権力は人事である――トランプ政権の正体が見えてきた
2016年11月28日

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力の本質は人事にあると言われる。安倍首相もこの「快感」を覚えてしまって、内閣改造を重ねながら権力強化を進めている。第3次安倍第1次改造内閣の乱造のすごさについてはすでに論じた(直言「お友だち政治の頽廃―安倍乱造内閣」)。その第2次改造内閣(2016年8月3日発足)の19人の閣僚のうち、早大法学部出身者が4人もいるというのはかつてない多さである。しかも、何かと話題の多い農水大臣や防衛大臣が含まれており、あまり(かなり)愉快ではない。90年代末からの「行政改革」で「多すぎる大臣」が問題にされ、1府22省庁から1府14省庁への削減が行われ、内閣法2条2項改正(「国務大臣の数は、14人以内とする」、特別に必要ある場合に「17人以内とすることができる。」)に至った経緯からすれば、「特命大臣」や「オリンピック」枠の例外を使って19人を目一杯使っているのは、中央省庁再編前の「多すぎる大臣」への逆行ではないのか。大臣ポストを1つ増やせば、副大臣、政務官と、「ありつくポスト」が増えていく。閣僚人事は、党内に対して絶大なる力を及ぼす。「お友だち」になれば、議員3期目でも大臣ポストが転がり込んでくる(稲田朋美氏の例)。

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党内だけでなく、官邸が官僚機構を存分にコントロールするためには、高級官僚の人事が有効である。2014年5月に設置された内閣人事局は、永田町と霞が関の関係を一変させた。国家公務員人事は内閣の権限と責任で行われるが(日本国憲法73条4号)、事務次官以下の一般職国家公務員(事務方)の人事については、役所の自律性が一応尊重され、政治は表向きの介入を控える慣行が続いてきた。その後、各省の幹部人事については官邸が一括して行い、政治主導(「政治手動」)の行政運営を実現するという建前で、内閣人事局が誕生した。「幹部職員人事の一元管理」の徹底により、安倍官邸への各省庁の忖度と迎合は一段と進んでいる。霞が関の合同庁舎8号館5階にある内閣人事局の看板は、議員3期目にして大臣ポストを得た稲田内閣府特命担当大臣の「作品」である。「人」という字にその「個性」がよくあらわれている。

2013年8月に内閣法制局長官人事に介入して自らの「お友だち」に首をすげかえた安倍首相は、人事介入に前のめりになっていく。そして、「7.1閣議決定」(集団的自衛権行使の合憲の解釈変更)に至るのである。もはや安倍首相にたてつく官僚はいなくなった(かに見える)。なお、自衛隊トップの河野克俊統幕長(「政治的軍人」)が部内の昇進見込みに反して「続投」になるのも、官邸(特に安倍首相)の意向が反映しているようである(『軍事研究』2016年12月号市ヶ谷レーダーサイト)。

安倍首相の大の仲良しの一人、トルコのエルドアン大統領は、7月の「クーデター未遂事件」以来、国中に「人事粛清の嵐」を吹かせている。3000人近い裁判官が解任され、軍人や警察関係などを含む公務員が15000人も免職され、160以上のメディアが閉鎖されている。ドイツ「緑の党」代表Özdemirによれば「民主的外観をもった独裁の現代的態様」(Die Welt vom 31.10.2016)とされるエルドアン政権のほか、安倍首相の「お友だち」は、ロシアのプーチン大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領、インドのモディ首相(「インドで誕生した『安倍派』の新首相」PRESIDENT Online 2014年9月1日号)など増えつつある。いずれも強引な人事をやることで知られる。安倍首相は、トランプ次期米国大統領に世界のどの首脳よりも最速で会って、「信頼することのできる、信頼できる指導者であると確信した」という熱いラブコールを送った。安倍首相自身、「ワンマンタイプの大統領や首相に好かれる」と周囲に漏らしており、与党幹部は「〔トランプと〕案外気が合うかもしれない」と述べたというが(『毎日新聞』11月15日付)、自らがその「ワンマンタイプ」だという自覚がないようである(「我が党においては結党以来、強行採決をしようと考えたことはありません」という10月17日 衆院TPP特別委員会)。また、萩生田光一官房副長官が、「首相はおぼっちゃま育ちの割には不良と付き合うのが上手だ。荒っぽい政治家と堂々と話すことができる」とも発言した(『時事通信』11月24日配信)。首相を「おぼっちゃま育ち」、トランプ次期大統領やプーチン大統領らを「不良」と認識していることになる。もし外国の政治家を「不良」と言ったわけではないと言い逃れるならば、国内で「不良と付き合」っているのであろうか。

