「総理が「平成30年4月開学」とおしりを切った」から——歪められた行政の現場へ(その2)
2018年11月19日

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10月14日、学会の合間をぬって、日帰りで今治まで行った。前回(6月25日)は加計学園の獣医学部見学が目的で、それは直言「「ゆがめられた行政」の現場へ—獣医学部新設の「魔法」」にまとめた。これは夕刊紙『日刊ゲンダイ』7月11日号や、ジャーナリストの高野孟氏のコラムなどで紹介された。今回は、加計学園問題を調査・追及している「今治市民ネットワーク」に取材するのが目的である。情報公開条例などの手段を使って、地道にこの問題を追っている点はかねてより注目していた。6月25日に獣医学部を取材して、3階の図書館に本がほとんどなかったことを7月9日付「直言」で書いたが、市民ネットの皆さんも7月26日にその図書館などを視察している。冒頭の写真はその時のものである。1カ月前に私が撮影したものと比較していただきたい。大講義室の工事もほとんど進んでいないことがわかる。1年生の授業が4月に始まっている。大講義室がなくて、哲学や文学などの一般教養の大講義ができるのか。

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図書館に本が8000冊しかないことは、「直言」で世に知られるようになったが、1カ月でその状況はまったく変わっていない。専門書が皆無で、向こうが見通せる書架。これを大学図書館と言えるのか。教養本についても、冒頭左の写真を、マウスの右クリック「リンクを新しいウィンドウで開く」にして、写真を拡大していただきたい。私の著書もあるが、選書の貧困さは、町の公民館以下である。左の方には警察官や消防官の受験参考書が並ぶ。古本屋の棚の本をゴソッと買ってきて並べたような、最高度の獣医学部の教養本の書架とは思えないお粗末さである。学部図書室のレベルにも達していないが、階段横には、「3F図書館」の表示がある

教室も不十分、本もほとんどない。なぜこんな悲惨な状態で授業が始まってしまったのか。読者の皆さんもご記憶だろう。松野博一文科相(当時)が昨年6月20日、萩生田光一官房副長官(当時)が2016年10月、文科省幹部に対して、「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた。」など、早期開学を迫ったことを記した文書を公表した(『毎日新聞』2017年6月21日付)。すべては安倍晋三首相の「拙速」癖である。図書館も教室も不十分なまま、2018年4月開学をごり押ししたために、こんなことになったのではないか。

加計学園獣医学部新設をめぐる疑惑について、とうの加計孝太郎理事長は何も答えていない。10月7日の記者会見もひどいものだった(「勇み足」について30分20秒から)。愛媛県文書に記された安倍首相との面会を「記憶も記録もないわけですから、会っていないと思います。」と否定した。一連の県文書も「みていない」という不誠実な態度だった(『朝日新聞』2018年10月8日付)。2015年2月25日に加計氏が首相と面会し、首相が「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」とコメントしたという学園からの報告内容が愛媛県文書には記されていた。加計学園は、「面会は実際にはなかった」として、渡辺良人事務局長が県に謝罪していた。10月7日の記者会見で加計理事長は、渡辺事務局長が新設の話を前に進めるため、「勇み足で誤解を招くようなことをした」と述べた。まさに「アベ天動説」である(直言「「アベランド」—「神風」と「魔法」の王国」参照)。

10月14日に取材した今治市民ネットワークは、この間、情報公開条例に基づく情報開示請求、行政不服審査、住民監査請求などの手段を駆使して、この問題に迫ってきた。そのなかで発見された「4.2復命書」が国会でも取り上げられ、加計学園問題として世に知られるようになった。市民ネットの地道な活動の成果といえる。今治市民ネットの活動については、「加計獣医学部問題取組一覧表」を参照いただきたい。また、その活動についての新聞報道や、行政を相手にした交渉など様子は、ここをクリックしてください

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なお、今月はじめ、岡山に旅行に行ったゼミ生から携帯に写真が届いた。岡山駅前にある加計学園の宣伝広告塔である。ゼミ生が思わず撮影してしまったというそのキャッチフレーズは、「どこか普通と違っていませんか」である。加戸守行元愛媛県知事が獣医学部の入学式で挨拶したなかにあった「魔法にかけられたことによって産まれた獣医学部」という表現とも響きあう。また、今月、ネットオークションで「加計学園の手さげ袋」をゲットした。100円で、郵送代の方が高かった。加計学園の記者会見用バックパネルの煙か雲のようなロゴは、「たんQくん」というのだそうである。「興味と関心がモクモクと沸き立つ姿」を象徴するとのことだが、このロゴのついたパネルの前で記者会見する学園トップが、「記憶も記録もないわけですから、会っていないと思います。」と語るのを見ていると、単に「煙にまく」象徴としか思えない。

