21世紀の「ほら話」   2001年1月1日

年、明けましておめでとうございます。 昨年ドイツでのSilvester (大晦日)は、ゆったりとした気分でライン川の花火に参加したが、今年の年末年始は書斎で仕事である。いま、大隈講堂前では、「早稲田カウントダウン」が行われている。たくさんの学生・教職員、地域の人々が集まって、世紀の変わり目を肴に大いに盛り上がっていることだろう。いま私は、原稿督促状やら講演テープ起こしの束などの「20世紀の宿題」を眺めながら、これを書いている。

  ともあれ、21世紀の第1回直言。 私なりに「ほら話」から始めることにしよう。嘘や大言壮語という意味でのホラではない 。いずれ「ほら~ぁ。どう?」と言えるような、近未来の予測、「ほら~ぁ話」である。

  その1 。いよいよアジアの動きが活発化する。
  朝鮮半島の動きは、民衆レヴェルのチャンネルを活かした多彩なものに発展するだろう。単なる国家統一を超えた、「社会」のレヴ ェルでの変化を生み出していくに違いない。もちろん楽観は許されない。極度に統制・中央集権化された国の場合、一歩間違えると大混乱が起きる。だが、21世紀の最初の数年の間に、平和的な枠組の基本が決まるだろう。ASEAN 地域フォーラム(ARF)などの動きも注目される。OSCE(欧州安保協力機構)のアジア版(OSCA) のような地域的安全保障機構の設立に向けた動きも進むだろう。ブッシュ政権の対日要求にあたふたしながら、一途に「日米同盟」重視路線を続ければ、日本はアジアで大きく取り残されるだろう。「脱亜入欧」でも「脱欧入亜」でもない、アジアとの自然な付き合い方が求められている。そういう状況のなか、ヨーロッパ中心だった昨年(前世紀)までの私の視点を、今年(今世紀)からアジアにも向けたいと思う。現地取材も計画中である。大学の仕事がますます多忙を極めているので、休みを利用した短期取材にならざるを得ないが、それでも今後、直言の随所に「アジアの視点」を織り込んでいきたいと思う。

  その2 。憲法改正をめぐる問題。
  憲法調査会における迷走的議論が国民に飽きられて、ようやく本格的な議論が出てくるだろう。憲法9条改正の理由づけとしても、「人道的介入 」や「人権のための力の行使」、「市民の安全」を守るための人権制限(組織犯罪、精神障害者、外国人などをターゲットにした議論)といった「真打ち」的な議論も出てくるだろう。こうした議論と正面から向き合う必要がある。昨年の憲法論議は、低水準の「押しつけ憲法論」から、「神の国」発言に刻印される、復古的臭いのする議論など、改憲的雰囲気を醸しだす安手の「前菜」だった。今年は、改憲に向けたポイントが各論的に問われてくるだろう。あわてて「対案」を出す必要は今はない(逆に取り込まれる危険あり)。 現実と規範との関係、人権や憲法制度の中身の一つひとつを検証していくことが大切だと思う。私自身について言えば、今年は日本の憲法について、まとまった仕事をしたいと考えている。昨年3月末に在外研究から帰国したので、この2年間、1冊も単著を出せなかった。すでに数冊の単著計画がありながら、ずっと果たせずにいる。今年こそ、少なくとも1冊は単著を出す、と決意表明(自分と編集者に向かって)しておきたい。

  その3 。昨年秋から年末にかけては、自分の人生で初めて、健康に自信がなくなった時期 だった。過労のため、電車のなかで一瞬失神したときは、無事に21世紀を迎えられるか少々不安にもなった。だから、今年はとにかく健康に注意していきたい。仕事の量も管理して、人並みに休日というものをとる。決して過労死はしない、と宣言しておきたい。でも 、これが実現しても「ほらーっ話」にはならない、か。「ホラー話」にならないように、やはり健康に注意することにしよう。というわけで、今年もよろしくお願い致します。