安倍政権のほろびへのほころび――総裁3選党則改正の効果
2019年11月18日

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後日(11月20日)、安倍晋三首相は、桂太郎の在職日数2886日を抜いて、日本史上最長の宰相(大災相?)となる。そんなタイミングで、安倍政権の「末期まつごの風景」がいろいろと見えてきたように思う。

先日、衆議院で売られている『新しい時代の晋ちゃんまんじゅう』が研究室に届いた。第4次安倍第2次改造内閣記念のお菓子である。これまでもこのシリーズを紹介してきた。一番古いのは、『アメノミックス』(2014年7月発売)という飴。食べなかったので、味のコメントはなし。次いで、『ねじれ解消餅』(賞味期限2014年12月17日)。胡麻風味でけっこうおいしかった。『晋ちゃんラッキートランプせんべい』(賞味期限2017年8月2日)は、メープル風味がちょっと強かった。『晋ちゃんせんべい2019(平成ありがとう)』(賞味期限2019年9月5日)はごく普通の瓦せんべいで、元号が空白になっていたが、5月1日に「令和」になったので、短期間の販売となったようだ。今回届いた「第4次安倍第2次改造内閣饅頭」は、皮がパサパサしておいしくない。孫にあげると、一口食べて、もういいと断られた。

この改造内閣は、9月9日に台風15号が千葉を直撃し、大規模停電が起きているなかで組閣されたものである。台風一過の猛暑が続き、停電で冷房がダウンした高齢者施設では、熱中症で亡くなる人も。国民の命に関わる「いま、そこにある危機」が迫っているのに、政権維持のためだけの改造にうつつを抜かす。台風19号による「東日本大水害」への対応も、あきれるほど遅かった。不適在不適所。それが、この饅頭の包み紙にも反映したようである。冒頭の写真を拡大してご覧いただきたい。後列中央の経産大臣と、中列左から2人目の法務大臣の顔がもう消えている(現状に合わせて手を施してみた)。後列右の文科大臣の顔が半分危うい。なお、この饅頭の賞味期限は12月19日だが、それまでに何人の顔が消えているだろうか。

最強の権力もいつかは滅ぶ。きっかけは、権力内部の小さなほころびであることが多い。安倍政権の滅びへの綻びが、大臣辞任の連鎖とともに、そこかしこにあらわれてきた。長期政権の腐敗と腐朽の膿が、日々、噴き出している。これは「直言」で3年前に予期したことである。安倍総裁が自分のために自民党の党則80条4項(総裁3選禁止規定)を改正して3選された結果、長期政権の病理と生理がことごとく顕在化する深刻な状況に立ち至っている。

「潮目」が変わったのは、11月8日、参議院予算委員会における田村智子議員(共産党)の質問からだろう。参議院のインターネット中継で見たが、冒頭から一気に核心に入り、証拠を突き付けて、首相を追及する。安倍後援会関係者のブログやツイッター、新聞の「首相動静」など多数の資料を積み重ねて迫る手法も見事だった。19分52秒あたりからは切れ味抜群である(YouTubeはここから)。「党派を超えて、数年に一度の素晴らしい質疑だったと思います。少し長いかもしれませんが、やり取りに引き込まれて、あっという間に感じます。」(枝野幸男・立憲民主党代表のツィート)。

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11月14日放送の報道ステーションが伝えた安倍首相の「桜を見る会」での挨拶には驚いた。「皆さんと共に政権を奪還してから7回目の「桜を見る会」となりました」。これが税金を使った首相主催の行事で使う言葉だろうか。野党議員や与党を支持していない著名人も招待されているにもかかわらず、これではまるで自分の後援会総会の挨拶ではないか。逆にいえば、こういう言葉を気楽に発せられるほどに、「こんな人たち」の側にいる人々は招待されていないということだろう。この挨拶のこの下りこそ、「桜を見る会」が、広義の「安倍晋三後援会」の大イベントに変質していることを集中的に表現している。

この10日ほどの間に、「桜を見る会」はニュース番組だけでなく、ワイドショーでも時間をかけてとりあげられるようになった。安倍政権にダメージになるテーマが、ここまで詳しく取り上げられるのは、2017年の森友学園問題や加計獣医学部問題以来のことだろう。

