山内読谷村長、沖縄県三役入り 1998/1/26


縄の地元紙は1月14日で一斉に、大田知事が山内徳信読谷村長の県三役入りを要請したことを伝えた。『沖縄タイムス』は出納長、『琉球新報』は副知事と書いた。15日付両紙は山内村長が出納長就任を受諾と5段見出しを打つ。選挙で選ばれた現職の市町村長が県の出納長に就任した例を寡聞にして知らない。どう考えても異例の人事である。「1月12日昼前。県庁を出た一台の黒い高級車が読谷村役場に止まった。降りたのは宮平出納長だった。会議中にやってきた宮平氏は『出納長としてぜひ』と正式に打診した」(『沖縄タイムス』19日付)。私は13日の段階で、読谷村長副知事へという情報を得ていた。結局、諸般の事情で出納長に落ちついたが、就任受諾の挨拶が振るっている。「〔山内村長は〕『読谷では終始一貫、基地をなくして、その跡に文化村を造ろうと微力を尽くしてきた』と説明し、憲法の平和主義、主権在民の思想、デモクラシーを大切にして県政運営に携わる考えを強調した」(『沖縄タイムス』17日付)。
  都道府県では出納長、市町村では収入役だが、その職務は現金の出納・保管、小切手の振出し、現金・財産の記録管理などである(地方自治法170条)。あの野戦型の指揮官、山内村長をこんな地味なポストに就けたのはなぜか。もうすぐ大田知事は海上ヘリ基地の受け入れを正式に拒否する。その後の対政府・対米交渉を展開する切り札として、彼を三役に就けて強力な布陣をしいたとみるのが妥当だろう。副知事では官僚機構がギクシャクするため、現出納長を副知事に任命し、その後任という形をとった。だから、宮平現出納長の言葉も振るっている。「すごく力のある方が来て、私も知事も安心して仕事ができる」。大田知事は、「山内さんは読谷村で長く基地問題に取り組み、産業振興も厳しい状況の中で壁を破った」と述べた。これは出納長ポストに就く人間にいう言葉ではない。いよいよ面白くなってきた。
  いま、拙著『沖縄・読谷村の挑戦――米軍基地内に役場をつくった』(岩波ブックレット)が沖縄で飛ぶように売れているという。県庁職員もこぞってこれを買っていると聞く。中央政府と沖縄との対立構図が行き詰まりを見せているいま、米軍読谷補助飛行場内に村役場を作ったしたたかで、しなやかな外交手腕を、より大きなキャンバスで展開する「時」が来た。「沖縄県基地問題担当特命副知事」誕生である。県議会では、全会一致で賛成が得られるというが、どうもその原因はこのブックレットらしい。自民党県連幹部は、山内氏の行政手腕だけでなく、「社会的評価も高い」ことを賛成の理由に挙げていた。ブックレット発売後、村長は、「元気になってもらおうと思って知事に持っていった」と私に語っている。このブックレットにまつわる不思議な縁は、第二ステージへ。山内村長がんばれ。