日航123便墜落事件から32年――隠蔽の闇へ
2017年8月7日

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日は「8.6」ヒロシマ、水曜日は「8.9」ナガサキの72年である。そして、土曜日は「8.12」、日本航空123便の墜落から32年である。今回はこれに関する新刊について書く。

その前に、第3次安倍第3次改造内閣の発足について一言。メディアは先週までの追及モードから一転して、「新大臣への期待」といったぬるいテーマに移行した。「情報隠し、争点ぼかし、論点ずらし、異論つぶし、友だち重視」の安倍的統治手法は、時に重点を移動しつつ展開されていくから、3日の記者会見での「謙虚に丁寧に」の超低姿勢や、「友だち」以外からの閣僚任命なども想定の範囲内である。この政権にとって、国民の「忘却力」が存続のための栄養である。「大衆の受容能力は非常に限られており、理解力は小さいが、そのかわり忘却力は大きい」ヒトラー『わが闘争』第6章)。当面、憲法改正の押し出しは控え、不都合な真実は棚上げして、論点ずらしに力を入れていくだろう。「一億総活躍社会」だの「女性活躍」だのと、目先をちょくちょく変えて論点ずらしをはかる「厚顔無知」に徹している。今回は「人づくり革命」とやらで、等しい教育機会の提供や社会人の学び直しを進める施策ということなのだが、これは維新の会が主張する「大学教育無償化のための憲法改正」に連動させていく狙いだろう。

省内の不祥事で頭を下げる各省大臣ポストを一度も経験せず、官房長官と幹事長だけで総理大臣となった人物が、昨日、記者会見で初めて頭を下げた。8秒間も! これは都議選での大敗北という垂直的「ねじれ」が生まれなければあり得ないことだった。「ねじれ解消」からの脱却のあらわれともいえるが、楽観できない。神妙な顔をするのも時間の問題だろう。昨日の「広島平和記念式典」の挨拶も例年通り、心のこもらないものだった

さて、7月24日、青山透子さんの著書第2弾『日航123便墜落の新事実――目撃証言から真相に迫る』(河出書房新社)が出版された。青山さんとは、21年前、法学館・伊藤塾の第6回「明日の法律家講座」(PDFファイル・1996年5月18日)で講演した際、偶然知り合った。青山さんは元日本航空国際線客室乗務員で、1985年8月12日に墜落した日航123便で殉職したのは、国内線時に同じグループで仕事をしていた先輩たちだった。

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青山さんは2010年5月、『天空の星たちへ――日航123便 あの日の記録』(マガジンランド、以下、前著という)を出版した。123便墜落から25周年を前に、この事件を風化させてはならない、これは単なる事故ではない、ということを訴えるものだった。私は14年間レギュラーをやったNHKラジオ第一放送「新聞を読んで」のなかで、123便墜落について触れたことがある(なお、放送内容は『時代を読む――新聞を読んで1997-2008』(柘植書房新社、2009年)に収録)。2000年8月13日早朝の放送、「日航機事故から15年」である。「直言」では、「日航123便墜落事件から25年―『天空の星たちへ』のこと」をアップして前著を紹介した。その年の「8.12」には、「日航123便はなぜ墜落したのか」を出して、5つの「なぜ」という形で多くの疑問点を指摘した。そして、これが「事故」ではなく、「事件」であることを明確にした「直言」も出した(「「日航123便墜落事件」から30年」)。

今回の新著『日航123便墜落の新事実―目撃証言から真相に迫る』は発売1週間で重版になっている。「8.12」を目前にしたタイムリーな出版ということもあるが、普通の航空機事故とは違って関心が高く、多くの人があの日テレビで映し出された光景を思い出し、事故原因についてもどこか吹っ切れない思いを抱き続けているからではないだろうか。きっとメディアでも話題になると思う。本書の新しさは何か。これから読者になる方のために、「ネタバレ」にならない範囲内で私が注目した点を指摘しておこう。

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第1に、墜落機となってしまった飛行機の前で撮った若き日の著者の写真が収録されていることである。撮影者は、8月12日に亡くなったアシスタントパーサーの対馬祐三子さん。めったに開けることがない左側最後尾L5ドアの機外に接続された搬入用タラップに立つ著者の背後には、偶然にも墜落機の機体番号JA8119がはっきりと写り込んでいる。対馬さんとは、その写真を撮った時に同じグループに所属していたこともあって、機内アナウンスの指導をしてもらったという。自らの写真を墜落機とともに世に明らかにしたところに、真相解明への著者の覚悟と気迫を感じた。

