき月10万円」も含めて、30~50代にターゲットを絞っているが、政策の体をなしていない。

 なかでも、参政党の憲法草案(新日本憲法(構想案)) が最も問題である。33カ条しかないが、前文を見て仰天である。「國體」という文言を使った帝国憲法への逆走と思いきや、大日本帝国憲法でさえ、外見的立憲主義の憲法であったことからすれば、本質的に立憲主義とは無縁の「憲法」である。「教育勅語など歴代の詔勅、愛国心、食と健康、地域の祭祀や偉人、伝統行事は、教育において尊重しなければならない」という条項がある。さすがに文科大臣も、「憲法・教育基本法違反」として、これを否定する会見をしている(『東京新聞』7月22日)。

  そもそも参政党草案には、まともな人権条項がない。「個人の利益」は団体のそれと並立して扱われ、「公共の利益」により制限されるという発想である。立憲主義の二大柱である権利の保障と権力の分立を欠いた「憲法」草案といえる。国家の対外的独立性をいう国家主権しかなく、国民主権が存在しない。唯一、参政党という党名を象徴させるためか、16歳選挙権がうたわれている。法律を国民投票で決めるという直接民主制、プレビシット的条項もある。一番驚いたのは、「領土保全」の条項で、「外国の軍隊は、国内に常駐させてはならない」「外国の軍隊の基地、軍事及び警察施設は、国内に設置してはならない」とある。そうすると、日米安保条約に基づく在日米軍は違憲となる。これだけ見るとすばらしいのだが、自衛軍の設置や軍事裁判所の条項まであるから、自前の核武装をして「日本人ファースト」でなく、「日本ファースト」でいこうというのだろう。危うい。

  外国人敵視は随所に見られるが、とりわけ外国人や外国資本の制限、帰化後三世代まで公務就任不可など、細部まで「日本人ファースト」の排外的傾向が貫かれている。他方で、旧統一教会も絶賛するような家族保護条項をもち、同姓婚と夫婦別姓を否定している。また、食事から睡眠まで、個人の生活全般にわたって、特定の方向指示を国家が行う、気味の悪い条文が並ぶ。特に「主食は米」、学校給食は地産地消、「地域の風土、信仰を護」ることを地方自治体の目的とするなど、これが憲法草案なのかと脱力する条文が続く。

  最高法規の規定で、「日本の国柄」に反する条約は効力を有しないというのはすごい。国連の人権条約なども、この憲法によれば「日本の国柄」に反するということになろう。防諜や公務員の秘密漏洩の条項もあるが、神谷代表は、「極端な思想の公務員を洗い出し辞めさせる」ためのスパイ防止法について語っている(『毎日新聞』7月17日)。

  公務員の思想調査を公然と語る政党が国政に進出したわけである。議案提案権をもったので、スパイ防止法案を提出すると神谷代表は明言している(『東京新聞』7月23日)。かつて大阪市では、橋下徹市長(当時)の指示で、全職員に対して労働組合や政治活動への関与を尋ねるアンケート調査をしたことがある。13年前の直言「大阪市職員アンケートは何が問題か」 で批判している。このアンケートは後に違法性が争われ、憲法が保障する団結権やプライバシー権を侵害したと認定する大阪高裁の判決が確定している。文化や芸術の世界に権力が踏み込んでくることについても、橋下市長の暴虐ぶりを直言「権力者が芸術・文化に介入するとき」で批判した。参政党の憲法草案を見ると、文化や芸術の分野にも「国柄」や「伝統」などを引っさげて介入する意欲満々である。

 参政党は改憲政党ではない。安倍晋三政権の「非立憲」の施策の数々で傷ついたこの国の荒野に、憲法というものがまったくわかっていない「無立憲」の政党が進出したわけである。

 

参政党の大躍進をもたらしたもの

 20日の投票率は58.51%で前回を6.46ポイント上回った。結果は自民、公明、維新、共産の敗北、立民の現状維持、国民民主党と参政党の躍進だった。得票数、得票率ともに減らし、議席数において大敗したのは自民(25%減)と公明(43%減)、共産(57%減)だった。第9党となった共産党は惨敗といってよいだろう。
    これに対して参政党は14議席を獲得し、非改選議席数と合わせた15議席で議案提案権を確保した。国民民主は17議席を獲得して22議席と、こちらは予算を伴う議案提案権を確保した。参政党は選挙区で926万票、比例区で742万票を獲得した。都市部で現職を落として新人を当選させただけでなく、議席獲得に至らない地方でも投票圏内に迫った。比例では、第3党に躍り出た。

