「忘却力」に負けない――激動の2019年は2020年へ続く
2019年12月30日

追記:12月27日、安倍内閣は、中東海域への海自護衛艦などの派遣を閣議決定した。ホルムズ海峡に「有志連合」展開を求めるトランプにこたえたものだ。「日本独自」というが、 派遣先では区別がつかない。しかも法的根拠が圧倒的に弱い。8月19日の直言「「戦争の惨禍再び」―ホルムズ海峡「存立危機事態」?」で予測したなかでは、「防衛省設置法4条18号(旧防衛庁設置法5条18号)の「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」によって艦艇をアリバイ的に派遣する、安易で簡易な手法」が選ばれた。年越しの忘却を狙うタイミングで、民放のニュースが年末で縮小した時期を見透かすような閣議決定である。あまりにも姑息なやり方である。必要に応じて年明けの「直言」でも書くが、とりあえず上記直言をお読みいただきたい

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年最初の直言「末尾「9」の年には変動が起きる―2019年の年頭にあたって」では、2019年が激動の年になるだろうと予測した。「ヴァイマル憲法100年」、「世界大恐慌90年」、「第2次世界大戦開戦80年」「ドイツ基本法70年」と続き、何よりも「ベルリンの壁崩壊30年」であった。おそらく私くらいしか触れないであろう、「「バート・ゴーデスベルク綱領」から60年」もあった。いろいろな節目の年だった。

今年は、「終活」を兼ねた「断捨離」、をやって多くの書籍・雑誌を処分したが、31年間定期購読しているドイツ週刊誌『シュピーゲル』の整理・処分の際は、たくさんの発見があった。その『シュピーゲル』の先日届いた49a号(12月4日)は、今年を総括する特集号だった。冒頭の写真左がその表紙で、タイトルは「2019年代記―抵抗の年」である。副題には「大勝利・危機・反乱」とあり、英国総選挙、極右の台頭、地球環境や中東の危機、香港のデモなどが本文で紹介されるが、巻頭言は「若者たちの反乱」というタイトルで、スウェーデンの高校生グレタ・トゥンベリ(16歳)に焦点をあてている。この若き「環境活動家」がメディアや民主主義だけでなく、すべての人びとを挑発しているが、その先に何があるのか。混沌とした状況のもとで、グレタは「普通の高校生」にもどることができるか。時代は象徴的な人物を作り上げるが、彼女もその一人として消費されないことを願う。

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2019年の危機の原動力は、何といってもトランプの暴走だろう。メキシコ国境の「壁」を手始めに、世界中にさまざまな「壁」を生む原因をつくってきた。物理的な壁の建設だけではなく、人びとを引き裂き、対立させ、分断する「壁」思考の拡散である。しかし、そのトランプも12月18日、米国下院における弾劾訴追決議案可決により、史上3人目の「弾劾訴追を受ける大統領」となった。弾劾の権限は上院が「専有」しているので(憲法1条3節6項)、トランプが弾劾されることはまずない。この写真は、『シュピーゲル』51号(12月14日号)は弾劾特集号である。メイン論稿のタイトルは「不死身の人」。表紙には、オバマ前大統領の“Yes, we can” にひっかけて、“Yes, he can”とある。エンパイア・ステート・ビルによじ登ったキングコングの構図だろう。

ちぎれたEU旗。欧州の「小トランプ」たちの跳梁も著しい。特に英国の首相、ボリス・ジョンソンがたきつけた「EU離脱」(Brexit)をめぐって、英国総選挙ではジョンソンの保守党が大勝した。国民は「もう待てない」と、熟慮を欠いた選択をした。

さて、日本だが、安倍首相がトランプに迎合して、たくさんの爆弾を仕掛けられたが、年明けから、農産物や武器購入を皮切りに膨大な金額を搾り取られることが発覚するに違いない。確定申告が終わる来年3月15日までトランプは待ってくれない。納税者の怒りは消費税10%とともに一気に高まるだろう。

いま、「モリ・カケ・ヤマ・アサ・サクラ」の安倍疑獄が急展開をとげている。12月17日、大阪高裁は、森友学園への国有地売却をめぐり、国が売却額と8億円値引きの根拠を開示しなかったことを違法として、原告の市議に対して全額賠償を命令した。裁判所により、直言「安倍首相が壊した「もう一つの第9条」−森友学園問題と財政法」で指摘した論点が裏づけられたといえよう。また、「直言」で繰り返し指摘してきた「モリ・カケ・ヤマ・アサ」のうち、「ヤマ」について12月18日以降、局面が完全に変わった。「安倍御用達記者(山(ヤマ)口敬之)準強姦事件逮捕状執行停止問題」に関連して、東京地裁判決(民事) の影響はきわめて大きく、今後、昭恵夫人大麻(アサ)事件安倍晋三後援会の「桜(サクラ)を見る会」前夜祭事件等々、「魚は頭から腐る」という権力私物化の宿命が立証されていくことになるだろう。

