「反社勢力」に乗っ取られた日本――安倍政権7年の「悪夢」
2019年12月23日

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7年前の12月30日の直言「「憲法突破・壊憲内閣」の発足」を、この機会に読んでほしい。書き出しはこうである。「激動の2012年の大晦日である。今年もいろいろあったね、と感慨にふける余裕はない。先週の12月26日、「危機突破内閣」を自称する安倍晋三内閣が発足した。・・・その動きは性急で、かつ前のめりだ。そこに焦りすら伺える。閣僚の人選もそれに合わせて、2006年よりも安倍カラー(安倍空)が濃厚である。国民は、かつてない急角度の制度転換や、「みぞうゆう」(未曾有)の政治手法を覚悟する必要がある。・・・」 この「直言」で私は、「日本を、取り戻す。」というスローガンを掲げた第2次安倍内閣の発足を、「旧政復古の大号令」と特徴づけた。だが、これはいまから見ると不十分だった。どんな政権でも守られてきた一線を安倍首相は軽々と踏み越えて、2年前の「直言」で「憲法違反常習首相」という「称号」を授与された。

そして、昨年暮れの直言「安倍政権の「影と闇」―「悪業と悪行」の6年」では、この政権の際立った特徴として、「すさまじいばかりの「権力の私物化」」を挙げて、こう述べている。「安倍晋三という類まれなる「大災相」をトップにいただき、その配偶者の突き抜けた奔放さが矛盾と傷口を拡大している」と。昨年末のこの「直言」では、山口敬之についても書いている。冒頭右の写真にある『総理』(幻冬舎、2016年6月10日刊行)を古書店サイトで57円(配送料256円)で購入した。安倍晋三という政治家と「出会った当初からウマが合った」として、安倍との「至近距離」での付き合いを得々と綴った本である。山口は、2007年の政権投げ出しで落ち込む安倍を励まし、2012年4月に高尾山登山を一緒にした官僚たち(今井尚哉(経産省)、北村滋(警察庁)ら)と安倍復活に奔走する。7年前に誕生した安倍官邸はこの「高尾山登山メンバー」が中枢を占め、その一人である北村内閣情報官(当時、現在・国家安全保障局長)が、伊藤詩織さんに対する準強姦(現在は強制性交等罪)容疑で逮捕状執行直前の山口を、中村格警視庁刑事部長(当時、現在・警察庁官房長)を動かして救ったことは、いまや世界各国のメディアでも報道されるに至っている。山口の姉が昭恵夫人の聖心女子学院中・高等科、専門学校までの同級生で、中村は菅義偉官房長官の元秘書官だった。このような親密圏に支配されるいまの日本は、裁判官が発給した逮捕令状が執行されないという、法治国家にあるまじき、(犯罪)放置国家の様相を呈している。まさに警察権力の私物化である。

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この事件の経緯を見ても、警察・検察の動きの不自然さは尋常ではなく、特別の力学が働いているとしか思えない。東京地検が不起訴処分にしたのは2016年7月22日。山口の著書『総理』(冒頭右の写真)が出版された1カ月後だった。検察官に起訴に関する広い裁量を与える起訴便宜主義(刑訴法248条)は、首相に忖度して「便宜」をはかるものに堕していないか。検察審査会でも、不起訴相当の議決が出されている。国内メディアがほとんど取り上げないのに対して、海外メディアはこれを大きくとりあげている(『ニューヨークタイムズ』2017年12月29日付が先駆け)。ドイツの『シュピーゲル』誌2019年11月2日号も詳しく扱った。

日本のメディアの対応がいま一つという状況のもと、伊藤さんは民事訴訟をおこし、その判決が先週、12月18日に東京地裁で出された。山口に対して330万円の支払いを命ずるとともに、山口の反訴を棄却する、伊藤さんの全面勝訴であった。テレビ朝日が「報道ステーション」やワイドショーで詳細に報じたものの、他局や新聞の動きはまだ鈍い。