ともあれ、私がこれ以上書くよりも、ずっと個人で情報開示の活動を続けてきた村上治さんに、この「直言」のための一文を書いていただいた。その原稿を以下に掲載する。法律の素人の市民が、法的手段を駆使して行っている活動のすごさを実感できるだろう。なお、村上さんが情報公開請求で開示させた膨大な文書は、ここから見ることができる

加計学園問題をめぐる情報公開請求の活動

村上治(今治市民ネットワーク)

2016年11月に今治市議会を傍聴したとき、数年前から足しげく市議会をウォッチしている方から、市議会国家戦略特区特別委員会(加計誘致委員会)で「とんでもないことが起こっている」という話を聞いた。傍聴が許されているこの委員会が、毎回早々に秘密会の委員協議会に切り替えられ、市民に見えない形でことが進められているというのである。彼はこの動きに対して危機感を持っているという。早速私は、11月22日、加計学園獣医学部新設に関連する情報開示請求を行い、12月6日、10cmの厚さになるファイル3冊分の開示を受けた。その後は彼と行動を共にして、2人の小さな運動へとつながっていった。

開示請求の回数が一桁台のころは、市当局もコーヒーを出してもてなしてくれるなど「歓迎」の姿勢をみせていた。開示された文書の整理と新聞報道の情報を追いかける日々が続く。問題点は何なのか。自分の読解力不足を嘆きつつ、毎日毎日、開示文書を読み、思いつくままに開示請求を重ねていった。今治市企画課と愛媛県地域政策課を中心に、文部科学省、日本私立学校振興・共済事業団など、気がつけば270件ほどの情報開示請求になっていた。

こうして入手した開示文書は、当初はDVDにコピーして、関心をもってくれそうな国会議員に郵送していた。その後、「公文書」は一般に公開すべきだと考えるに至り、入手したデータを「グーグルドライブ」で公開することにした(ここをクリックすると270件の開示文書が読める)。

そのかいあって、文書を見た森ゆうこ参議院議員が、首相官邸を加計学園事務局長と愛媛県職員、今治市職員が訪問した「4.2復命書」の問題性を抉り出した。膨大な文書のなかから核心を見抜く眼力はさすがである。私たちは、県・市職員が首相官邸を訪れたことの何が問題なのかがわからなかった。

2016年12月6日に開示された文書は、④以外は黒塗りの部分開示だったが、その後、市は加計問題に関する報道量が増えるに従って開示をしなくなっていった。
①2016年8月3日起案の「H30.4月開学予定」と書きこんだスケジュール表は2017年7月に非開示にした。
②「6.5復命書」は黒塗のない、新たな改ざん「6.5復命書」を開示した。
③「4.2復命書」の部分開示が、2017年12月21日には非開示となった。
④16.8haの土地の無償譲渡、補助金の交付のいずれも、今治市議会と加計学園理事会「それぞれの議決等がなされたときに効力が生ずるものとする」とした基本協定書13条の加計学園議決書は一貫して非開示である。

情報開示請求などの小さな運動を続けるなかで、4月23日に市企画課長らを呼んで加計問題を「聞く会」との運動接点などを経て、2017年9月11日に「聞く会」を核とする「今治市民ネットワーク」結成に参加した。「聞く会」は、長年にわたり教科書採択問題に取り組んできた人や、安全保障関連法の違憲性を問う本人訴訟を行っている人など、さまざまな市民グループと県議会議員からなっていて、「市民主催の『4・23聞く会』がなければ今治市が4月5日に会場を抑え急ごしらえの『4・11市民説明会』もなかった」、との実績を持つ。

①と④については既に書き上げていた行政不服審査請求書を9月20日、市に提出した。

9月20日に提出した④の審査請求(13条審査請求)に対する市民ネットの参加人申請を市が拒否したため、11月6日に改めて市民ネット名で④と同じ情報開示請求を行い、市の非開示決定を経て12月7日に行政不服審査請求を行った。

市民ネットは全員が法律にそれほど精通してはいない。行政不服審査については、宇賀克也『行政不服審査法の逐条解説』(有斐閣、2015年)、総務省行政管理局編『逐条解説 行政手続法——公正で透明な行政をめざして〔増補新訂版〕』(ぎょうせい、2002年)、室井力他編『コンメンタール行政法I 行政手続法・行政不服審査法〔第2版〕』(日本評論社、2008年)、市条例逐条解説などを読み込み参考に、手さぐりで、反論書作成などを行ってきた。