 「日本人ファースト」を掲げ、外国人が優遇されているという参政党の主張を支持した人たちはどのような人たちなのか。さまざまな分析があるが、JNNの出口調査(ここをクリック)では、30代、40代の投票先としては第1位、10代、20代、50代の投票先としては第2位である。韓国の『中央日報』7月22日は、参政党支持層の主軸は「就職氷河期世代」として、「パートタイムや派遣社員など、長期間にわたって低賃金の非正規職に従事し、社会的脆弱層として浮き彫りになった。就職の失敗によって自宅に引きこもるいわゆる「ひきこもり」という社会問題も、ロスジェネから始まった。ロスジェネは1700万~2000万人規模と推定され、日本の総人口の6分の1に迫る」と書く。

極右の伸長の背後に「ルサンチマン」

そこで思い出したことがある。9年前にドイツで在外研究をしていた時、旧東ドイツ地域で極右的な集会が多く開かれていた。それは極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の母体となっていった。ドレスデンで開かれた、メルケル政権の移民・難民政策に反対する集会を取材したことがある。私が写真を撮っていいかと責任者らしき人物に聞くと、どうぞとばかり街宣車の一番上までハシゴをかけて登らせてくれた。それで撮影したのがこの1枚である。参加者の顔がよくわかる。プラカードには「もう連帯の戯言はやめよう」「テロリストとイスラム主義者どもはドイツから出ていけ」などとある。黒づくめの反ヘイトのデモも近づいてきて、警察が間に入って緊張した場面だった。

 参政党が連帯を呼びかけるAfDは、この2月のドイツ総選挙で20.8%と大躍進した。トランプ政権のイーロン・マスクがAfDの選挙集会にオンライン参加して激励するなど、選挙介入と批判されるような状況も生まれた。AfDは4月段階の世論調査で支持率単独首位の25%に達し、メルツ首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の24%を超えた(7月現在は再びCDU/CSUが首位)。ドイツはいま、CDU/CSUと社会民主党(SPD)との連立政権だが、議席占有率44.9%の少数与党政権である。

 2月の段階で、移民政策の厳格化の動議について、CDU/CSUがAfDと連携するような対応をとったことで、国民のなかに大きな危機感が生まれ、大規模なデモも行われた(目標はCDU本部)。AfDと距離をとることを「防火壁」というが、7月になって、連邦憲法裁判所の裁判官の選出手続において、連立与党のSPDが推薦した憲法学者(女性)が、CDU/CSUから反対が出て選出が見送られてしまった。この女性憲法学者がワクチン接種と中絶の問題で極右勢力から批判され、さらに論文の「剽窃」疑惑(これはフェイクだった)まで持ち出され、右翼ポピュリストのポータルや関連するSNSにより、当該憲法学者を極左とする言説が流れた。与党の議員が実質的にAfDと連携することになった。「防火壁」はこういう形で崩れている。中心人物が、CDU/CSUの議員団長であるイェンス・シュパーンである。彼の怪しい動きは、4月段階で警告していた(「政権党の副議員団長、AfDとの連携を示唆」参照)。

トランプからAfD、参政党までパワーの源泉としてきたのがルサンチマン(ressentiment)である。強者や成功者、エリートに対して弱者が抱く妬(ねた)み、嫉(そね)み、僻(ひが)み、やっかみ、疎(うと)みをベースに集団的な恨(うら)みの感情(ルサンチマン)を物質化させたのがナチスだった。トランプ政権誕生の背後にも確実にそれがある。今回の参議院選挙における参政党躍進の背後にも、それがあるだろう。無党派層というよりも、選挙に行ったことのない無関心層を掘り起こし、自民から離反した保守層をキャッチした。「ルサンチマン」の活用に成功したといえる。

 その際、「マルチ商法のような話法」(渋谷氏)を多用し、ファクトチェックが間にあわないほどに、多数のデマを量産してくる。憲法草案にしても、これをまともに批判しようという意欲が減退するほどに、その中身はひどい。しかし、憲法草案を出せる政党のように思わせる。これが参政党の巧妙なところだろう。外国人差別の言動にしても、その一つひとつはすぐに底が割れるのに、人々のなかに「空気感」として外国人への反感が沈殿していく。選挙のために寄せ集めた集団である参政党は、神谷代表の独裁もいわれており、まともな政党に成長する可能性はまずないと見ている。しかし、次の総選挙で大量進出する可能性がある。神谷代表の愛読書がヒトラーの『わが闘争』だとすれば、その教え通り、これからもSNSやYouTubeを駆使しながら、大衆の「忘却力」に依拠していくのだろう。

    なお、参政党の「規約や綱領が、まるで北朝鮮のような上意下達の神谷体制に一変して、異論を唱えた人は全て役員から排除されるようになり、こりゃダメだと思い、運営党員を辞めたばかりです」という党員の方の2年前の内部告発は重要である(「参政党やめました」2023年7月29日参照)。

     「朝起きたらオレンジになっていた」とならないようにするにはどうするか。基本的なことだが、「とにかく自分の頭で考え続けること。考えたら声に出してみる。動いてみる。誰かに話してみる」(高橋哲哉)、これが大切だろう。

【文中敬称略】

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