しかし、海外メディアの扱いは破格だった。例えば、台湾の『自由時報』12月19日付は1面トップで伊藤さんの勝訴を伝え、10面(国際面)の3分の1を使って詳しい解説を行っている。1面では「安倍御用記者」という見出しが付けられ、10面では「安倍と友好関係を保つ記者」という表現になっている。同じく台湾の『蘋果(ひんか)日報』同日付は、冒頭右の写真にあるように、13面すべてを使って大きく伝えている。「日本版MeToo」が目を引く。「安倍御用記者に92万元の賠償判決」。さらに、『聯合報』同日付を見ると、山口の写真は使っていないが、10面(国際面)の記事で「安倍御用記者」と紹介していた。日本のメディアよりも海外メディアの方がこの判決に注目し、その意義を高く評価している。もっとも、18日の勝訴判決を境に、ネットの反応も変わりつつある。山口を擁護してきた評論家や若い政治家たちも沈黙を始めた。伊藤さんが、セカンドレイプに対して法的措置をとるという反転攻勢に出たことが大きい。

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この写真は、13年前の第1次安倍内閣発足を前に、「初の単著」として出版された『美しい国へ』(文春新書、2006年)とそこに挟み込んであった新聞切り抜きである。参院選に惨敗した直後のものが多いが、この頃は「低姿勢」を示すこともあったようだ。いまの安倍首相は、中国や北朝鮮のことを批判できないくらい、「安倍ご一党」の放漫・強権政治の甘い果実をむさぼっている。「構造的忖度」が定着して、首相の直接の指示はまったく必要ない。いま、官僚機構は自動忖度装置に堕している。それに伴い、腐敗・腐朽はさらに進んでいる(総務省と日本郵政、カジノ疑惑等々を見よ)。安倍首相の地元、下関市は元秘書が市長をやっているが、安倍首相の等身大パネルを市内9カ所の観光名所に設置した(『毎日新聞』11月22日付)。ここまできたか、である。

この政権は7年をかけて、5つの統治手法を徹底してきた。すなわち、(1)情報隠し、(2)焦点ぼかし、(3)論点ずらし、(4)友だち重視、(5)異論つぶしであり、憲法蔑視の「前提くずし」である。マックス・ヴェーバーのいう「政治家の資質」の真逆の、安倍晋三の政治家「逆資質」、すなわち、(1)狭量・狭隘、知的好奇心の著しい欠如、(2)人を信用しない、極端な疑心暗鬼、(3)おべんちゃらをいう取り巻きへの無警戒と過度の依存、(4)執拗で粘着質な敵愾心、(5)強烈なコンプレックスの裏返しとしての過激な攻撃性をフル回転させている(直言「安倍政権が史上最長となる「秘訣」―飴と鞭(アベと無知)」)。とりわけ、権力者が自分のために自らの任期を延長する手法は、最大の禁じ手であり、自民党の党則80条(総裁3選禁止規定)に手をつけた段階で、この首相の「滅びへの綻び」は始まっていた、と私は考えている。

ところで、安倍政権の権力私物化はさまざまな綻びを見せている。11月8日の参議院予算委員会における田村智子議員(共産党)の「桜を見る会」質問によって、ハンドラの箱が開いたように思う。これまで「ヤマ・カケ・ヤマ・アサ」についての報道が鈍かったのに、「サクラ」が加わるやいなや、「潮目」が変わった。ワイドショーでも執拗に「桜を見る会」問題が報道され、メディアが避けていた「ヤマ」の問題、すなわち、「山口敬之(安倍御用記者)準強姦事件逮捕状執行停止問題」もトップニュースになるに至った。それとともに、もう一つの「ヤマ」、すなわち詐欺集団・ジャパンライフの山口隆祥元会長が「桜を見る会」に招待された件も、連日メディアで報じられている。山口元会長の招待状には、首相招待を示す「60」の分類番号がうたれている。このことから、マルチ商法の援助・助長・促進に寄与した安倍首相の責任が問われ始めている。山口敬之と山口隆祥元会長。二つの「ヤマ」が山場を迎えている。

「桜を見る会」は、権力の私物化の本質を、誰にでも理解できる形で明らかにしているといえよう。それは昭恵夫人の天然の奔放さが「貢献」している。シュレッダーにかけて消失させ、サーバーからも削除しなければならなかった「桜を見る会」参加者リストには、「UZUの学校」(校長昭恵夫人)の関係者など、「不都合な真実」がオンパレードだろう