第2に、副題にもあるように、新たな目撃証言の発掘だろう。前著をきっかけに、この事件に関与したと思われる人々から青山さんへの直接・間接の情報提供があった。一市民、個人の調査には限界があるが、彼女の執念が点と点を結んで線となし、複数の線を結んで面に仕上げ、さらに面を複雑に組み合わせて、事件の立体像に、前著よりも数歩近づけたように思う。詳しくは本書を読んでほしいが、一つは上野村の人々の目撃証言である。2年前の「直言」では、「小さな目は見た―出版後に明らかになった事実の話」として、著者の調査結果を紹介していた。本書ではさらに資料を加えて、多角的に分析している。

公式発表では航空自衛隊のファントム2機の出動命令が出たのは19時1分である。だが、現地上野村の人々は、123便が墜落する前、まだ明るい時間にファントム2機を目撃していたことが明らかになっている。ファントムを出したが、墜落場所は一晩中特定できなかったという自衛隊側の主張は怪しいということになる。墜落前、「大きな飛行機と小さいジェット機2機が追いかけっこ状態にあった」と、複数の子どもたちが親とともに目撃している。時間は18時45分頃である。なお、18時40分に、非番の自衛隊員もファントム2機を目撃している。すべて123便の墜落前の時間帯である。ファントム機が百里基地を19時5分に飛びだったという公式発表とは明らかにズレがある。

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墜落現場は上野村であると特定する報告がなされていたにもかかわらず、テレビやラジオは場所不明または他の地名(南相木村など)を放送し続けた。一晩中、墜落現場を特定できず、地上では警察や機動隊などはあちこちに分散して捜索を行っていた。にもかかわらず、御巣鷹山にはサーチライトをつけたヘリコプターが多数飛来して、煙と炎のあがった山頂付近を旋回するのが目撃されている。あの時、墜落現場では人命救助ではなく、それよりも優先すべき何かが行われていたとしか考えられない。その「時間稼ぎ」のために、墜落現場の特定を意図的に遅らせたのではないか。そのことに気づいていた人物がいる。群馬県上野村の黒沢丈夫村長(当時)である(写真は『読売新聞』2012年3月24日付夕刊)。黒沢村長は著者の数度のインタビューに対して、中曽根康弘首相(当時)の動きに対する疑問を表明された。「元海軍少佐で、戦闘機で訓練飛行中に墜落して九死に一生を得た経験がある」黒沢氏としては、同じ海軍出身の中曽根氏のことに憤懣やる方ないという思いがあったようである。黒沢氏は6年前に97歳で亡くなった(『毎日新聞』と『読売新聞』の2011年12月24日付)。生前、著者の調査にきわめて好意的に対応してくれて、いろいろと励ましてくれたという。さらに、上野村立小学校の校長は、ファントム2機を目撃した証言を収録した文集に「小さな目は見た」というタイトルを付けた。将来の世代が、疑惑解明をしていく可能性に賭けたのかもしれない、と著者は感じている。

第3に、遺体の状況の不自然さである。「筋肉や骨の完全炭化が著明であった」(群馬県医師会活動記録)とされているが、著者は群馬県警察医の大國勉氏や、法医学者の押田茂實氏に何度も取材して、緑多く、木々が茂る山中に放り出された生身の肉体が、歯を含む骨まで炭化するほど焼けるのかという疑問に、前著よりも具体的かつ詳細に答えている。詳しくは本書を直接読んでいただきたいが、一点だけ指摘しておくと、ジェット燃料のケロシンは灯油とほぼ同じ成分で、揮発性が高く、人を炭化させるほど燃焼することはない。当日、早い時間に現場に入った消防団の人々によると、ガソリンとタールの臭いが充満していたという。ジェット燃料ケロシンの臭いとは明らかに異なる。なぜその臭いだったのだろうか? これも本書に譲る。

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第4に、前著のグラビアに出ている後方の窓から見える黒い点である。前著を出してから、画像解析の専門家に調べてもらったところ、これはオレンジ色をした物体で、周辺の空気の変化から、後方から熱を発していることがわかった。これが何を意味するのか。今回、新たな目撃証言にも出てくる「赤い物体」、そして上野村で飛んでいた「赤い飛行機」というのがポイントである。これも本書を直接お読みいただきたい。

著者は亡くなった同僚・先輩への思いを胸に、21年もの間、個人で調査を続けてこられた。今回、「事故ではなく、事件か」という立場を、本書の帯で打ち出した。先に結論ありきではなく、一つひとつ事実を積み上げて、ご遺族や一般の方々が納得出来るように、慎重に書き上げている。それに共感を持つ読者も増えてくるのではないか。

しかしながら、政府はこの事件の場合、「情報隠し」を徹底している。安倍内閣は4年前に特定秘密保護法を制定した。この法律で60年を過ぎても秘密にしておくという、先進国には珍しい「還暦条項」がある。国民に絶対明かさない、明かせない秘密がある。その一つが「123便事件」の真の原因であると思われる。青山さんのこだわりは事故原因の再調査をさせること、これに尽きる。一人でも多くの方がこの問題に関心をもっていただくために、本書をおすすめする。なお、青山透子公式サイトも参照。

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