現代の妖怪よ、政界を去れ 1997/9/22


藤孝行代議士が国務大臣・総務庁長官に任命され、11日間の在任で辞任した。山口組の組頭が「1日警察署長」に任命されて、交通事故防止キャンペーンで街頭で笑顔をふりまいたら住民が怒るように、わずか11日間とはいえ、一国の閣僚のポストにこんな人物が就いていたという事実だけでも大変な不名誉だ。最高裁への上告を自ら取り下げて、懲役 2年執行猶予 3年の有罪判決を確定させておいて、裁判批判を展開する神経と感覚はすごい。閣僚には憲法99条の憲法尊重擁護義務があるが、この男にはそれが全く期待できない。これだけでも、閣僚失格である。真昼のジョークのような出来事が現実になったのも、「中曾根元首相の情念」(加藤自民党幹事長の言葉)のなせるわざだ。私は10年前、古書展で若き日の中曾根康弘氏の改憲私案「高度民主主義民定憲法草案」を発見した。これは拙著『現代軍事法制の研究』にも引用した。たまたま今年 5月 3日付『朝日新聞』が、私の所有するこの資料を紹介した(取材に来た三浦俊章記者による後日談は『朝日』 8月23日付「記者席」参照)。三浦記者によると、中曾根氏は「私案」の存在を失念していたらしく、事務所内を捜索させて現物を発見するや、『産経新聞』で「36年ぶりに公表」とすぐに報道させ、全文を『正論』 7月号に掲載したのである。内閣首相と副首相の公選規定をもつ「私案」だけに、「今こそ使える」と思ったのだろう。結果として「私案」を世間に広めることに「寄与」してしまった私の気持ちは複雑だ。首相までやった人だから、正直ここまでやるとは思わなかった。動きは素早いが、やり方がえげつない。一事が万事。子分に大臣ポストを一瞬でもいいから与え、「勲一等」への最短コースを確保してやる(実際は困難だが)。こんな発想をもつ政治家はさすがに「大勲位・中曾根」以外にはいない。それにしても、こんな人物の言いなりになる内閣とは何なのか。「保保派」の背後でも蠢動し、日本の政治に有害な役割を果たし続けている。「私案」の扉に、「人民の、人民による、人民のための政治」というリンカーン大統領の言葉を恥ずかしげもなく掲げる感覚。中曾根氏は、本当に「法恥国家」日本の象徴のような人物だ。現代の妖怪・中曾根氏は、政界から去れ!