「海賊党」の躍進――日本では? 2011年10月10日

9月4日のドイツ旧東地区の北部メクレンブルク・フォアポメルン州の議会選挙の結果には驚いた。社会民主党(SPD)が35.7%(2008年選挙比較で5.5%増)、みどりの党が8.4 %(同5%増)で議席を獲得。左派党も18.4%(同1.6%増)を維持したのに対して、連邦与党のキリスト教民主同盟(CDU)は23.1%(同5.7%減)と自由民主党(FDP)は2.7 %(同6.9%減)と大敗した。特にFDPは5%阻止条項(議席配分の足切り)をクリアできず、議席をすべて失った。その党首が軍服を着て戦車師団のイベントに参加したことはすでに書いた。連立与党の不人気はどこでも共通である。そこで注目すべきは、極右の国家民主党(NPD)が6%(同1.3%減) と再び州議会に議席を獲得したことである。

旧東地区の州は失業率が高く、政治への失望がとりわけ大きい。極右のNPDKoblenz(西のラインラント・プファルツ州の都市と同じ名称)では33%、PostlowBlesewetz では28.9%の高得票をあげた。低い投票率と極右政党の高い得票率は、「政治嫌い」(Politikverdrossenheit)の典型的な兆候と見られている(Die Welt vom 5.9.2011)

9月18日のベルリン市議選(州議会の扱い)の結果はさらに衝撃的だった。SPDが28.3%(前回より2.5 %減)で第1党を維持し、CDUが23.4%(2.1%増)、緑の党が17.6%(4.5%増)、左派党11.7%(1.7%減)だったが、ここでも「海賊党」(Piratenpartei)が8.9%を獲得して州議会に初進出したのである。「海賊党」は、音楽などを自由にダウンロードさせろと主張している関係上、若いネットユーザーに広範な支持を集めたようである。なお、ここでも、連立与党の自民党(FDP)は1.8%(5.8%減)と、ついに「泡沫政党」になってしまった。

「海賊党」の名称は、CDの無許可コピーした「海賊版」に由来する。ホームページによれば、「党の目標」は、市民的自由、特にインターネットの権利の防衛、情報の自己決定、環境保護、(政治や行政の)透明性、社会的分与、オープンアクセス、情報の自由法、著作権の完全な廃止というよりは、私的なコピーの合法化を要求、特許権の否定、性や家族の政策、教育、自由で民主的に統制された技術的インフラ、デジタル生活への参与などである。
   あまり整理された主張とは思えないが、著作権や特許権への否定的な評価は、「海賊版」の政党の所以だろう。インターネット規制には敏感だが、外交政策や経済政策がほとんどないことも特徴である。党は自称「社会リベラル基本権政党」ということである(Frankfurter Rundschau vom 4.10;junge Welt vom 7.10.2011)

「海賊党」はスウェーデンが最初で、ドイツを含めて世界40カ国以上に存在する。ドイツでは2006年9月に選管に登録され、2008年以来、州議会選挙などに候補者を立てて活動を始めた。選挙における得票率は1%前後で、連邦議会選挙(2009年)における2%がせいぜいだった。それが、先月のベルリン市議選で一気に得票率8.9%、15議席を獲得したわけである。

ベルリンの選挙直後に、世論調査機関Fosaが全国レベルで行った調査によると、「もし来週の日曜日に連邦議会選挙が行われたら、どの党に投票しますか」という問いかけに対して、「海賊党」は7%を獲得している。実現されれば、おそらく連邦議会に30議席以上を獲得することになるだろう。「海賊党」を選ぶ理由としては、政治目標を挙げる人はわずか6%である。ほとんどがこの党を「抵抗政党」(Protestpartei)として支持している。国の政治や既存の政党に不満を持つ人々の受け皿になっている面がある。また、「海賊党」を支持すると答えた人の前回選挙での投票行動は、CDU16%、FDP13%、緑の党11%、SPD10%で、30%が棄権者または前回は選挙権がなかった若者だった。選挙に参加しない人々(積極的な棄権者(Nichtwaehler)を含む)の支持を得ていることは注目される。

