日本一多忙な沖縄県出納長 1998/6/1


事、副知事、出納長を「三役」という。出納長は都道府県に置かれ(地方自治法 168条)、その職務権限は、現金や物品の出納・保管、小切手振りだし、現金・財産の記録管理、支出負担行為の確認、決算の調整などである(同 170条)。読谷村長から沖縄県出納長になった山内徳信氏。マスコミに登場する頻度では、大田知事に次いで多い。とくに朝日新聞は、山内出納長の発言を重視している。山内氏がどこに行くか、現地マスコミは追う。全国に47人いる出納長のなかで、最も多忙な人物であることは間違いない。その山内氏の主張は、本土への基地移設である。本土の関心が薄れないようにすることを狙った、挑発的物言いだ。いかにも彼らしい。「基地は国策で建設された。撤去後の雇用問題は責任者である政府が対応すべきだ」という形で、基地返還をにらんで、日本人従業員の雇用不安に対する対策も、政府に強く要求している。その論理は明快。大田知事には少し迷いが出ても、山内氏が振り払う。沖縄県の強気の背景には、山内氏の出納長就任がある。 4月24日(金)。総理府3 階特別会議室で、内閣審議官ら政府側と宮平副知事、山内出納長ら沖縄県側との「意見交換」が行われた。手元にそのテープ起こし原稿がある。その一部は『朝日新聞』 5月20日付にも紹介された。一歩も引かずに政府側に迫る県側の気迫が伝わる。発言の大半は、山内出納長である。あくまでも米側との「合意」を前提にして、沖縄に基地を飲めと迫る政府に対して、山内氏は鋭く切り返す。米軍基地の機能維持をいう政府側に対して、「基地機能云々は、日本側が言う言葉ではありません」と、「それをいっちゃあ、おしまいよ」(フーテンの寅)とばかりにピシャリ。山内氏就任前の大田知事の逡巡を突く政府側に対しては、決して賛成とは言わなかったと反論しながら、逆に、那覇軍港返還に失敗した政府の責任を問い返す。「日米の合意があるからといって、強引に押しつけると、第二の島ぐるみ土地闘争が起こる恐れがあると威嚇しながら、「あなた方の生まれ故郷でこういう議論をしたらどうなるのか。我々はもう少し選択の幅を広げて欲しいと言っているのです」と審議官らの情にも訴える。政府側が一瞬ほだされたような答えをすると、すかさず基地の県外移転を求める。そして、 3時間20分の激論の末、「官房副長官と話をする時間になりましたので、これで閉めさせていただきます。本日はありがとうございました」と宣言して、ピシャと終える。完全に山内ペースである。米軍司令官との直接交渉など、読谷村長時代の、相手の懐に飛び込む独特の交渉術は健在だ。珍しく、マスコミ風の安っぽい表現を借りるならば、山内出納長の今後の動きに「目が離せません」。