と、ここまで書いてきて、本稿執筆中(12月25日)、内閣府副大臣をやった自民党衆議院議員が「IR」(統合リゾート=カジノ)に絡む贈収賄(→受託収賄罪へ)容疑により東京地検特捜部に逮捕されたというニュースが飛び込んできた。「12人の政治家」のリストが存在するといわれ、芋づる式に摘発が進む可能性がある。憲法50条の国会議員の不逮捕特権があり、国会開会中だと院の許諾が必要なので、通常国会が1月20日に召集される前のいましかない。安倍政権の目玉政策の一つである「IR」の本質はカジノである。人の不幸と不運に便乗して経済を活性化させるという動機がそもそも不純だった。そのことはすでに直言「カジノ賭博解禁法案の闇と影」でしっかり書いてあるので参照されたい。いずれにせよ、カジノを推進する人間たちの顔と正体がよく見えたクリスマスだった。

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『シュピーゲル』が2019年の事件として挙げている一つが、日本における新天皇の即位である。タイトルは「Banzai! 」だった。「直言」では、新元号の決まり方の不自然さについて論じた。即位に伴う大嘗祭の憲法的問題性については、前天皇(上皇)が危惧し、秋篠宮が意見表明していたが、安倍首相は「聞く耳を持たなかった」。安倍首相は、さすがに前の天皇ではできなかったが、いまの天皇については巧妙な政治利用をいろいろと仕掛けている。

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それにしても、12月21日の安倍首相には驚いた。冒頭右の写真をご覧いただきたい。安倍首相は「2019年報道写真展」を訪れ、「G20大阪サミット」の際にトランプと習近平の間に座る自身の写真にサインして満足げな表情でこう語った。「日本が世界の真ん中で輝いた年になった」(『毎日新聞』12月21日デジタル)と。自分が世界の中心で輝いたということを言いたいわけで、本当に大丈夫かと心配になる。「地球儀を俯瞰する外交」を自称しつつ、準備不足の粗雑な交渉、安易な妥協と先の見えない譲歩で、北方領土ではプーチンにしてやられ、沖縄、農産物から武器まで、すべてトランプの掌で日本は踊らされている(直言「安倍政権の「媚態外交」、その壮大なる負債(その2)―忖度と迎合の誤算」)。「地球儀を弄(もてあそ)ぶ外交」によって、日本は大きな損害を与えられている。中国や韓国との関係悪化の責任はひとえに安倍首相にある。そういう状態でも、右翼からの反発も少ない。今のところ「真正のバカ」呼ばわりされる程度で済まされているのだろうか(右側はSNSでアップされているトラックの写真。クリックするとリンク)。

安倍政権はメディアネットの巧みな操作と操縦により、国民の関心を先回りして「発見」して、それへの期待感を高め、それが一応の終了を迎えるや、直ちに、あるいは少し時間差を設けて新たな関心事へと国民を誘導していく。こうした焦点ずらしや論点ずらしは、他のどんな政権よりも長けている。ワールドカップ、世界陸上、東京五輪、即位礼正殿の儀など、今年はたくさんのことがありすぎた。あわただしく、十分な思考のいとまを与えることなく、次々に繰り出される「イベント」の数々。まさに「非日常の連鎖」は、人間の思考と判断力を麻痺させる。安倍的統治手法の5つのほかに、「非日常の連鎖」を加えたい。

今週はもう2020年である。元旦から、「今年はオリンピックの年」と安倍晋三は仕切り直しをかけてくるだろう。「桜を見る会」も「IR疑獄」もみんな忘れて、オリンピックに浮かれていいのか。それほど、日本国民は忘れっぽいのか。日本国民だけではない。ヒトラーの『わが闘争』にこうある。「大衆の受容能力は非常に限られており、理解力は小さいが、そのかわりに忘却力は大きい」(平野一郎・将積茂訳〔角川文庫〕上巻238頁)。「忘却力」とは原文ではVergesslichkeit(健忘症、忘れっぽさ)となっている(Adolf Hitler, Mein Kampf, 246./247.Aufl., München 1937, S. 198)。11年前にこの下りを引用して、直言「「忘却力」と憲法」を出した。とにかくナチスは「動いていること」(Beweglichkeit)を重視したので、人々の心をつかむために、さまざまなグッズを活用しつつ、集会や催しものをさまざまなレヴェルで頻繁に企画し、演説で気分を昂揚させ、そして考える時間を与えることなく行進が始まる。こうして、人間理性はどこかへいってしまう。だからこそ、忘れないことが大切である。これしかない。

東日本大震災9周年を前にして、安倍首相は復興庁を2030年まで存続させ、大臣ポスト1つを確保した。10年で復興するということで復興基本法は制定されたが、あと10年は復興させないというわけである。辺野古新基地建設を2030年まで先送りすることもほぼ同時期に決まった。この政権の本質は「いまだけ、金だけ、自分だけ」とよく言われるが、この政権に対しては、とにかく忘れないことが何より重要である。メディアはそのために奮闘する必要がある。もうこんな政権に忖度はやめよう。そうしないと、「3.11」の翌日、安倍首相は「在任3000日」となって、日本最長の首相を更新する。そんな「悪夢」を見ないためにも、「忘却力」に負けない、これが大切である。

読者の皆さん、よいお年をお迎えください。2020年も「直言」をどうぞよろしくお願いします。

(2019年12月26日脱稿)
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