そうしたなか、市民ネットとして、前川喜平氏(元・文部科学次官)の講演会をやろうということになり、獣医学部誘致問題「シンポジウム実行委員会」に呼びかけて、同年12月初旬、「前川喜平氏講演会実行委員会」を立ち上げた。正月をはさんだ2か月間、新聞への取材要請、タウン誌への折り込み、街宣、市公会堂の懸垂幕の手づくり作成・設置などの活動を行った。2月3日の講演会は、市公会堂始まって以来の1200人もの人々が参加した。今治市や県内各地はもとより、広島県、大分県からの参加もあり、関心の高さを今治市に見せつけた。

2018年3月9日、②の「6.5復命書」について虚偽公文書作成及び同行使の罪で市長ら11人を松山地検に告発した。2016年12月の部分開示※1)文書を、2017年6月2日のそれは全部開示用に改ざんしたものだった。なぜ改ざんをしたのか。

2017年3月、内閣府は、6.5国家戦略特区WGヒアリング議事要旨(WGヒアリング要旨)を公開した。その際、内閣府地方創生局から今治市に「指示メール」が届いた。「国家戦略特区WGは全部公表する」「市も今後は部分開示にできない」と、全部開示用に作り変える必要に迫られたのである。だが、今治市は3月以降も、報道関係者からの開示請求に対しては、虚偽文書を開示していた。

この「6.5復命書」については愛媛県も改ざんしていた。市と同様に内閣府からメールがあり、2016年の「6.5復命書」に2017年3月のWGヒアリング要旨そのものを付ける改ざんを行った。公開請求は2017年5月25日から2か月後の7月25日の公開※2)決定であった。私たちは愛媛県地域政策課に出向き、改ざんの不正を糺したが、県の担当者は煮え切らない言い訳を重ねるばかりだった。

注:開示※1)、公開※2)は今治市、愛媛県のそれぞれの条例の用語に依っている。

数々の文書のなかでも、「4.2復命書」が重要である。2015年4月2日に首相官邸、地方創生推進室で加計学園の渡邊良人事務局長、高石淳愛媛県地域政策課長、秋山直人今治市企画課長等が「今治新都市への獣医師系養成大学の設置に係る内閣府地方推進室及び総理秘書官との協議」で2018年4月開学に向けた今後のやり方について指南を受けた日の復命書である。この「4.2復命書」に対して、私たちは2018年3月28日、行政不服審査請求書を提出した。

愛媛県の「4.2復命書」は2017年5月に公開請求した時点で、高石淳課長(当時)が「特に軽易なもの(保存期間1年)」という決裁ですでに廃棄していていた。中村愛媛県知事の思惑は計り知れないが、その「4.2復命書」は、2018年5月21日、参議院予算委員会の要請に応じて、「備忘録」に入れ込んで提出するに至った。

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7月26日、市民ネットは加計学園獣医学部の視察を行った。3階の図書館の本棚にはほとんど本がなく(冒頭の左の写真参照)、加計学園が参加型臨床実習に狙っている野間馬(今治市文化財)の模造紙ポスターが貼られていたのが印象的であった。大講義室(A3)も土台ができた段階だった(冒頭の写真右参照)。

私たちが食堂で昼食をとっていると、吉川泰弘獣医学部長が自動販売機の所にお茶を買いにあらわれた。私たちは、BSL3実験室(注:バイオセーフティレベル分類のレベル3に相当する病原体を扱う実験施設のこと。レベル3は人に感染すると重篤な疾患を引き起こす)がないとの噂があるがそれは本当かと質問した。学部長は、「部屋はあるがその施設はない。9月初旬に設置の予定だ」と答えた。「微生物軍事研究の懸念があるが」との質問に対しては、「日本学術会議の方針に従うので行わない」ということだった。

市民ネットでは、情報開示を求める活動とともに、住民監査請求の活動も行うことにした。住民監査請求は市民ネットだけでなく、請求人公募を一つの運動として行うべく、記者発表した。その結果、18人の請求人が集まり、10月30日、事実証明書(証拠)として、厚さ3cmにもなる今治市開示公文書や報道資料などと共に「今治市職員措置請求書」として提出した。この住民監査請求では、監査委員が、市職員OBや与党市議会議員で構成されて形骸化していることから、「監査委員の監査に代えて、個別外部監査契約に基づく監査」を求めた。意見陳述は、申し入れていた「公開」で、11月22日に約2時間で行うこととなった。通常、公開では行われていないことであり、報道・取材を記者にメールで要請した。

