東チモールとマケドニア  2001年7月30日

月26日、インドネシア民主化ネットワーク(NINDJA)などのNGO・市民団体が外務省に対して、「自衛隊の東チモール派遣に反対する申し入れ」を行った。このアピールへの緊急の賛同呼びかけに私も応じた。この問題はまだ一般にはほとんど知られていない。海自の掃海艇が湾岸に派遣されてからすでに10年。来年はPKO協力法10周年である。この間、自衛隊の「国際政治的活用」は確実に進んでいる。そのなかで、PKO協力法にいう「人道的な国際救援活動」として、自衛隊の東チモールへの派遣が検討されている。東チモール問題は、ボン滞在中に一度書いたことがある。東チモール問題の解決には、国軍を使って直接住民を抑圧したり、反独立派民兵を裏で操って住民殺害に手をかしているインドネシアに対して、国際世論の圧力をかけることが緊要である。インドネシアに対して外交カードを切れる立場にある日本の役割は大きい。だが、日本政府はここでも国際世論の足を引っ張る役回りを演じてきた。そこに自衛隊を派遣して何をやろうというのか。自衛隊派遣は、「血も流す所にも私も行きます」という既成事実作りではないのか。このところ、ブッシュ政権の強引な後ろ向き政策が目立つが、ここで日本がアメリカに悪のりして「軍事的カードを切れる国」になるのは、アジアに軸足を置いた対外政策を展開していく上で巨大な損失と言えよう。

  一方、1999年のコソボ紛争でNATO空爆に初めて参加したドイツでは、この2年間、あの空爆は「人道的介入」ですらなく、裸の暴力行使だったことが次第に明らかになってきた(Frankfurter Rundschau紙に断続掲載)。テレビ局も、"The Story"という番組を放送。NATO空爆に至る情報操作やマスコミ操作を暴露した。「空爆やむなし」と考えていた人々のなかにも、冷静な眼差しが戻りつつあるようだ。おりしも同じ7月26日。ドイツ連邦議会では、NATO空爆に賛成した与党の社会民主党(SPD)の議員20名が、マケドニアへの連邦軍の派遣に反対した。与党議員15人が反対すれば過半数を維持できず、派遣決定は困難となる。20という数字は重要な意味をもつ。緑の党からも5人は反対すると見られている。すでに20人の議員が署名し、反対意見を公表した(Die Welt vom 27.7.2001)

「我々は次の理由から、NATOの委任で連邦軍兵士をマケドニアに派遣する連邦政府の提案を拒否する。

(1) ドイツ外交政策は平和政策でなければならない。マケドニアへの派兵はこの目標にかなっていない。派兵決定の理由は、民族紛争が軍事的手段で解決されうるという誤りに依拠している…。
(2) 紛争調停者として、NATOは不適任である。NATOはマケドニアで信頼されていない。なぜなら、NATOは、コソボ・アルバニア系コソボ解放軍(UCK)を支持し、その武装解除を貫徹せず、かつ…セルビアやマケドニアにおけるUCKの武器使用を阻止しなかったからである。
(3) 計画中のNATO出動は矛盾を孕んでいる。もしUCKが自由意思で武器を引き渡す用意があるなら、NATOが武器を回収するために出動する必要はない。それでも、NATO出動が必要だというなら、それは武器回収の限定的な目的のためではない…。
(4) 国際政治は暴力的事態に至ってはならない。それはコソボにおけるエスカレーションとの対比が示す通りである。…我々は、NATOのバルカンへの新たな大規模な軍事介入その経過と結果は予想できないが、地域の一層の不安定をもたらすことを危惧する。
(5) 従来、コソボ戦争は繰り返されてはならない一回性の出来事だったということは問題にされなかった。我々は、さらなる派兵への同意に際して、かかる戦争が繰り返されることを危惧する。
(6) 我々は、NATOの新たな単独行動は国連の権威を傷つけ、世界規模での平和維持への国連の要求を空洞化すると考える…。
(7) 我々は紛争を克服し解決するために、政治的手段に対して軍事的手段が優位することに対して原則的な疑問をもっている。
(8) 我々は、マケドニアにおける紛争が、国連と全欧安保協力機構(OSCE)を考慮に入れた平和的手段によってのみ解決されうるという強い確信をもっている。そのためには、国連と全欧安保協力機構がその任務を継続し、照応する手段を自由に使えなければならない。…したがって、求められているのは、この地域に平和の展望を与える、長期的に計画された政治的・経済的コンセプトである…」。

  この与党議員20名の主張はきわめて正当である。ここには、連邦政府が、国連の委任なしでもNATOの軍事介入への参加を拡大していくことに対する強い警戒感が示されている。同時に、複雑な事情を抱えた紛争地域に軍事介入することは得策ではなく、むしろ紛争解決を困難にするというリアルな認識もある。アメリカも加わるNATOの強引な力の政策が、いかに集団安全保障(国連)や地域的安全保障(OSCE)の発展を妨げているか。与党議員もようやく覚醒してきたようだ。同様に、「再定義」された日米安保の突出が、アジアにおける地域的安全保障の枠組の形成をいかに阻害しているか。J・ガルトゥングがいう「NATOの東方拡大とAMPO〔日米安保〕の西方拡大」(『ジュリスト』2001年1月1-15日号の拙稿参照)は、世界の平和と安全にとって、「力の政策」を押しつけるマイナスの影響を与えることを知るべきだろう。東チモールとマケドニア。目立たない、地味な地域への軍隊の派遣問題。日本とドイツだけでなく、今後の世界平和にとっても重要な「試金石」の一つになるだろう。

※ 7月30日現在、反対議員は22人になった。