ちなみに先の全国レベルの調査において、FDPは2%と最低の支持率で、5%阻止条項(足切り)をはるかに下回り、次回の国政選挙で議席を失う可能性が濃くなってきた(以上、Die Welt vom 28.9;die taz vom 3.10.2011 参照)。博士論文剽窃事件でも、FDPの議員が一番多いし、この党に展望はあまりない。メルケル政権の連立与党の議席喪失は、今後のドイツの政治に大きな影響を与えるだろう。

ドイツの政党配置において、今後FDPが消えて、「海賊党」がそこに取って代わるのだろうか。私はにわかに断定できないと思う。Die Welt紙のネット世論調査の設問のなかに、「あなたは海賊党が、真面目にとるべき政党だと思いますか」というのがある。結果はイエスが52%、ノーが48%とほぼ半々だった(10月7日現在)。意表をつく名称と、ネットからの誕生というその出自から、市民にまだ真面目に受け止められていない節がある。

「海賊党」代表のS.Netzへのインタビューは、その意味で興味深い以下、Frankfurter Rundschau vom 4.10.2011)Netzは、この新党の経験不足を率直に認めながら、左右の対立構図の打破について語っている。「我々はネット政党ではない。我々は基本権党である」。こういってネット規制に反対している。自らを新自由主義ではなく、伝統的なリベラルであるとしている。インターネットは「アラブの春」に見られるように、新しいネットワークの可能性をもたらすし、情報交換し情報を操作する新しい可能性をもたらし、我々の社会を変えていく。この党はまた、すべての政治過程の「透明性」を要求している。ただ、ネットから生まれているので、男性が多い。女性を増やすことは大切であるとしつつも、クォーター制には反対している。性による不平等をもたらし、実質的な同権を創出しえないから。

「海賊党」の議員たちの職業、出身など多種多様である。ネット関係の技術者や大学入学資格をとったばかりという19歳も含まれている。平均年齢は34歳。市議会前で撮影した「海賊党」ベルリン市議(州議)たちをみてみると、全体としてラフな恰好をしている。靴もスニーカーである。候補者リストのトップに据わったA.Baumは、「反政治家」(Antipolitiker) を標榜している(Welt vom 7.10.2011)

かつてはCDUSPDFDPを加えた3党体制が長く続いた。80年代に緑の党が加わり、4党制へ、そして左派党の登場で5党制になったところに、「海賊党」の登場である。多党制への傾きを示すのだろうか。
   私は、「海賊党」の躍進は、1979年秋、ドイツのチュービンゲン市で目撃した、緑の党の市議選の運動とダブる。緑の党もその出発点の頃は初々しく、素人っぽかった。ヘッセン州議会や連邦議会に登場したときの緑の党議員たちも、セーターにスニーカーという出で立ちだった。幹部のJ.フィッシャーが同州環境大臣の宣誓を行ったときは、スニーカーをはいていた。その現物が、歴史博物館(ボン)に展示されているのを見たことがある。そのフィッシーも1998年にシュレーダー政権の外相になったときは、常に高級スーツにネクタイだった。

「海賊党」は今後とも、若者や、選挙に棄権してきた人々の支持を受けて、一定の議席を獲得していくだろう。どのような展開をたどるかは未知数である。
   翻って、日本の場合を考えてみると、今後、タレントや一見不真面目な名称の新党があらわれて、ツイッターやフェイスブックなどで若者を投票所に向かわせたとき、大きな政治変動が起こる可能性も否定できない。いま、野田内閣の政権運営はあまりにもひどい。国会を早々と閉じて、「秋休み」と称して外遊に向かう政治家たち。東日本大震災復興特別委員会のメンバーが衆議院はオーストリアなどに、参議院はアメリカへ。被災地は復興どころか、復旧もままならないなかで、一体政治はなにをやっているのか。まともな復興の展望を出すこともなく、増税だけが先行している。人々の怒りは深く、静かに沈殿している。

日本でも今後、既存の政党をトータル否定する新たな政党が生まれ、ネットやメディアを巧みに利用しながら、驚くようなテンポで影響力を拡大していくかもしれない。

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