前述の2017年9月20日付及び同年12月7日付13条審査請求の方は、反論書、口頭意見陳述を経て、2018年8月27日に裁決書(13条裁決書)が私たちのもとに届いた。主文は「本件審査請求を棄却する」であった。どのような審査が行われたのかを知るために、「13条裁決書の作成・その過程を含む全関連文書一切」の開示請求を8月30日に行い、9月10日開示された(13条裁決過程文書)。

裁決書は棄却理由をもっともらしく作文しているが、議事録が示す開示請求文書の同定根拠はまったく不十分なもので、獣医学部建設地近くの断層の問題、建設地真上の震度6強地震帯には一切触れていなかった。

この13条裁決過程文書からは、以下のように、条理なき審査会の状況も見えてきて、きわめて問題な審査実態が浮き彫りになった。審査内容もさることながら、その審査手続が適正手続(憲法31条)に違反するものだった。

13条裁決過程文書の一つである議事録によれば、審査会開始前に処分庁(13条文書の非開示決定をした企画課)を同席させていた。今治市情報公開審査会規則(規則)は、3条「審査会の会議は、会長が招集し、会長がその会議の議長となる。」と定める。議事録には処分庁を出席させた審査会で、審査庁庶務担当の総務調整課長が「本日の委員会は、平成29年4月に委員の皆さまが新しく選任されまして初めての会となります。したがいまして、会長が不在でございますので、会長が選任されるまでの間、私が進行させていただきますので宜しくお願いします。」とあり、この日に集まった委員で会長を互選している。

ここまではよいとしても、規則第3条の「会長が招集」を行わず、前出の総務調整課長が「全員が集まりましたので、ただいまから今治市情報公開審査会を開催」と宣言するなどは規則の定めた手続ではない。談合ともいうべき混沌とした審査会風景である。この様は、権力が恣意的に行使されるのを防止するための適正手続(憲法31条)に違反しているのではないか。

深刻なのは行政不服審査法(行審法)を全く理解していない審査庁並びに審査会であるということである。処分庁及び審査庁はいずれも当事者性が高い今治市長であるから、第三者性が問われるべきは調査審議手続の適正さと公正性を担う審査会(行審法81条3項規定の読み替え)である。なかんずく審査会長の責任は重大である。議事録からは、行審法はもとより審査請求根拠の今治市情報公開条例、同条例に連なる「情報公開事務の手引き」などは歯牙にもかけず、審査庁・処分庁に追従するための発言が続いていることがわかる。法に照らしての質問や意見は皆目ない。これでは、行審法81条等が定める審査会の調査など、およそ期待すべくもない。

以下、13条裁決過程文書が示す「問題の現場」を列挙する。
・審査庁並びに審査会は審査会議開催の手続規則に違反(規則3条)
・審査庁は、原処分非関与職員の構成であったか(行審法29条)
・審査庁は請求人に対する証拠書類返還を怠った(行審法53条)
・審査庁から請求人への審理手続終結通知を不履行(行審法41条)
・審査会は、請求人の口頭で意見を述べる機会を奪った(行審法75条)
・審査会は、請求人の書面等の提出による主張及び立証権を侵害(行審法76条)
・審査会は、請求人の資料の閲覧及び交付請求権を侵害(行審法78条)
・審査会から請求人は答申書の写しを受け取っていない(行審法79条)

条例に基づく審査会(諮問機関)であっても、行審法が国および地方公共団体の双方の裁決手続過程に一律に適用される以上、「調査審議手続の適正さ及び公正性を確保し得るような運営がなされなければならない」(前掲『コンメンタール行政法I 行政手続法・行政不服審査法』558頁)。審査会が違法手続に基づく答申を自らが取り下げる「自己反省機能」が試されているのである。

ちなみに、今治市情報公開審査会長は憲法・地方自治法の現職の教授である。13条裁決過程文書は、法律違反山積の貴重な資料になるのかもしれない。

今治市の「加計症候群」(病根=加計事案は不適正行政手続がまかり通る)は随所から膿が噴き出てきて、病状はさらに悪化している。加計獣医学部前の「横断歩道橋設計(1641万6000円)」のボーリング等調査は、契約や覚書もなく、加計敷地内地点も市の公費で行っている。10月7日の記者会見で柳澤康信が発表した「野間馬保全プロジェクト」も、今治市抜きで進行している。

(2018年11月13日稿)

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