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国民の関心が高まった背景には、視聴率をとれると見込んだワイドショーまで参入するくらい、消費増税直後にもかかわらず、税金の使い方があまりにもいい加減だということがまずあるだろう。1766万円の予算にもかかわらず、毎年これを超過して、ついに2019年は5518万円と3倍以上の執行超過である。「約1万人」の招待者に合わせた予算が、招待者の数が安倍政権下で急増。今回は1万8200人にふくらんだ。ところが、驚くなかれ、2020年の概算要求は5728万円。「招待枠」の拡大のなか、予算の枠など眼中になく、とうとう現実に合わせて5000万超を要求する図々しさである。

どんな人が招待されているのか。内閣府の「開催要領」には、「招待範囲」として、皇族、各国大使から閣僚、国会議員、認証官まではすべて招待されるが、事務次官や局長、都道府県知事・議長はいずれも「一部」となっていて、すべてが招待されるわけではない。そして「その他各界の代表者等」とあり、「計約1万人」となっている。1万8200人は普通の感覚では「約2万人」だが、「桜を見る会」では「約1万人」ということになる。例年、各国大使や知事などで約2000人ということなので、それ以外はすべて「各界の代表者等」ということになる。この「等」は安倍政権で加筆された。法律学は「等」の使い方に慎重であり、少なくともスポーツや芸術など「各界」で功績や功労があったと認められた人物ということになる。

ところが、今回明らかになったように、安倍首相の後援会員が850人も招待されている。なかには毎年招待されているとブログに書き込んだ山口県の地方議員もいる。たまたま首相が支援者を招待したというようなものではなく、組織的かつ計画的に安倍首相とその側近政治家たちの選挙区の支援者を毎年招待してきたことが明らかとなった。東京の名所見物(5コースから選択)と高級ホテルでの「桜を見る会前夜祭」、翌朝バス17台で移動して、一般招待客よりも1時間近く早く、手荷物検査抜きで新宿御苑に入り、首相夫妻と記念撮影という特権的扱いを受けるという周到さである。また、閣議決定で「私人」とされた昭恵夫人枠まであって、自身が経営する居酒屋「UZU」の関係者まで招待されているという。

暇ではないが、「桜を見る会」の動画(1時間20分)を本稿執筆の必要性から、全体を見てみたが(YouTube)、まるで「アイドルのファンミーティング」という形容がぴったりするほどに、安倍夫妻のファンクラブの様相を呈している。招待者たちとハイタッチを繰り返し、園内を巡る。桜と安倍夫妻とともに撮影できるスポットを二カ所セットして、それぞれ10人くらいの支援者がスタンバイ。その間を首相夫妻が何度も往復して撮影を行う(『毎日新聞』デジタル11月15日)。ここまでやるか、の世界である。

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各界で功績があった人や功労者などを幅広く招待し、慰労するという目的を大きく逸脱し、実質的な後援会活動の場となっている。この首相には、「公」というものへの自覚がない。しかも、自分を批判する言論から擁護してくれるネトウヨ的人物も招待されていることはすでに報道されている(上記の写真参照)。加計学園客員教授の上念司やケント・ギルバートも常連である。

「こんな人たち」がほとんどいないファンクラブと化した会場で、安倍首相は挨拶のなかで身震いするような一句をよんでいる。「給料の上がりし春は八重桜」(2014年)、「賃上げの花が舞い散る春の風」(2015年)などは、アベノミクス賛歌に強引につなげたものだろう。2017年はモリ・カケ問題の矢面に立ったことから、挨拶で、「今年の前半は本当に風雪に耐えているなあと、この観を強くしてきたわけでございますが、ここで一句思い浮かびました。」として、「風雪に 耐えて5年の 八重桜」(首相官邸のホームページ)とよんでいる。春に風雪、季語もめちゃめちゃ、何と自分中心なことか。ちなみに、今年の一句は、「平成を 名残惜しむか 八重桜」である(ため息)。

