選挙後に周辺事態措置法? 1998/7/13


ギュラーをしているNHKラジオ第一放送『ラジオ深夜便』の「新聞を読んで」の担当日がたまたま投票日になった。それで「20世紀最後の参院選」の意味についても触れてみた。実は、この番組のレギュラー 2名が参院選に立候補したため、担当ディレクターから、「先生は立候補されないでしょうね」と私に確認の電話が入っていたのだ。「彗星が地球に衝突するよりも、それは低い確率です」と答えておいた。この選挙期間中、「周辺事態措置法案」を含め、平和や「安全保障」の問題は目立った争点にならなかった。選挙も終わり、米軍への「後方地域支援」を質的に強化する「周辺事態措置法」実現に向けた動きがどのように展開するか、予断を許さない。ところで、英字紙 Japan Times 4月 8日付は、この法案中の「後方地域支援」のことを、端的にrear-echelon logistical support と書いた。echelon という言葉を使ったのが興味深かった。この言葉は「梯状配置」、あるいは「梯団」を意味し、軍の編制に即した展開パターンを指す。logisticは「兵站」で、これらを合わせて直訳すれば、「後方梯団兵站支援」となる。Japan Times は、新ガイドラインの「中間取りまとめ」を報じたときも、一面トップにWAR MAUNAL(戦争マニュアル)の大見出しを打ったことで知られる。同紙が「後方梯団兵站支援」という言葉で表現しようとしたことは、アメリカ人にはすっきり理解できるだろう。日本政府は、国内向けの説明のため、「後方地域」という表現によって軍事的色彩を薄めようとしているが、アメリカ人にとっては、戦闘部門と兵站部門とは不可分一体の関係にある。米軍の兵站重視は昔から徹底しており、アイゼンハワー将軍(後に大統領)は、「兵站を理解しない者は近代戦における将帥の資格なし」とまで言った。一方、旧日本軍は、歩兵や砲兵の「兵科」こそ中心という思想が根強く、「輜重輸卒が兵隊ならば、蝶々トンボも鳥のうち」という言葉に示されるように、兵站部門を馬鹿にしていた(拙著『戦争とたたかう』参照)。現代戦においては、後方部門の役割はより大きくなっている。だからこそ、米軍は日本による「後方地域支援」を非常に重視している。米軍の戦闘作戦行動にここまで深く関与し、かつその後方部門を大きく支えておきながら、「戦闘に巻き込まれません」というご都合主義が通用するだろうか。「周辺事態措置法案」によって、自衛隊の部隊は米軍の「後方梯団」に組み込まれるのである。ちなみに、「新聞を読んで」のレギュラーの2 人(女性)は、民主党と社民党の比例第1位でそれぞれ当選した。