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マスコミはいま、そのトランプ新政権の人事に注目している。それ自体がトランプの狙いだろう。皮肉にもメディアがトランプを当選させたといわれている。とにかく過激な話題の「ネタ」さえ提供すれば、勝手に宣伝してもらえる。米国内には、「私の大統領ではない」(Not My President)の声は消えやらず、ヒラリー・クリントン候補が実際の得票数で200万票以上上回っていたことが判明するに及んで(米インターネットメディア「クック・ポリティカル・リポート」調査・BBCニュース11月24日より)、英国のEU離脱(Brexit)による「大後悔時代」のような気分がさらに広がっているようである。票の再集計などの動きしだいでは、トランプ大統領の「正当性」は問われ続けるだろう。そういう時にメディアの関心を引きつけるには、人事プランの断続的発表にかぎる。一度に公表せず、1月20日まで2カ月あるので、その間に小出しにしていけば、メディアの報道を有利にもっていける。トランプは実業家だから、彼にとっての人事は、利用できる人(もの)は徹底的に利用し、冷徹に利潤最大化を追求していくだろう。話題性や意外性は必須である。必要となれば、組織にとって決定的にマイナスでも、あえて「水と油」の組み合わせも選択するに違いない。女性の閣僚は刺身のツマ程度に添えて、本体部分はトランプ政権の本質がよく見える人物が就任していくだろう。トランプの女性蔑視思考は、『ル・モンド・ディプロマーティク』の論稿が示すように、並外れた水準にある。

すでに内定している顔ぶれをみても、この政権の危なさは並みではない。国家安全保障担当補佐官のマイケル・フリン(退役陸軍中将、元国防情報局長)はイスラム教徒排斥の急先鋒といわれ、国防長官に名前が出ているジェームズ・マティス(退役海兵隊大将、元中央軍司令官)は「狂犬」と呼ばれている。そして、司法長官のジェフ・セッションズ(上院議員)は不法移民への強硬策で知られ、CIA長官のマイク・ポンペオ(上院議員)はイランとの核合意破棄を主張している。保守派のティーパーティー運動に関わっている。商務長官のウィルバー・ロス(著名投資家)は知日派だけに、日本の「骨までしゃぶる」政策をとってくるかれしれない。メディアはあまり注目しないが、国土安全保障省(ホームランド・セキュリティ)長官に、クリス・コーバッハ(カンザス州内相)があてられる予定である。彼は司法省の役人時代、NSEERSという、出入国管理に関わる手続を厳格化するシステムの創設に関わり、その再導入・強化をトランプに提言したようである(Süddeutsche Zeitung vom 22.11)。

なお、合衆国最高裁のアントニン・スカリア判事が今年2月に急死したことに伴い、最高裁判事の1名もトランプ次期大統領が任命する。2015年6月26日の同性婚「合憲」判決は5対4の僅差だった。トランプが極右の判事を任命すれば、憲法をめぐるさまざまな分野で大きな後退が起こる可能性がある。

ところで、この政権の特徴として、「君主制」の一面が指摘されている。トランプタワー(宮殿)内の最上階の金縁の椅子で、君主のポーズでCBSのインタビューを受け、娘のイヴァンカ夫婦とともに安倍首相に「謁見」するなど、まさに君主的スタイルである(Der Monarch, in: die tageszeitung vom 23.11)。安倍首相はそうしたスタイルを演出するために、いいように使われたわけである。