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期せずして、「桜を見る会」という首相主催の行事が、安倍政権の滅びへの綻びを際立たせることになったのは皮肉である。余裕もなくなり、焦りとイライラから、野党の質問者に向かって、見苦しいヤジを飛ばすことが続いている。安倍首相は自民党則に手をつけて、3選された後は、何の抑制も気にすることなく、憲法も法律も蔑視して、思うがままに逆走してきた。「桜を見る会」自体は1952年、吉田茂首相のもとで、各国大使などを招いた対外的な社交の側面が強かったが、今日では税金を使った権力私物化のデモンストレーション以外の何ものでもない。

私は、安倍流「5つの統治手法」を、①情報隠し、②争点ぼかし、③論点ずらし、④友だち重視、⑤異論つぶしと特徴づけているが、全体を貫いているのが「前提くずし」である。ルールなんか屁とも思わない「無知の無知の突破力」はますます磨きがかかってきた。権力の私物化は格段に進んでいる。3年前は直言「権力の私物化と「生業としての政治」」)を出したが、今日の状況はもっと深刻である。

忖度していただきたい

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安倍首相は、「桜を見る会前夜祭」が会費5000円では無理と指摘されると、いつもは記者黙殺なのに、二度ももどってきて、態度だけ「丁寧に」説明していた。ホテル宿泊者が参加する会だからホテル側が配慮したというが、これはおかしい。ホテル側は「立食の最低料金は1万1000円」というから、差額供与の疑いもある。安倍事務所で負担したら、公職選挙法199条の2の寄附行為にあたる疑いがある。一人ひとりがパーティ代をホテルに直接払うことは考えられない。まさか官房機密費(報奨費)に手を出すことはあるまいが。また、後援会活動をしているわけだから、その経費は政治資金収支報告書に記載されている必要があるが、これがない。それゆえ、首相は、これらの問題についてきちんとした説明をする責任がある。しかし、安倍首相は、同じ言葉を繰り返すだけで、何一つまともな説明をしていない。青木理『暗黒のスキャンダル国家』(河出書房新社、2019年64-65頁)にこうある。故岸井成格さんが番記者として担当した安倍晋太郎(元外相)は生前、息子である現首相をこう評して苦笑いをしていたらしい。「こいつはね、言い訳をさせたら天才的なんだよ」と。

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この「言い訳の天才」に忠告や箴言をする政治家は、自民党内にはいないのだろうか。2017年6月時点では、防衛大臣をやった中谷元氏が、「あいうえお」といって、安倍首相を諫める言葉を発したことがあった。いま、「おごり」は頂点にまで達し、「桜を見る会」で露骨な「えこひいき」をやっても何も感じなくなっているようだ。

普通の首相なら、「桜を見る会」の私物化が明瞭になった段階で辞任しているだろう。11月15日夕、唐突にぶらさがり会見が行われた。それだけ焦り、追い詰められているということだろうか。出席者名簿を大急ぎで廃棄した安倍政権。官僚たちは、首根っこを内閣人事局に抑えられているから、いまは何もいえず、ただ面従腹背なのだろう。しかし、官僚たちも我慢の限界に近づいているのではないか。「綻び」があちこちに生まれている。それがスキャンダルになり、また大臣が辞任する。

憲法研究者の蟻川恒正は、森友学園問題における公文書の改ざんの問題を論ずるなかで、「全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」(憲法15条2項)ところの公務員の仕事は、「政治家に「お仕えする」ことでも、政治家とその身内を守ることでもない。・・・文書管理を含めた日常業務を真面目に行うことである。そうすることが、公務員が「全体の奉仕者」でいられる最低限の方法である。現在「行政権の行使」(憲法66条3項)に当たっている内閣が壊したのは、「行政権」(憲法65条)そのものである。」と指摘している(「(憲法季評)文書改ざんの構造―公務員の「常識」を壊すな」(『朝日新聞』2018年4月14日付))。「桜を見る会」は、実にわかりやすい形で、公の死滅、権力の私物化を見せつけている。野党によって追及される内閣府の役人たちを見ていると、森友、加計のときと同じことが繰り返されてはいないか。「安倍政権の7年+1年」によって、この国の公行政も歪められ、壊されている。2006年9月25日の直言「「失われた5年」と「失われる○年」―安倍総裁、総理へ」を出してから13年。「無知の無知の突破力」こそ、この首相の本質であると思うに至った。この危ないトップを可及的速やかに取り替えない限り、この国の未来はない。

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