シュレッダー処理、ネット上からの抹消といった、見え透いた「情報隠し」では足らずに、「反社会的勢力」が招待されている事実を否定できないと見るや、今度は何と、「反社会的勢力」の定義変更を行ってきた。12月10日、首相主催の「桜を見る会」への「反社会的勢力」の参加問題をめぐり、「反社会的勢力」について定義するのは困難とする答弁書を閣議決定した(PDFファイル)。「反社会的勢力」について、11月27日の定例記者会見で菅官房長官が、「反社会的勢力についてさまざまな場面で使われることがあり、定義は一義的に定まっているわけではない」と述べたことを確認したものだろう。

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しかし、2007年6月、当時総務大臣だった菅氏を含む第1次安倍内閣の全閣僚で構成されている「犯罪対策閣僚会議」が策定した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」においては、「反社会的勢力」について、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団・個人」と明確に定義されていた。安倍首相主催で、公金を使って開催されていた「桜を見る会」に参加していたとされる「反社会的勢力」については、「定義」を変更することで、「桜を見る会」への参加に問題ないという方向に誘導しようとしている。

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実際の現場では、「反社会的勢力」が「その時々の社会情勢に応じて変化し得るもの」というのはどう受け止められるだろうか。そうした団体に対処してきた警察や自治体の関係者はこの「定義」の相対化をどう考えるだろうか。現場では「反社会的勢力」への対応のノウハウは蓄積されている。「網羅的な確認は困難」というのなら、2011年までに全国47都道府県で制定された「暴力団排除条例」の運用はどうなるのだろうか。例えば、東京都暴力団排除条例(警視庁のサイト参照)は2011年3月18日に制定されたが、条例の基本理念は、「暴力団を恐れない」「暴力団に金を出さない」「暴力団を利用しない」プラス「暴力団と交際しない」である(なお、「交際しない」というのは憲法上もまったく問題がないわけではない)。

なお、警視庁のQ&Aには、条例24条3項(利益供与違反)にあたるケースとして、「ホテルや葬祭業者が身内で執り行う暴力団員の冠婚葬祭のために、会場を貸し出す行為」や、「コンビニエンスストアなどの小売店が、暴力団員に対して日常生活に必要な物品を販売する行為」、「飲食店が、暴力団事務所にそばやピザを出前する行為」、はたまた「新聞販売店が、暴力団事務所に新聞を定期的に配達する行為」「神社・寺院等が、暴力団員が個人として行う参拝等を受け入れる行為」などが並んでいる。まさに「交際しない」ということが問われる微妙なケースではある。

今年は吉本芸人による「反社会的勢力」の闇営業が大きな問題となった。芸人生命を失った人もいる。これからは「政府の見解では定義は困難なので「反社」とは言えない」などといって、責任逃れすることも可能だろう。安倍政権というのは、日本内外の極右的傾向と共鳴しあっているから、このままいくと、東京近辺に「幸福の科学大学」が認可・発足するだろう。いま、日本の政府は、「反社会的勢力」によって乗っ取られ、操縦されているといっても過言ではないだろう。

《付記》
本文中に山口敬之『総理』の奥付に従い、発行日を2016年6月10日と書いたが、2017年6月7日の衆議院厚生労働委員会で柚木道義議員(民進党)が、山口の名前を挙げて、こう質した。「山口敬之さんの「総理」という本、これはもうベストセラーになっています。・・・この本が発売をされたのは、二年前の、六月の九日でございます。実際に、逮捕状の執行が直前で取り消しになったのは、その前日の六月の八日でございます。この本の発売の前日に逮捕状の執行が取り消されています。仮にそのまま執行されていれば、・・・この本の発売にも当然影響が及んだのではないか。もっと言うと、その後、このジャーナリストの方がテレビ等にさまざまに、安倍総理に最も近しいジャーナリストという位置づけでさまざまな番組に出られていた、そういうこともなかったのではないか・・・」と。政府参考人の吉田尚正・警察庁刑事局長は、「警察本部の指導によりまして警察署が逮捕状を執行しないという件数については把握をいたしておりません。」と答弁している。
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