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「もう一つの右翼」("Alt Right")運動というのがある。白人至上主義、移民排斥、人種主義、孤立主義をとり、米国のネオナチともいうべき存在である。その幹部のリチャード・スペンサーの演説を見つけた。38歳の若さで、極右のシンクタンク、国家政策研究所 (NPS)理事長である。11月22日にワシントンD.C.で行われた集会での演説で、米国が今後、白人国家として創造され、繁栄し、継承されていくべきだ、と明らかにオバマ大統領を意識した演説をしている。「十字軍」や人種的「純粋さ」などを強調し、最後は「ハイル トランプ」「ハイル ピープル」「ハイル ヴィクトリィ(勝利)」(ドイツ語では「ジーク・ハイル」)と叫んで右手(グラスをもっているが)を斜め前に掲げるのが確認できる(YouTube映像の29分18秒あたりから)。会場の参加者のなかには、「ハイル ヒトラー」の敬礼でこたえる姿も写っている。

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スペンサーとも関係のある保守系サイト「ブライト バート・ニュース」会長、スティーブン・バノンがトランプ政権の戦略担当顧問に就任する。当初は大統領首席補佐官の声もあったが、さすがのトランプもこのポストは避けたようだ。しかし、トランプ政権は極右団体の強い影響が確認できる。選挙戦でこれらの団体の支持を受けて当選した以上、人事でも配慮を加えざるを得ないわけである。日本会議と安倍政権の関係によく似ている。

前回の直言で、ドイツの週刊誌Der Spiegelの欧州右翼ポピュリズム政権地図を紹介したが、いよいよ来週12月4日にオーストリア大統領選挙の再投票が行われる。「トランプ」後の最初の重要選挙である。ホーファーが当選すれば、欧州の7つ目の右翼ポピュリズム政権となる。Brexit(英国のEU離脱)に続く、Öxit(オーストリア〔Österreich〕のEU離脱)になるか。米国の状況をみて、ポピュリズムの方向に傾いていた有権者が踏みとどまる可能性もある。そうしたなか、ドイツのメルケル首相が11月20日、来年の総選挙にCDU首相候補として出馬することを表明した。「トランプ当選」が背中を押したことは明らかである。ヨーロッパとドイツを背負ってトランプと向き合う覚悟だろう。しかし、与党内は複雑である。常にメルケルと対立する副首相で、姉妹党のキリスト教社会同盟(CSU)党首のホルスト・ゼーホーファーは、「トランプ次期大統領をいつでもバイエルン州は歓迎するだろう」と述べ、具体的には来年2月17〜19日にミュンヘンで開かれる「安全保障会議」に、トランプ次期大統領を招待する意向を示した(Die Welt vom 24.11)。難民問題でも地球温暖化問題でも、ゼーホーファーの意見はトランプのそれに近い。ベルリンの連邦政府の頭越しに、バイエルン州首相が単独でトランプを招くというのは、明らかにメルケル首相へのあてつけである。

トランプはいま家族とともにフロリダの別荘にこもって政権人事を進めているという。まさに権力の私物化(家族化)であり、米国は「家産国家」(Patorimonialstaat)になるのか。安倍首相もそれに学んで、さらなる「お友だち」人事を進めていくのだろう。2017年は悪い冗談で開けるのだろうか。

(文中敬称略)

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《付記》

英国の調査研究所YouGovが、EU12カ国におけるポピュリズムの状況についての研究結果を公表した(Die Welt vom 21.11.2016)。それによると、ポピュリズム(政党)に対する支持率がドイツが18%と最も低いのに対して、ポーランドが78%、フランスが63%、オランダが55%という高さである。ポピュリズムを支持するのは60歳以上の男性、高等教育を受けていないという傾向も出ている。なお、ノルウェー、ハンガリーとスロヴァキアでは政権党になっているのに、この調査では落ちている。

12月4日にはイタリアの憲法改正国民投票が行われる。戦後70年続いたイタリア共和国憲法の147カ条ある条文のうちの39カ条が修正、削除、追加される。国民は憲法の条文の何が改革に役立つのかについて判断することは困難といわれ、結局、憲法改正にイエスかノーかよりも、レンツィ首相の「改革」に賛成か反対かになっているという(Frankfurter Rundschau vom 27.11)。大きな「改革」は上院の議席を3分の1にするもので、「政治のムダ」という大衆受けする論点である。 315人にいる上院議員を100に減らす。予算承認権や政府の不信任権も失う。スピード感あふれる政府運営が可能になるというわけで、いずこも似たような傾向である。首相は否決されれば辞任するという捨て身で臨んでおり、冷静さを失った憲法改正国民投票の一例として歴史に残るだろう。


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